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ちょいクズ三国志  作者: 油揚メテオ
第一章 桃園の契
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第二話 逆襲の劉備

お待たせして申し訳ありません。

 前回のあらすじ

 噂の関羽雲長(かんううんちょう)は実は美女で、劉備玄徳(りゅうびげんとく)は関羽から理不尽な暴力を受けた。

 劉備は関羽への復讐を誓ったのだった。



 復讐者の朝は早い。

 俺は珍しく夜明けと共に起きて、宿敵関羽雲長の弱点を探るべく調査を開始しようと――。

 ――していたのに、目が覚めたのは、いつもの昼過ぎだった。

 なぜこんな事に……。

 ババアに明日早く起こしてねって言っておいたのに。

 許せん。


「おい! クラァ! このクソババアが! 昨日早く起こせっつっただろうが!!」


 そんなわけで、居間の扉を蹴破って突入する。

 ババアに説教してやるのだ。


「何言ってんだい! ちゃんと起こしてやっただろうが! あんたが勝手に二度寝しただけだよ!」


 ええ!?

 そんなバカな。

 全然記憶に無い。

 そりゃ、昨日はいつものように深酒をしたし夜更かしもしたけれど。

 俺は起きるつもりだったもん!


「嘘だ! 嘘だ!」


 そんなわけで、俺は抗議の意を込めて、床をドスンドスンと踏み鳴らす。

 この劉備元徳、理不尽を許さぬ。


「やめとくれ! 家が壊れちまうよ!!」


「俺は傷ついた! 慰謝料を請求する! さっさと金をよこせ!」


 ババアの理不尽な嘘によって傷ついた心は酒を飲んで女を抱かねば癒されない。


「金なんかないって何度言わせればわかるんだい!? ……そういえば、あんた昨日の筵の売り上げはどうしたんだい?」


 その言葉に、俺はぴたりと動くのを止めた。

 昨日の売り上げ……。

 あれはひどい出来事だった。

 俺は何も悪くないのに。

 賭博場の奴等め。

 善良な俺から金を巻き上げるなんて。


「……まさか博打でもやってすったんじゃないだろうね?」


 ババアは嫌になるくらい鋭かった。

 すっごい勢いで汗が出てくる。


「それでは、母上。出かけてまいります」


 こんな時は逃げるに限る。


「ちょっと待ちな!!」


 ババアの静止を振り切って、そそくさと家を後にした。




 外は吐き気を催す程の晴天だった。

 こんな晴れた日は、酒でもかっくらって女を抱いていたい。

 しかし、俺には金がまったく無い。

 なぜだ。

 原因はわかっている。

 時代が悪いのだ。

 全て時代のせいなのであって、俺はまったく悪くない。


「ちょっと、(げん)ちゃん! また昼まで寝てたの!? いい加減にそろそろ働きなさいよ!」


 やかましい声をかけてきたのは、幼馴染の(よう)だった。

 なぜか自分ちでもない俺んちの方の道を箒で掃いている。

 暇な女である。

 雍は相変わらず色気のない貧相な体つきをしていた。

 貧乳というやつだ。

 まあ? どうしてもっていうなら抱いてやらない事もないのだが。

 顔はそれなりだし。


「抱かれたければ、服を脱げ」


 とりあえず朝の挨拶的にそんな声をかけてみる。


「は、はあ!? 抱かれたいわけ無いでしょ! 馬鹿じゃないの!? 誰があんたみたいな無職に抱かれるかー!」


 真っ赤な顔をした雍がきーきーとうるさい。

 というか、無職て。

 すごく傷つくんだけど。

 無職の人間に無職と言うなんて鬼畜の所業である。

 なんてひどい女だ。

 処女の癖に。


「黙れ、小娘が! 犯すぞ!」


「なんで当たり前のこと言っただけで犯されなきゃなんないのよ! そんなに犯したいならまっとうな生活をしなさいよっ!」


 まっとうな生活などしない。

 それが劉備玄徳の生き方ってもんだ。

 というか、別にそこまで犯したいわけじゃないので、俺はそのまま雍を無視してすたすたと歩き出した。


「まだ話は終わってないわよっ! もう少しお話してくれたっていいじゃない! 玄徳のばかあああ!」


 いつもやかましい女だった。




 街にやってきた俺は早速情報集を開始する。

 そして瞬く間に宿敵関羽の足取りを掴んでいた。

 誰しも、人には天から与えられた才能がある。

 それはもちろん俺にもある。

 この劉備玄徳、こっそりと誰かを付回す才能にかけては並ぶものなしと自負している!

