第一話 月夜の邂逅
油揚メテオと申します。
ミッドナイトノベルズ様にて「ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記」を連載しております。
今回は三国志をテーマに、普段聖人君主として描かれる劉備をクズ野郎として書いてみました。
時代背景や時系列などを史実に囚われる事なく、クスッとできるお話を目指します。
ちょいクズ社畜程のエロスはなく微エロ程度で抑えて、なろう様に居続けてやろうと思っておりますので、よろしくおねがいします。
またちょいクズ社畜の方を優先しますので、更新速度は遅くなるかも知れません。
目を覚ましたのは、昼過ぎだった。
昨夜深酒をしたせいで、頭が痛い。
うんうんと唸りながら、身を起こす。
俺の名前は劉備玄徳。
だいぶ前に二十歳を超えたが、今も働かずに己の信念に従って生きている。
世間では俺のような人間を義に厚い男と言うのだと思う。
窓の外を見るとお天道さまが、燦然と輝いていた。
うん、そろそろ飲みに行く時間かな。
義に生きる俺は、起きている間はほとんど酒を飲んでいる。
それが俺の生き様だ。
そんなわけで、自分の部屋の戸を思い切り開けて叫んだ。
「ババア! 金よこせ!」
隣は母親の部屋兼居間だった。
ちなみにうちは二部屋しかない。
「玄徳! あんたって子は働きもせずに何が金だよ!? もうウチには金なんてないよ!」
最近めっきり老け込んだお袋は、白髪だらけで皺だらけの顔でそんな事を言った。
というか、何を言っているのだろう。
子供を養うのが親の役目だと言うのに……。
俺は酷く傷ついた。
傷ついたので、床を激しく踏みつける。
ひどい!(ドスン) ひどい!(ドスン)
「や、やめとくれ! ただでさえボロい家が壊れちまうよ! い、今から夜なべして作った筵を売ってお金を稼いでくるから……」
ババアの横にはうず高く積まれた筵があった。
そういえば夜中にせこせこ作ってたな。
ふむ。
たまには親孝行でもしてやるか。
俺って結構優しいから。
「おーし、その筵、俺が全部売ってきてやんよ。俺が売るんだから売上は全部よこせよ?」
「ええ!? い、いいよ! お前に頼むとロクな事にならないから!」
なぜかババアは筵を抱えるようにして、俺に渡さんとする。
息子が労働をしようとしているのに、なんて理不尽なババアだろう。
これだから働く気がなくなるのだ。
「うるせえ! いいからよこせや!!」
ババアから強引に筵を奪い取る。
老婆ごときが二十代の俺に力で敵うわけもなく、筵は簡単に奪えた。
「ひ、人様に迷惑をかけるんじゃないよ!? あとウチにも少しはお金を入れとくれよ?」
ババアのセリフを聞き流して、家を出る。
え? ウチに金なんか入れるわけないよね?
それよりも酒とか女に使ったほうがいいよね?
