1-9-B. 浮き足立つ僕ら
試験終了を告げるチャイムが鳴り響く。
それと同時に安堵のため息が教室に充満した。
長かった定期考査もようやく終了。
最後の科目は、個人的には嬉しい日本史だった。
事前の対策は思った以上に大当たり。
これは出してくるだろうと予想していた選択式の問題は、そのダミー選択肢さえも的中した。
祐樹たちが来ていた最中に何となく口にした内容だったが、果たして――。
「……おぉ」
視界の隅の方で何やら小さな影がもぞもぞと動いていた。
その正体が何かと思えば、大輔。
テレビの生放送中のカメラの前ではしゃぐ小学生のような動きをしていた。
何かと思いつつ顔を向ければ、大輔はこちらに向かってウインクなんてしながら、教室の天井に突き刺さるような勢いで親指を立ててきた。
どうやらバッチリ解答できた問題があったらしい。
それは良かったとばかりに、こちらもヤツにサムズアップを返してやることにする。
「……ん?」
そのまま前を向くかと思えば、大輔はガタガタと騒々しく椅子の上で座る向きを変えてきた。
「マジ、サンクス!」
「おお」
圧される。
「お前、スゴくね!? 出そうな問題当てるならともかく、一問まるごと当てるとかさ!!」
「たまたまだよ、たまたま」
ある程度は予想の範疇だったから言ったけれど、とりあえず面倒なのでそれくらいで流しておくことにした。
「次回も頼りにしてますぜ、海江田センセ」
「やめれ」
そこまでの信頼を受けてしまうと断りづらい上に、成果を出さないといけなくなるじゃないか。
これでも自分の解答だけで手一杯なのに――。
「おつかれーぃ」
「祐樹もおつかれー」
「……おう」
お次に寄ってきたのは祐樹だった。
彼も大輔ほどではないにしろ、ゴキゲンだった。
昨日の数学終わりのげっそり感とは全く違う。
心のゆとりのようなものも感じるくらいだ。
「どーよ?」
「そりゃあもう、大輔と同じだ」
「……やりますなぁ」
「いやいや、お前さんには敵わねえよぉ」
ふたりでめんどくさそうな寸劇を始めた。
どうせやるなら大輔の席でやってくれないかなぁ、なんてことを思っていると、祐樹ががっしりと肩を抱いてくる。
暑苦しい。
一応今週から制服が夏服への移行期間になっているとはいえ、暑苦しいことには代わりない。
「これからはテスト中の昼休みは瑞希んとこに行くことにした」
「……さっきも言ったけど、ボクにも勉強時間が欲しい」
「だったらさっきみたいに、オレたちに即席で問題を作ってくれればいい」
――カンタンに言いよってからに。
「中学の時とか、小テストの問題とか考えたことないのか?」
「無いっ!」
「あ、そう……」
ならばそれ以上は糠に釘を打ち込むことと同じ。
話はここで打ち止めだった。
「瑞希、そういうの経験あるん?」
「あるよ、中学ンとき」
「そんなんあったのか、しかも中学で……」
朝の自習時間みたいなところで生徒が作った問題を解くみたいなことがあり、その問題を作る担当になっていたことがあった。
委員会活動の一環みたいなものだった。
「でも、ほら。誰かに教えることでさらに学習効果が上がるっていう話もあるじゃん?」
「だったら、ボクに祐樹が教えてくれよ」
「ぐぬぬ……」
歯噛みする祐樹。
「ま、ちょっとだけなら」
「ありがたいー」
ぱっと表情が明るくなる祐樹。
さすがに断固として拒否するわけでもない。
ある程度ボクの時間も取らせてくれればそれでいい――。
そう言うが早いか、残念なことに担任の中本先生が戻ってきてしまい、それと合わせて祐樹と大輔は自分の席へと帰って行った。
できたら釘を刺しておきたかったが、残念だけれど今日はもうそんな時間は無いだろう。
間違ったって、来週返ってくるだろうテストの採点結果のことも、今は誰の頭にも無い。
何せ、全員が一応椅子には座っているものの、その足下は完全に宙ぶらりんになっているような状態だ。
気持ちが完全に浮ついている。
明らかにいつものテスト終わりとは違うのだ。
「せんせー、はやくー!」
「もう全自動放課後でいいよー!」
「わかった、っての! ちょっとは黙れっ」
窘めることは言っているが、そのセリフとは裏腹に先生もちょっと浮き足立っているような気がしてしまうのは、きっと気のせいではない。
去年も生徒に紛れて準備を嬉々としてやっていたことを、ボクは忘れていない。
祭り好きが集まる月雁高校。
学校祭準備のスタートはもうすぐだ。
ほぼ実話。




