1-9-A. クリームと群がる者たち
教室内の空気が少しずつ浮き足立ってきているような雰囲気を五感すべてで感じてみる。
話している内容は次の地歴のテスト範囲についてが七割で、残りは学校祭準備について。
今年で二回目になる前期中間考査は、やっぱり今年もこうなるんだなぁ、とか思いつつ、いつものパン屋さんで買ったパンにかじりついた。
糖分補給が大事だという、自分への言い訳のような甘さの練乳クリームが挟まったフランスパン。
カリッとした食感もさることながら、このクリームが絶妙。
甘いけれど、度が過ぎない。
きっちりとしたミルク感もあって、大きいけれど食べ飽きしないのだ。
ヘッドホンをしつつ、左手にパンを持って、自前の日本史ノートをめくる。
用語集の中で重要そうな語句は逃さずに記載をしたはずだ。
少しマニアックな――銀ちゃん先生が好んで入れてきそうなところも、ある程度は網羅したつもりだ。
余程のことがない限り、そしてこの記憶がどこかへ吹き飛んでしまわない限りは、赤点などとは無縁。
暗記系の科目はそれくらいの状態にしておかないと、昔から居心地が悪かった。
「んー……」
ぱりぱりと気持ちの良い食感に浸りながら、もう一ページめくる。
「ふむふむ」
「なるほど」
「はー……」
「……」
こっそりと音楽のボリュームを二段階ほど下げて、大して目も通さないままに次のページへと移る。
「あ、ちょ、早い!」
「待って、まだ右のページ見れてない」
「ウソ! オレなんてまだ左も読めてない」
「お前ら?」
ダメだ。もう少し我慢してスルーしてやろうと思ったが、思った以上に圧が強い。
おとなしく音楽を切って、いつのまにかボクの両脇と真後ろを固めていた祐樹、大輔、すみれの三人を振り向きざまに見遣る。
トリオ芸人のように、似たような動きで「あはは……」なんて言っている。
――と、さらにすみれの後ろにもうひとり分の人影があった。
仲條亜紀子だった。
大方ずかずかとボクの方に近付いていったすみれを止めようかどうしようか迷いながら、結局彼女についてきた、という感じだろうか。
「いやさ。ちょっとばかし最終確認を」
「お前らはこれの写しを持ってるだろ?」
「それはそれ、これはこれ」
「あはは……」
子どものわがままを窘める親みたいなことを言う大輔に、うんうんと満足そうに頷く二人。
そして苦笑いの亜紀子。
「とりあえず、一つ前に戻ってくれ」
「はやくー」
「待て待て」
悪びれることなく続ける祐樹とすみれ。
さすがにそこまでの面倒を見たくは無い。
「待てお前ら。ちょっとは人に勉強させる気はないのか」
「瑞希に限っては大丈夫だ」
ぐっと力強く親指を突き立ててくる大輔。
いや、そうじゃない。
「頼むから、それは自分に対して言ってくれないか」
「オレは自分が責任を取れることしか言わん」
「じゃあ、赤点取ったときにはどうやって落とし前付けてくれるんだ?」
「大丈夫、お前は取らない」
「……だからさぁ」
ダメだ、押し問答にしかならない。
テスト前からおかしなところで体力は使いたくないので、泣く泣くノートを彼らに明け渡すことにする。
「あ、そうそう。書いてて思ったんだけど、コレなんで黄色文字にしてんの? 用語集だと難関私大の入試で出てくるかどうかみたいな位置づけになってたけど」
「それは銀ちゃん先生が好きそうなワードだから、ザ・中間テスト対策ってヤツ。入試には出ないかも知れないけど、各学校の裁量なら充分あり得る」
「それもそうか」
大輔はただ丸写しじゃなくて、用語集も開きながらのノート書写の作業をしてくれていたらしい。
しかも『自分はやってない』ような雰囲気を装いつつ話しかけてきたけれど、きっちりと覚えるべきところは覚えているようだ。
「大輔ってさ」
「ぁん?」
「……鷹だよな」
爪を隠す的な意味で。
「……ん? あ、ああ、そういうこと? へへん、ようやく気付いたか」
「もう少し察しが良くなれば言うことないんだけどな」
「それは今後の成長に乞うご期待、ってことでひとつ」
「おう」
話を振っておいて適当に答えておいた。
「みずきくん、みずきくん」
今度はすみれだ。
「はいよ」
結局昼休みはパンを片手に、この四人と最終確認をすることになった。
訊かれたことに答えることで、ひとりで復習するよりはイイ勉強になったのは間違いない。
――そう思っておくことにした。
案外似た者三人衆。




