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イデア界転移物語  作者: 朝比奈進
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プロローグ

人間界の遥か遠く、かつて古代ギリシャ哲学者プラトンが到達しかけたものの、決して人力ではたどり着くことのできない現実世界の理想版、『理想世界』では、いつの時代も、絶えることなく争いが続いていた。愛により人々を統べる全能神ゼウス。かたや恐怖により臣民を支配する大魔王サタン。

 この両者の戦いは、理想世界においても幾多もの犠牲を生み、理想世界の映し鏡である人間界にも戦争という形で影響を及ぼしていた。二人の戦いは時代を超え、世代を超え、世界の始まりより一度として絶えることなく続いている。人間界にて、戦争がなくならないのは、この世界を統べる両者の争いを反映しているのが実のところだ。

 そんな争いの渦中にいるゼウスは、本拠地の『イデア熊本県』のゼウス城にて、何やら気難しそうに机上の地図を眺めていた。うーんうーんと唸っては、首を何度も何度も傾げている。


「ゼウス様!!大変です!!」

「何だ、騒がしい。……どうせ向こうの戦況の変化だろ?大丈夫大丈夫。だって『イデア東京都』を取り返しに行ったのは、ディオクレティアヌスス帝だぞ。あいつが負けるわけないだろ………軍人皇帝時代を終わらせた奴って、私は教科書で習ったぞ?」


 ノックもせずに慌てて王間へと入ってきた兵士に、机上の地図を見て作戦を練っていたゼウスは少々不機嫌そうに言った。しかし、そんな様子のゼウスにも関わらず、兵士は訴えるような瞳をゼウスへと向けていた。


「スが一個多いです!!………って、そんなことじゃなくて!!ディオクレティアヌス帝が敗れました!!!現在敗走中とのこと!!」


 ___________数秒の沈黙が流れて行く。その後、どうやらやっと状況を解したようで、ゼウスは地図上で固まっていた指を『イデア東京』と書かれた地域にスライドさせ、顔を引きつらせ、刹那、驚きのあまり机に身を乗り出した。


「あは、ははは、そうだよね。うん。う、うん?……………うそん。だってあいつ、年の功はうんぬん言って、結構偉そうに軍引き連れて行ったぞ!?『あの時代を取り戻そう!!』とかほざいてたじゃん!!二千年前を取り戻してどうするのか知らんけどさ!負けてんじゃん!!」

「そ、そんなこと言われましても…………ともかく、早く手を打たないと、人間界の東京にも影響を及ぼしてしまいす!!人間界の東京には、今現在千三百万の人間がいます!人間界は理想世界の鏡、つまり、人間界の東京でも、何かしらの変革が起きることとなります!!」


 ゼウスの表情が、徐々に凍りついていく。


「ええええええ!!!ちょっ……東京に息子いるんですけど!!置いてきた息子がいるんですけど!!可愛い娘もいるんですけど!!!それマズくね!?ディオクレティアヌス帝何やってんだよ!使えねぇな!!」


 ゼウスは敗戦の部下の労をねぎらう事もなく、ぐちぐちと数分に渡り愚痴を吐露していた。


「え、でも待て待て。あいつがやられたってことは………私が今から南方の防衛ラインに向かったとしたら……………東京奪還とか無理ゲーじゃね?というか南方からは最高幹部の進撃があるから、流石に私はそっちにいかないと………それに、これ以上の幹部を東京に派遣するわけにもいかないし……………アレ?これってエスタークに職業冒険者一人で挑むレベルで無理ゲーじゃね?」

「何の話ですか!!あとスが一個多いです!」


 緊急事態にも関わらず、ぺちゃくちゃとくっちゃべって、訳も分からぬたわごとを吐くゼウスに、部下の兵士はシビレを切らした様子である。いても経ってもいられなくなり、兵士はゼウスへと詰め寄って、今にも襲いかからんと言わんばかりの勢いで、大声でゼウスを怒鳴りつけた。


「グダグダしている暇はありません!!このままでは『イデア東京』がサタン軍に征服されてしまいます!!」

「えー。そんなこと言われてもなぁ。イデア南西諸島を攻め落とされたらそっちもそっちでまずいし………それに、どっちかというと、向こうの世界にいた時は東京ヘイターだったし、田舎派だったし……地域間格差上等だこの野郎!」

「何をおっしゃってるんですか!!あなたが人間界でどんな暮らしをしていたのかは知りませんが、イデア東京は我がゼウス軍の経済拠点でもあります!」

「え、ええ……うーん、まあ、確かに困るっちゃ困るわな。俺息子大好きだし。娘も大好きだし。死なれても困るなぁ……」


 ゼウスは首を傾げながら、どうしたものかと熟考した。数分の後、ゼウスは閃いたかのようにパッと立ち上がり、部下に向けてニカッと笑みを浮かべた。


「よし、息子呼ぼうぜ、こっちの世界に」

「は?」

「「…………………………」」


 __________静寂。王間にいる二人の間を、圧倒的な静寂が支配する。


兵士は自分がゼウスの言葉を聞き間違えてしまったのだろうと、あざとく申し訳なさげに腰を曲げる。


「……………申し訳ございません。私とした事が、聞き漏らしてしまいました。もう一度よろしいでしょうか?」

「だーかーら、俺の息子を呼ぶんだよ、こっちの世界に」


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