1-6-B. タチの悪いヤツ
「それで、ですねえ、瑞希さま……」
今度は大輔の出番だった。
もちろん彼は手ぶらだが、その両手を何やら怪しげに揉んでいる。
「何だその揉み手は」
「いやいや、……あははぁ」
「お前もか」
「察しが良いなぁ」
「むしろお前さんの察しの悪さにビビるよ」
さっきもそうだが。
「ん?」
「いや、まだ解ってないのかよ」
「さすがに俺でも解るわ」
祐樹からもツッコミを受けるが、大輔はそれでもいまひとつ理解し切れていないらしい。
『わりとどうでもいい』で片付けることもできるが、何となくモヤモヤとしたモノが広がったままなのは据わりが悪い。
結局何で自分たちの状況に変化がないのかを平たく説明して、ようやく大輔も理解してくれた。
「やべえ。何かプリントアウトされたモノが配られる前提で考えてたわ」
「楽譜と違うぞ、お前」
「ああ、それだわ。部活のせいだわ」
「お前の勘違いのせいだろが」
祐樹はそう言うが、ちょっとだけ理解は出来てしまった。
普段から印刷されたモノが配られたりする機会が多いと、ついそういう風に思ってしまうのもそこまで無茶な発想ではない気がしてしまう。
「まぁ、いいわ。祐樹の後で良いなら」
「全然問題ナッシング」
テスト勉強の進度には問題無いのかと訊きたくはなったが、とりあえず保留する。
「じゃあ祐樹からそのまま受け取ってくれ」
「ん、わかった」
「ありがたいー!」
手を合わせて拝んでくる大輔。
祐樹も何故かそれに乗っかって拝んできた。
悪い気はしないが、背筋あたりがむず痒い感じもしてくる。
ちょっとそろそろ遠慮してもらいたくなってきた。
「で、俺からはもうひとつあってさ」
「ん? 次は何のノート? 文系科目は微妙だぞ?」
「違う違う、学祭の」
「そっちか」
大輔はウチのクラスの月雁祭実行委員のひとり。
独立で動くこともあるが、基本的にはすみれとボク――つまり学級委員長・副委員長の補佐役という位置づけになっている。
「次の委員会って行燈のだって聞いたんだけどさ」
案外真面目な話だった。
冬くらいから話すようになった程度の付き合いではあるが、だいぶコイツの特性も解ってきた気がするる。
結局『ウチの高校の生徒』っぽい生徒なのだ。
「そうそう。明日の放課後だから」
「了解。ひとまずそれを訊いておきたかっ――」
「あ、ミズキ居たー!!」
「うわっ!」「んぎゃあああっ!?」
廊下から教室いっぱいに響くボクを呼ぶ声。
廊下に背を向けていたボクと大輔が情けない反応をしてしまう。
立ち位置的に廊下側が視界に入っていた祐樹には、一連の流れが見えていたのだろう。
とくにうろたえるようなこともなく、ただちょっとだけ肩がぴくりと動いた程度で済んでいた。
うらやましい。
何が哀しくて教室内の至る所からの視線を独り占めにしなくちゃいけないのか。
ボクは何もしていない。
もちろん悪いことだってしていないのに。
そのパターンで行くと、巻き添えを食ってボク以上に情けない声を出していた大輔にも、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになる。
「な、なんだ」
半分へっぴり腰状態になりつつ、大声を出してきた張本人――高島神流に訊くと、神流はパシンと手を勢いよく合わせた。
どうも今日は合掌される日らしいが、何だってコイツは他のヤツらと比べても一挙手一投足が騒々しい。
「ノート貸して!」
「あ?」
どれだ。どのノートだ。
「ルーズリーフってことか?」
それならいくつかストックはあるが――と思ったが、そんなモノをわざわざ他クラスにまで貰いに来るだろうか。
一度は訊いてみたものの、さすがにそれは考えづらかった。
さてどうしたものかと思っている間に、何故かボクと神流の間に大輔がするりと入り込んできた。
さすがの小回りの良さだった。
「日本史ならダメだぞ。この後オレが先に借りることになってんだ」
「……あ、居たの?」
「むっきー!」
マンガの擬音っぽい表現を実際に口に出すヤツを、ボクは初めて見た気がする。
少し面白いとは思うけれど。
ただ、大輔にこれだけは言っておこう。
反応の有無は期待しない。
だけど、ヤツの小さな背中には、この言葉を戒めのように突き刺しておくことにした。
「お前さ、人のノートを自分のモノ扱いするのは止めてくれる?」
騒がしいヤツらですんません。
このシーン、次話以降にも続きます。