そんな事を考えた。
外に出ると街に向かって歩き出す。
ウチから街までは歩いて半刻ほど。
遠すぎて吐きそうになる。
都会に引っ越したいわー。
でも、ウチのババアに甲斐性がないせいで引っ越す金はない。
どこかに大金とか落ちていないものか。
「ちょっと玄ちゃん! 寝癖だらけじゃない。もしかして今起きたの? もうお昼をとっくに過ぎてるのよ!?」
そんな声をかけてきたのは、隣の簡さんちの一人娘の雍だった。
所謂、幼馴染というやつだった。
俺は挨拶がてら、雍にいつも言っているセリフを吐く。
「うるせえ! 犯すぞ!!」
「なんで寝坊を咎めただけで犯されなきゃなんないのよ!!」
いつも言っているのに、雍は顔を真っ赤にして怒っていた。
黒髪を左右のお団子状に纏めた髪型に、幼さを残しながらも整った顔立ち。
口が裂けても言わないが、雍は結構美人だった。
ただなー。
「もう! 髪くらい梳かしなさいよ!」
雍はてくてくと近寄ってくると、手ぐしで俺の髪を直してくれる。
ちょっといい匂いがした。
俺の目は自然と、雍の胸元に向けられる。
薄汚れたボロい麻の服。
雍の家は俺んちに負けず劣らず貧乏だった。
そんな雍の胸元は、なんというか。
ストンとしていた。
女特有の膨らみがまったくない。
そう。
この女は顔はなかなかなのに、胸が残念なのだ。
腰回りはそれなりにふっくらとしているので、なんというかナスみたいな身体をしている。
正直に言って犯す気にもなれない。
なので。
「近寄んじゃねえよ!! 犯すぞ!!!」
これは俺特有のお世辞だった。
俺って優しいから。
「なんで髪を梳かしてやったのに犯されなきゃなんないのよ!!」
何も知らない雍は顔を真っ赤にしながらそんな事を叫んでいた。
哀れな。
こんなナス女は無視してさっさと街に行こう。
俺はすたすたと歩き出した。
「ちょっと! どこ行くのよ!? たまにはおばさんを手伝いなさいよ! というか、そろそろ働きなさいよ!!」
背後で雍がぎゃーぎゃー叫んでいたが、いつもの事なので無視した。
言っておくが、この劉備玄徳。
働く気など毛頭ない!!!
街につくなり俺は獲物を探した。
金を持っていそうで、弱そうな奴がいい。
そんな時、ザコ顔をしながらも高そうな着物を着た男を見つけた。
歳は三十くらいだろうか。
よし、あいつに決めた。
「おい、ちょっと顔かせや」
俺は強引に男の袖を掴んで物陰に連れ込む。
「な、なんですか!? 突然……」
男は顔を青白くさせながら盛大に怯えていた。
芳しいザコ臭がする。
これは良い獲物ですわ。
男の額に俺の額を頭突きのようにぶつけて、渾身の悪人面をキメる。
眉根を思い切り寄せるのがコツだ。
「俺よう、筵売ってんだわ。お前、筵欲しいべ? つか、買うべ? 買うよなあ!?」
最後に怒鳴るようにして恫喝した。
男は面白いように怯える。
「ひ、ひいいい! ……ち、ちなみにおいくらですか?」
「ああん!? んなもん銀貨十枚に決まってんだろうがっ!!」
「銀貨十枚!? た、高すぎますよ!!」
ちなみにババアの織った筵なんて銀貨一枚で売れれば良いほうだろう。
高すぎるのは判っている。
ザコ夫(今命名)が言うことも最もだ。
だが、ここからが俺の腕の見せどころだった。
「お前どこ村出身よ? 俺はな、河山村の関羽さん知ってんだぞ、ゴルァアアア!!」
「ひいいいい! か、関羽!?」
関羽さん。
それは最近、巷で有名な無頼漢だった。
どこだかよくわからないけど河山村という所に住んでいるらしい。
そして、めちゃくちゃ強いらしい。
ちなみに会ったことはない。
所謂、方便だった。
ここだけの話、俺は喧嘩はあんまり強くない。
むしろどっちかと言うと弱い方だと思う。
実はザコ夫にも勝てるか怪しかったりする。
「か、買わせて頂きます!」
しかし、まんまと関羽さんの名前にビビったザコ夫は銀貨十枚で筵を買っていった。
まいど謝謝でーす!
