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ちょいクズ三国志  作者: 油揚メテオ
第一章 桃園の契

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第五話 転機

 その日の夜、俺は凛の乳房に顔を埋めていた。


「どうしたのさ、急に来るなり」


 凛はそんなことを言いつつも抵抗せずに、俺を受け入れてくれる。

 関羽はなんか重いんだよなー。

 黄巾賊なんて知らねえっつーの。

 天下とか何いってんのっつー話である。

 俺に優しいのは凛だけだ。


「それは、あたしが遊女だからさ」


 まあそうだが。

 一応、金は払っているが。

 その分、気楽と言うか。

 関羽の身体は極上だったし、ただでやらせてくれたが……。


「第一、黄巾党ってのは最近、この辺にも出るようになってねえ。玄ちゃんがやっつけてくれるんなら、あたしらも助かるんだけど」


 マジで?

 この辺にも出んのかよ。

 こっわー。


「まあ、青州の方の賊だから、この辺のは流行りに乗っかったゴロツキだろうけどねえ。黄巾が後ろについているって言って、ただで遊女とやろうとしたりして、手に負えないのよ」


 なんちゃってかよ。しかし。


「それは酷いな」


「ところで、玄ちゃん。今日の支払いは?」


「ツケで!!!」


「………」


 前言撤回。そういえば金は持っていなかった。

 一瞬、なんちゃって黄巾賊と変わらないのではと思ったが、気のせいだろう。




 凛のもとを後にして、月夜をとぼとぼと歩く。

 家に帰ると、関羽がいるんだろうか。

 まあ、義だのなんだのうるさいが、この前みたいになし崩し的に抱いてしまえばいいか。

 凛を抱いた後だが、この劉備玄徳。何発でも出来る!


 そんな時だった。

 前方から若い娘が走ってくる。

 ぜえぜえと息を切らせて。

 それは、幼馴染の雍だった。


「玄ちゃん、大変だよ! どこ言ってたのさ!?」


 風俗です。とは口が避けても言えない雰囲気だった。

 雍が来ると言うことは、家に何かあったんだろうか。


「とにかく急いで!!」


 雍に続いて、走り出した。

 妙な胸騒ぎがする。



 息を切らして走る。

 何年ぶりだろうか。

 肺も脚も痛い。

 それでも走った。

 そして、たどり着いた家は。


「なんで……」


 轟々と燃えていた。

 俺が生まれ育った家が。

 耳に聞こえるのは下衆な笑い声。


「ほんとなんもねえでやんのな!」


「ったく、貧乏な家を襲っちまったぜ」


「ババアしかいないしよっ」


 ガスっと、何かが足蹴にされていた。

 よく見れば、変わり果てた母だった。

 傷だらけになって、力尽きたような母。

 そして、母を取り囲むように、黄色い頭巾をした男たちがいた。

 五人。

 目の前が真っ赤になった。


「何してんだ、てめえらっ!」


 自分でも驚くような大声だった。


「おっと、この家のクソ息子のお帰りだ」


「毎日、働きもせず、飲む打つ買うの三拍子揃ったクズらしいぜ」


 そして再びの下衆な笑い声。

 それは事実だった。

 事実だったが、それと変わり果てた母になんの関係があるのか。


「ぶっ殺してやるっ!」


 思わず飛びかかっていた。

 母を足蹴にしていた男を思い切り殴る。


「ぐはっ」


 手が痛かったが、全く気にならなかった。


「何すんだクソ息子!」


「ぶっ殺すのはこっちのセリフだ」


 途端に囲まれて、頬を殴られた。

 そのまま地面に倒れると、バキバキと足蹴にされる。

 目の前には、母が横たわっていた。

 その目には力がなく、口元は固く結ばれている。

(たまには働きな、このろくでなし!)

