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いちばん悪い魔女の弟子(仮)  作者: うみがめ
2/2

1.忌み嫌われる子

「レイ!村の井戸から水を汲んできておくれ」


「はい、分かりました」


台所にある取っ手付きの水瓶を2つ持ち、御屋敷を出て村の中心広場にある井戸に向かった。


最近は日が昇るのが早くなって、鳥たちもよく鳴くようになった。

木々は囁くように揺れ、風は心地よい。道のすみにちょこんと見える草には小さな蕾が綻んでいた。


「もう春か…」


少し肌寒く感じる日もまだあるけれど、服を着込む必要はなくなり、冬は完全に過ぎ去ったと言っていいだろう。



小さな青い小鳥がチュンと高く鳴いて、肩に止まった。

「おはよう、ティナ。今日はいい天気になりそうね」


水瓶を道のすみに置き、小さな巾着の中からパンを1切れ取り出し、食べやすいようにちぎってから肩に近づける。嘴でつつきながら食べ始めた。


この小鳥は毎朝、水を汲みに行く途中肩に止まり、広場に着くと飛んでいってしまう。

飼われているわけでもなさそうなので、勝手にティナと名付けた。

パンを与えるとその次の日も肩に止まり始め、懐かれたので毎朝パンをあげるのが習慣になっている。

今日も広場に着くと羽を大きく広げて空へと飛んで行ってしまった。



「あら、レイ。おはよう」


ティナの飛んでいった方向をぼぅっと見ていると後ろから声がかけられた。


「おはようございます。リーナさん」

リーナさんはこの村の村長の奥さん。広場の近くに家を持ち、毎朝水を汲みに行くと会う確率が高い。

「暖かくなってきたわねぇ」


「そうですね。もう春になりますね」


「もう、何度目の春になるのかしらね」


リーナさんは井戸から水を汲みながら、悲しみとも哀れみともとれる感傷に浸った目で遠くを見つめた。



「レベッカとカイハの月命日、近くよね」


「…そう、ですね」



レベッカとカイハは私の母と父。父はこの小さな村から出た唯一の王国魔法騎士で、私が生まれた年の春に魔物討伐にて命を散らした。母は体が弱く、それに加え私を産んだこともあり体力が落ち、病気にかかって命をおとした。父が死んで2年後の春だった。


それから私は父方の祖母の年の離れた妹、大叔母様にお世話になっている。行き場のない私を拾ってくれて感謝しかない。



「おかあさーん、お水まだー?」


リーナさんの家の扉が開き、ひょこっと同じ年頃の少女が顔を覗かせた。

「あら、ベル。ごめんなさいね」

ハーフアップにされたふわっとした栗色の髪にサファイア色の目。村1番の美人と称されるリーナさんのご息女。

エプロン姿から見て、おそらく、朝ごはんの準備でもしていたのだろう。

「もうお母さん、お水がないとスープが作れな…」

ベルがこちらに気づいたようで、一応会釈をしておく。


一瞬驚いたような顔をしてそのあとキッと私を睨んだ。



まるで自分に危害を加えるものを牽制するように。



「あんたがお母さんになんの用…?」



「ベル、やめなさい」


「お母さん、こんな奴に話しかけても呪われるだけよ」


「ベル!」


ベルはつかつかとこちらへ近づき、私の目の前に立った。私と同じくらいの身長だが、私のただ細い体とは違い、華奢で美しい体つき。髪も傷んでいる私の黒髪とは違い、きちんと手入れされている栗色の髪。


「お母さんに取り入るのはやめてくれってこの前忠告したはずよ、レイ」


「ベル、何を勘違いしているの?私が勝手に話しかけているだけよ」


「お母さんは黙ってて!」


「ベル、やめて」


「お母さんは騙されてるのよ、こいつに!」



グッと1歩こちらに近づく。無意識に右手で左腕をさすり、顔が下を向いてしまう。



「これ以上お母さんに近づいたら、容赦しないから」


ザバァッと井戸近くに置いていた2つの水瓶から、水蛇が現れた。ベルの水魔法。

水蛇は私に向かい、シャーッと威嚇する。


「加護もないような魔女の呪い子に災いをもたらされても迷惑なのよ。分かったら二度と近づかないで」


「ベル!いい加減にしなさい!」



そう言うと、水瓶を持って家の中に入ってしまった。扉がバンッと閉まると水蛇もそれに合わせてパシャッと水に戻った。

「あの子はなんでこう……ごめんないね。…気にしないでちょうだい」

「…いえ、大丈夫です。リーナさんが謝る必要はありませんから。それに間違ってはいませんし」

心配させないように顔を上げて微笑んで言う。リーナさんは顔を少し歪ませた。そんな顔をしてほしくないのに。


「リーナさん、朝ごはんの準備、遅れちゃいますよ」


「…でも」

リーナさんの視線の先には、ベルが水蛇を作り出したためにだいぶ空っぽになってしまった水瓶。


「大丈夫です、また汲みます」


「…ごめんなさいね、何も出来なくて」


「いえ、いつも助かっています」


こんな汚い呪われた子なんかを気にかけてくれて、という言葉は飲み込んだ。皮肉に聞こえるかもしれないから。ただの自虐、事実のつもりでも言葉はいつも人を傷つける。幼い頃から育て親である大叔母様に言い聞かされてきた。


リーナさんは少し悲しそうに微笑んで家の中へ、静かに扉を閉めた。




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