あっと言う間に銀貨を十枚も稼いでしまった。
がんばった甲斐があったというものである。
もしかして俺って商才があるんじゃなかろうか。
俺はそんな溢れんばかりの商才を活かして、瞬く間に筵を全部売り捌いていた。
手元には抱えきれないほどの銀貨がある。
ちなみに、筵を売りつけた手口は最初と同じく関羽さんオナシャス作戦だ。
関羽さん様様である。
会ったことないけど。
早速、街で唯一の娼館を訪れた。
既に日は良い感じに沈んでいて、女遊びには丁度よい頃合いだった。
「あら、玄さん! また来たの? 本当にお好きなのね」
娼館の女主人が愛想良く出迎えてくれる。
俺は日夜せっせとババアから金を巻き上げている。
その努力の甲斐があってか、結構な頻度で娼館を訪れているのだ。
「おう! 凛を呼んでくんな! あと酒な!」
馴染みの娼婦を頼んで、奥の部屋へと勝手に上がっていく。
娼館に通いすぎて、もうほぼ俺の部屋と化している奥座敷だった。
部屋で酒を飲んでいると、戸がスッと開かれる。
あらわれたのは、着物を色っぽく着崩した美女。
「こんばんは、玄さん。また会えて嬉しいわ」
美女は目元を細めて、艶やかな笑みを浮かべる。
手入れの行き届いた長い黒髪。
淡い化粧が映える涼やかな目元。
ほのかに光っているようにすら見える白い肌に、唇には派手すぎない紅が引かれている。
一言で言うのならば、極上の女だった。
なんでこんな田舎の娼館にいるのか不思議なくらいだった。
俺は凛を手繰り寄せると、その胸元に手を差し込む。
たわわに実った柔らかい感触がした。
女の胸はこうでなくては。
「げはは!」
思わず下卑た笑い声をあげながら、酒をかっくらう。
女の乳を揉みながら飲む酒は美味かった。
「もう! いきなり玄さんったら……助平なんだから!」
凛はそんな事を言いながらも、まんざらでもない色っぽい顔をしていた。
その瞳は僅かに潤んでいて。
こいつ俺の事好きなんじゃなかろうかと錯覚してしまいそうだった。
まあ、決して安くはない金を払っているので、このくらいの反応は当然なのだが。
「つうか、お前。これだけ何度も通ってるんだからそろそろ無料でやらせろよ?」
凛が娼婦なのは判っているが、俺は口説くのも忘れない。
「えー? どうしようかしら」
いつものようにはぐらかす凛を強引に抱き寄せる。
「あんっ! げ、玄さん……くちゅ、れろぉ、ごくっ」
それにしても凜は本当に良い女だった。
俺は凛に口移しで酒を飲ませながらしみじみと思った。
その柔らかい唇と、卑猥に動く舌を堪能する。
いつだったか、凜は優秀すぎる兄に反発して娼婦になったとか訳のわからない事を言っていた。
そんな事で女は娼婦に身を堕とすのだろうか。
まあ、客の俺としては嬉しい限りなのだが。
凛の兄はなんと言ったか。
確か、ビ、麋……?
なんだったかな。
「玄さん……そろそろ……」
凛はもともと着崩していた衣服を、バサッと完全に脱ぎ捨てる。
白くも美しい裸体が顕になった。
俺の琴線を刺激する柔らかそうな乳房に、悩ましい曲線を描くくびれと腰。
真っ白な素肌はキメが細かく、その太ももはあまりに肉感的で。
俺は何を考えていたのかなんてすっかり忘れて、凛にむしゃぶりついていた。
そのまま魅力的な夜を過ごした。
そして大体、二刻あまりが過ぎただろうか。
俺はなぜか街の路上に全裸で立ち尽くしていた。
一体何が……。
凛を抱いた後、俺はすこぶる機嫌が良かった。
昼間手に入れた金はまだ十分にあったし。
少しくらいはババアにやってもいいかもしれないとすら思ったのだ。
その時ふと魔が差したのです。
この金を数倍に増やす方法があるんじゃなかろうか。
そうすれば酒池肉林な毎日が待っているんじゃなかろうか。
その時、俺の目の前には賭博場があった。
今まで俺から何度も金をカツアゲした悪い奴らのいる場所だった。
本当に酷い奴らだと思う。
なんの罪もない無垢な俺から金を奪い取るんだかんね!
なんとなくだけれど。
今日は勝てる気がした。
うん、絶対勝てるよ!!!