 そう元気に怒鳴っていたのは、いつだったか。

 なんで何も言わないんだよ。

 いつものように叱ってくれよ、かーちゃん。


「何をしているか!!!」


 その時、聞き知った声が凛と響いた。


「この悪漢どもがっ!」


 関羽だった。

 瞬く間に、黄色い頭巾の男達が鉄棒でなぎ倒されていく。

 俺を足蹴にしていた痛みが引いていった。

 そんなのはどうでもいい。

 俺は全力で母の元に駆け寄った。


「かーちゃんっ!」


「待て、今は動かさないほうがいい。ひでえ傷だ」


 張飛が俺を止める。

 いつも怒り狂っていたような張飛の冷静な声に、なぜか落ち着くことができた。


「主様!」


 関羽が駆け寄ってくる。


「すみません、大変なときにいなくて……翼徳とともに実家に荷物を取りに帰っていたのですが……」


 その言い訳のような声を聞いて、やたらむかっ腹がたった。

 家にいると思っていた関羽がいないとか。


「いなくてじゃねえだろ、てめえ!!」


 痛む身体で、関羽の胸ぐらを掴む。

 いや、悪いのは関羽じゃない。

 そんなのはわかっている。

 俺は一体何をしていた?

 酒をかっくらって、娼館に入り浸っていたのではないのか。


「悪い……」


「いえ……」


 関羽との間に、気まずい雰囲気が流れる。


「玄ちゃん、おばさんが」


 そんな時、雍の声が聞こえた。

 振り返ると、倒れ伏した悪漢達、その中央に、雍に抱きかかえられた母の姿があった。

 何かを口にしようとしている。


「かーちゃん!」


 駆け寄って、耳をそばだてる。


「このろくでなしが……」


 聞こえてきたのは、いつもの悪態だった。

 少し安心しつつも、その声に力はなく、目が開けられることもなかった。


「お前は、自分が何をすべきかわかっていない……お前は器が大きすぎるのだ。只人のように生きることはできまいて、なぜならお前には劉勝という、王の血が流れているのだから」


 母の言っていることがよくわからなかった。

 俺は父の顔も知らず、母の手で育てられた。

 今更、何を。


「中山靖王劉勝……」


 関羽がそんなことをぼそっと呟いていた。


「人より時間がかかってもいい。お前がやりたいことを……ちゃんと……」


「おばさん!!」


 そして、母の息が止まった。


「うおおおおおおおっ!」


 慟哭。

 ただ、ひたすらの慟哭。

 俺は母に何一つ、恩返しをできなかった。

 ろくでなしの息子の姿しか見せられなかった。

 なんで。

 俺は。




 母の埋葬を関羽と張飛に手伝ってもらった。

 母は、幸い燃え残っていた庭の梅の木の下に埋めることにした。

 そして、俺は関羽と張飛に、悪いけど一人になりたいと伝えた。


 母の埋まっている梅の木の下にずっといた。

 何も食べず、何も飲まず、幾晩も。


 なぜ母は死んだのか。

 なぜ俺はもっとマシな息子になれなかったのか。

 黄巾賊。

 そういえば、そんなことを関羽が言っていた。

 俺はどこか遠い世界の出来事だと思っていた。

 凛はこの辺にも出ると言っていたのに。

 なぜ黄巾賊なんてものがでるのか。

 なぜうちは貧乏だったのか。

 ……なぜ母は死んだのか。

 でも、答えは簡単だ。

 俺がクソ野郎だからだ。

 じゃあ、なんで俺は生きて、母は死んだのか。

 真面目に働いて、女手ひとつで俺を育てたあのひとが。

 ずっと考えていた。

 答えはでない。

 俺は馬鹿だから。

 力もない。


「主様、何か召し上がりませんと……」


 どれくらい時間が経ったのだろう。

 気がつけば関羽がいて、その手にはホカホカの万頭があった。

 食欲はわかない。

 ただ、ひとつやりたいことができた。


「関羽、黄巾賊をぶっ潰そうぜ」

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