1-8-B. 思い出話に花は咲かない
「カッコイイことは、してないと思うけどね」
声が固くなりそうなのを必死に堪える。
考えるようなフリをして引きつりそうな頬を触ってみたりする。
ボクの声を聞いた平松さんが「え、そうなの?」と何でもない感じで受け取ってくれたところを見ると、彼女に対しては何とかごまかすことはできたらしいが。
それでも一抹の不安とか言われそうな、何かモヤモヤとしたものが胸の中にへばりつくように残っている。
「んー……。まぁ、私も誰かが話しているのをホントにチラッと聞いたというか、小耳に挟んだというかさ。そんな感じでしか聞けてないから。ウワサの真相を聞いてみたかったって話なんだけど」
「そもそもさ。『カッコイイことした?』って訊かれて、『ハイ、しました』って答える人っていると思う?」
「居るでしょ。……ほら、あそこのアレとかは絶対言うでしょ」
「……ま、そりゃ一部にはいるだろうけど」
平松さんの指差した先には、相も変わらずやかましい小野塚大輔の姿があった。
あそこのアレという物言いのエグさはともかくとして、たしかにアイツなら当然とばかりに自分の武勇伝を語りそうなものだが、根本的に彼奴とはキャラが違う。
ああいうタイプの空気の読み方はできないのだ。
本当のところ、平松さんが言う学校祭のかっこいいワンシーンについては、身に覚えがある。
恐らくは最後に聖歌と同じクラスになった中学一年の学校祭のことだろう。
それがかっこいいのかどうかは受け取る側の感覚次第なので、ハッキリとしたイエス・ノーを言うことはできない。
ただ、ボクの意思とは裏腹に好評を博してしまったことは間違いなくあった。
――正直、あまり良い思い出ではない。
だってそれは――。
「そ、そうだ。だったらあたしも美里に訊きたかったことあるんだけど……」
「お? なになに? 何だって話しますよ?」
「そっちの中学って学校祭で合唱コンクールってあった?」
「あったよ! あった……けどさぁ、けどさぁ!」
「え? 何か美里からものすごく怒りのオーラが……?」
「そりゃそうよ! あー、何か久々に思い出したらまたちょっと腹立ってきた! これは聖歌に聞いてもらうしかないっ!」
聖歌には珍しく、さらっと話題を変えてそのまま主導権まで持っていった。
挙げ句何やら平松さんの堪忍袋に触れてしまっていたらしく、話題の矛先がボクの方に戻ってくる事も無さそうだった。
あの調子なら地下鉄に乗って平松さんが先に地下鉄を降りていくまでは続きそうだ。
平松さんの思い出話は、その怒りのトーンも相まって周囲を惹きつける。
その中身は比較的よくある『男子が真面目に歌ってくれない』ところからはじまり、『高音パートと低音パートの音量比率がどうやってもおかしいので、人数のバランスを崩してみた』という身も蓋もない展開につながり、果ては『全員で投票して決めたはずの楽曲なのに、もう歌いたくないなどという意見が噴出する』なんていう完全崩壊した結末になっていた。
最初は「あるあるー」と笑っていた合唱部・吹奏楽部のメンバーも中盤当たりからはその地獄臭に頬が引きつり始め、最終的には乾いた笑いしか出なくなっていた。
「……で、それ結局どうなったの」
「そりゃもう、学年最下位ですよ」
三位以上は学校祭の中で発表され、それ以外の成績になったクラスには個別で伝えられるという形式だったらしい。
祭りの締めがそんな報告なんてイヤすぎる。
「それ、ホントに中二の時で良かったね……」
「そう! ホントそれ! やー、さすが瑞希くんは察しが早い。これが中三だったらホントもう、学祭の思い出が全部地獄よ。地獄変よ」
「……それはさすがに」
縁起でもないので、そこまで言われるとちょっと困る。
でも、クラス全員が神妙な顔つきになりそうな展開が中学生活最後の学校祭で起きるなんていうのは、どう考えても悪夢だっただろう。
聖歌のおかげでボクが話を向けられるということはなかったので、その辺はありがたかった。
だけど、聖歌がそれを意図して話を振ったのかどうなのかは、結局それぞれの家へと帰り着いてもなおボクにはよくわからなかった。
意味深 part.2