俺は娼館からの土産として貰った酒を一気飲みして、意気揚々と賭博場の暖簾をくぐった。
そして、今現在、私は外で全裸で立っています。
なんでしょうね。
今日は勝てる気がしたんですが。
今にして思えば、毎回そんな事を思っているような気がします。
そしていつも身ぐるみを剥がされるのです。
予定調和とでも言うのでしょうか。
ま、まあいいか!
いつものことだし!
あんなにあった金が全部なくなったけど。
この劉備玄徳。
宵越しの金は持たぬ主義だかんね!!!
そんな事を思いながら、俺は冷える夜空に寒気を感じてくしゃみをした。
もう帰ろう……。
とぼとぼと誰もいない夜道を歩き出す。
その時だった。
「待て! 貴様が劉備だな?」
突然、凛とした美声が聞こえた。
振り返った瞬間。
俺は息をするのを忘れた。
月光を背にして。
背の高い人影が立っていた。
艷やかで美しい黒髪は夜風になびき。
意思の強そうな瞳は月と同じ色に輝く。
見事なまでに整った鼻梁に、日輪の匂いを漂わせる浅く焼けた肌。
その立ち姿は一振りの直剣のように美しい。
まるで物語の中から出てきたように幻想的で。
鮮烈なまでに美しい女だった。
その存在そのものが美しくて。
凛のような色っぽい美女とは違う。
違うのだけれど。
美女には違いないので、俺は思わず股間が痛いほど怒張するのを感じた。
「……ち、ちなみに貴様、なぜ裸なのだ……?」
女は俺の股間を見て顔を赤くしていた。
やだ、恥ずかしい。
とはいえ、ここは攻め時と見た。
「ははは、貴女のような美女とお話するのにこれ以上ふさわしい格好はありますか?」
いやいや普通に他にあるから、と言う気もするのだが。
見せてやるのさ。
この劉備玄徳の侠気ってやつをな!!
そんな訳で、俺は両手を広げて、ありのままの自分を女に見せつけてみた。
「……なんと破廉恥な」
しかし、女は普通に嫌悪しきった顔をしていた。
俺の侠気作戦はまさかの不発に終わっていた。
ふと考えてみると、至極当たり前な気もしたが。
「我が名は関羽雲長! 私の名を騙り悪逆の限りを尽くす劉備とはお前だな?」
そう言いながら、女は手に持った信じられないくらい重そうな鉄の棒を構える。
え? というか今なんて?
関羽って言った?
関羽っていつもお世話になっているあの関羽さん???
ええええええ!?
関羽さんって女だったの!?
しかも美女!!!
「成敗!!」
関羽さんが鉄の棒を振りかぶる。
女の細腕で振るわれたとは思えないほどの速度で。
「ひぎいっ!」
鉄の棒は俺の脳天に直撃した。
自分でも信じられないくらい情けない悲鳴が口から漏れる。
だって、仕方ない。
頭が潰れて目が飛び出るかと思ったのだ。
「義侠の欠片も持たぬ屑め!」
関羽さんはまさかの追撃を始める。
ガスガスとその美しいお御足で俺を散々蹴りつけた。
「ちょ! 待って! 痛い! 痛いから!」
必死に懇願したのに。
「貴様に虐げられた民の痛みを知れ!!」
関羽さんは無慈悲に俺を蹴り続ける。
「らめえ、もうこわれちゃうよう、らめええええええ!」
夜空に俺の悲鳴が木霊した。
しばらくして。
関羽さんはいつの間にかいなくなっていた。
全身が熱を帯びたように、痛みを発している。
そんな身体を苦労して起こしながら思った。
俺が何をしたっていうんだあのクソ女!!!!
無実なのにボコられるとか!!!
関羽雲長、許すまじ。
寒空の下、全裸の俺は関羽への復讐を誓った。
今回、私的にはかなりエロスを抑えたつもりですが、如何だったでしょうか。
とりあえず、運営様のジャッジメントを待ちます……。
万が一の時はミッドナイトノベルズ様に転載しますので、よろしくおねがいします。