 この才能を活かして、なんとしても憎き関羽の弱点を探るのだ。


 そんなわけで、関羽がいつもこのくらいの時間に昼飯を食べているという食い物屋にやってきた。

 結構繁盛している食い物屋。

 その路面に面した席に座る褐色の女。

 いた。

 関羽だ。

 背筋をすっと伸ばして座りながら、饅頭をもぐもぐと食べている。

 その長く伸ばされた黒髪は相変わらず艶やかで。

 饅頭を食べているのさえ、絵になる女だった。

 クソ。

 悔しいがいい女だ。

 さっき貧相な雍を見たせいか、やたら色気を感じる。

 なんてでかい乳をしているんだ。

 揉みたくて地面をゴロゴロしてしまうじゃないか。


 関羽が食事を終えて、席を立つのを待って、俺はこそこそとその食い物屋に近づいた。

 そして、関羽が座っていた席を生唾を飲み込みながら撫でる。

 まだほんのりとした温もりが残っていた。


「ここに関羽の尻が……はあ、はあ」


 なんだろう。

 すげえ楽しい。

 いかんいかん、こうしている間にも関羽が行ってしまう。

 俺はひとしきり関羽の残した温もりを堪能した後、尾行を開始した。




 関羽というのは、なんというか、不思議な女だった。

 理解できない事ばかりしている。


 荒くれもの達の喧嘩を圧倒的な武力で仲裁したり。

 貧乏そうな老人の荷物運びを手伝ったり。

 親とはぐれて泣いているガキんちょをあやして、一緒に親を探したり。


 そんな事をしていったい何の意味があるというのか。

 しかも、お礼に金銭や物品を要求するような事は絶対にしない。

 生計は金持ちの用心棒なんかをやって立てているようなので、金には困っていないのかもしれないが。

 変な女である。


 関羽が街を歩くたびに、大勢の人間が笑顔で話しかけている。

 まあむしゃぶりつきたくなるような美女であるのは間違いない。

 きっと話しかるやつらは下心満載なんだろうけど。

 老若男女全てに人気があるのが解せぬ。


 俺はそんな関羽に見惚れるように、ふらふらと後をつけていた。

 そんな時。

 巨大な山のような物体にぼすんとぶつかる。

 え、なにこれ。

 すげえでかい。


「おう、どこに目ん玉つけてんだ、兄ちゃんよ?」


 山の頂上にひげ面の男の顔が乗っかっていた。

 魔物のような形相だった。

 短い髪も眉毛も髭も全てが針金のように逆立っている。

 真っ黒に日焼けした肌に、爛々と鋭く光る目。

 牙のような犬歯の目立つ頑強な歯をむき出しにして俺を威嚇している。

 山のように見えたのは、鋼のような筋肉に覆われた巨体だった。

 え、これ人間?

 その男を見た俺の感想はそれだった。


「この俺様を張飛翼徳(ちょうひよくとく)様と知って喧嘩売ってんのかって聞いてんだよ!!」


「ひいっ!」


 腹に響く怒鳴り声だった。

 ていうか張飛!?

 張飛といえば、この辺で目を合わせちゃいけない人の筆頭だった。

 関羽並みに強いって噂で、しかも。


「……関羽の義弟?」


「ああん!? なんでお前が姉者のこと知ってんだよ!」


 いやいや、この辺で関羽と張飛の関係を知らない奴はモグリだから。

 そんなの知ってて当然ですやん、といった感じなのである。

 とりあえずである。

 張飛の腕を見てみると、俺の数倍の太さだった。

 たぶん、一発殴られただけで俺は死ぬ。

 だったら、やることはひとつ。


「すんませんっしたあ!」


 すばやくその場に土下座した。

 頭を地面にこすり付ける。

 この劉備玄徳、ちゃちな誇りなど持っておらぬ!


「おう、わかりゃいいのよ。次は気をつけなよ」


 張飛はあっさりと許してくれた。

 ちょろい男である。


「へいっ! 気をつけやす」


 しかし、俺は最後まで気を抜かない。

 そして、去っていく張飛を土下座のまま見送る。

 張飛が見えなくなったところで、勢い良く立ち上がり、その辺の壁を思い切り蹴飛ばした。


「クソが! 張飛の単細胞がっ!! この劉備様をなめてっといつか痛い目みんぞ、コラァ!!」


 そして全力でここにはいない張飛を罵倒する。

 通りすがりの若い娘が、そんな俺を見て「ひいっ」と短い悲鳴を上げる。

 ふふふ。

 ちょっと気が晴れた。

 若い娘にドヤァと笑っておいた。


 そして、俺は致命的なことに気づいた。

 張飛の筋肉バカのせいで関羽を見失ってる!?

 だが、慌てない。

 この俺の人を追い掛け回す才能を甘く見てはいけないのである。


 あれはまだ子供だった頃。

 俺を仲間はずれにしようとしていた近所の蒙くんが言っていた。


 劉備こええよ。

 どんなに撒いたと思っても、絶対ついてくんもん。

 あいつまぢやべえって。


 そう、撒こうと思っても撒けない。

 それがこの俺、劉備玄徳。


 人には必ず臭いというものがある。

 それを嗅ぎ分けるのが俺は得意だった。

 とりわけ関羽は極上の美女だ。

 その醸し出す匂いは、濃密な花のそれだった。

 どこにいたってすぐにわかる。


 そんなわけで、俺は鼻をくんかくんかさせながら、関羽の後を追った。




 時はすでに夕暮れ時を迎えていた。

 場所は町外れの川辺。

 川の流れが、崖から滝のようになっている場所だった。


 そんな滝の下に関羽はいた。

 水浴びでもしているらしい。

 関羽が川の中にその身を潜らせる。


 辺りに人気はない。

 川岸には脱ぎ捨てられた関羽の服が畳まれてあった。

 俺はこそこそと川岸に近づきながら、関羽の服をくんかくんかした。

 汗と女の濃密な香りがした。

 くそう、たぎって来るぜ。


 そんな時、大きな水音が聞こえた。

 川の中から、身体を浮かび上がらせる関羽。


 それは、薄暗い夕闇の中にあって、一際美しくて。


 俺は思わず息をするのを忘れた。


 関羽の裸体。

 濡れた漆黒の髪が夕闇に踊る。

 まばゆいばかりの健康的な褐色の素肌。

 無駄な肉など一切ついていない均整の取れた身体。

 女性らしい曲線を残しつつ、見事に鍛え上げられている。

 そして。

 柔らかそうに揺れる乳房に、水滴を弾く張りのある尻。

 その光景は俺の心を激しく揺さぶる。


 ただ、ただ美しかった。


 この女への恨みなど一瞬で吹き飛ぶ。

 こそこそするのも忘れて、俺は川の中にじゃぶじゃぶと入っていく。

 この美しいものに触れたい。

 その一心で。


「……え?」


 その時、金色にも見える関羽の不思議な色の瞳が俺を捉える。

 一瞬驚いたように目を丸くした関羽は。


「いやあああああああああ!!」


 その辺いる娘のような叫びを上げて、勢い良く水しぶきを上げながら、川に身体を隠す。


「き、貴様は劉備!? こんなところで何をしている!? 殺されたいのか!?」


 首元まで水に浸かった関羽が顔を火照らせながら、俺を睨んだ。

 俺と関羽の力の差は明白だ。

 そんなの昨日ボコられた俺にはわかる。

 きっと殺すのも簡単なんだろうけど。

 たかが裸を見たくらいで殺されるのは嫌だ。

 どうせなら。


「殺されてもいいから、一発やらせてくれないか?」


「ええええええ!?」


 俺の素直な提案に、関羽が驚きの声を上げる。

 こんな極上の女を抱けるなら、死んでもいい。

 本気でそう思った。


「ふ、ふざけるな! 私は誇り高き武に生きる女。将来を誓い合った夫以外には決して見せぬ裸体を盗み見ておいて何をほざくか!?」


 関羽は真っ赤になりながら、そんな事を叫ぶ。

 なんだ、そういうこと?

 なら話は簡単である。


「じゃあ、俺と結婚すればいいじゃん」


「ええええええ!?」


 再び驚く関羽。

 かなり前向きな提案をしてみたのに解せぬ。

 というか。


「もしかして、もう結婚してんの? もしくは結婚する予定でもあんの?」


「ええ!? ……な、ないけど」


「じゃあ俺と結婚しようぜ!」


 まあ当方無職なんですが。

 大事なのは金じゃないと思うの。


「……ほ、本気なの?」


 胸を隠しながらも、関羽がちゃぽんと水から出てくる。

 いい女である。


 こうして、俺は関羽に復讐するつもりが、求婚することになった。

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