第8話 三校祭(ティル・ナ・ノーグ)
――――放課後。歩はCVA専門の病院ヘ向かった。
「えーっと、ここか。受付をして……」
受付に自分のIDカードを通し、眼科を選択し今日はどのような要件できたのかデータを打ち込んだ。
それから待合室で待ちながら今日の戦闘データをまとめていた。
クラスメイト全員のCVA、VAと戦闘データは十分だな。今日見た限り、やはり最大の敵は有栖川さん。未来予知は厄介だ。近距離戦闘になったらまず不利になるな。でも、あれほどのVAそんなに持続力はないはず。いかに、無駄に使わせるかがポイントかな。
そう考えながらデバイスにデータを打ち込んでいると、順番がやってきた。
「七条歩さん。7番ルームへどうぞ」
「お、意外と早かったな」
そして、デバイスを閉じて診察室に向かった。
「えーっと、七条歩さん。今日は眼精疲労がひどいので目薬が欲しいと」
医者は彼の打ち込んだデータを見ながらそう言った。
医者の容姿は典型的なモデルのような体型をしており、加えて顔もとびきりの美人。彼女は多くのかかりつけの患者をもつほどこの病院では人気なのである。
「あ、はいそうです。」
「あなた、VAは視覚系なのよね?」
「はい。複眼です」
そう答えると彼女はまじまじと歩の眼を覗き込む。
「なるほど、たしかにちょっと疲労が残ってますね。今日は使いすぎましたね。じゃあ、目薬処方しときますね」
「はい、ありがとうございます。」
「なにかあったらまた来て下さね」
彼女は軽く微笑んだ。それは年上の色香が少し感じられる、そんな笑顔だった。
目薬をもらい自宅に戻る。歩は自宅に戻るとすぐにシャワーを浴び、晩ご飯を食べながら今日の試合の反省をしていた。
「うーん、今日の試合右肩に氷を食らったのはまずかったな。あれで、支配眼を出さざるを得なくなったし。でも、あのスピードに対応するとなるといつかは出さないといけないし結果オーライか? でも、ちょっとイメトレが甘かったかな。タイムアタックのときのスピードより大分早くなったのを想定してたけど、その上をいくスピードだったな。くそー、まだまだだなー」
そして、反省も終わり、食器を片付けソファーで未来予知のVAのデータをみていた。
「なるほど、ね。はぁ〜……」
ため息まじりに歩はそう呟いた。
未来予知の特性について詳しく調べていると、弱点がみつからない。しかも、視覚系の上位互換のVA。調べれば調べるほどその希少性と実用性の高さが分かり、ため息をつかずにはいられなかった。
それからしばらくの時が経った。2120年6月。6月からは校内選抜戦が開始される月でもある。今日は6月1日。そして、担任の高橋茜から代表戦の説明がなされる。
「おし、今日は全員いるな〜。データでも確認できると思うけど、改めて三校祭について説明するぞ〜」
教室の前方に電子モニターを表示し、説明していく。
全国3カ所にあるクリエイターを専門とする高校、International Creative High School 東京本校 大阪校 福岡校。その3校から代表5人を選出し、計15人によって競われる武の祭典 三校祭。
三校祭の名前の由来はケルト神話に登場する妖精の国から来ている。全国大会は神聖で清らかなものでありたいと言う理由から妖精の国の名前を冠する事となったと言われている。
また、クリエイターならばその頂を欲するものは多い。大会の中継は世界的に行われ、毎年大きなイベントとして注目を集めている。ちなみに大会は夏休みの8月すべてを使って行われる。
全国大会ではHP制は採用されていない。この大会ではプロや世界大会と同様のルールを用いる。簡潔に言うと、相手が戦闘不能になるまでCVAで戦い続けるのだ。そのため、死亡まではいかないまでも選手生命が終わってしまうほどの負傷するものも出てくる。
しかし、出場選手はそれを了承し大会に出場してくる。彼、彼女らにとって三校祭制覇はそれほどに価値のあるものなのだ。創造者ならば誰もが憧れる頂。全国の猛者達はその頂を勝ち取るために血のにじむ様な努力をして挑んでくる。
「おし、ここまではいいか〜? まぁ、普通に理解できるよな。じゃあ校内選抜戦について詳しく説明するぞ〜」
校内選抜戦。三校祭に出場する5人の枠を決定する為の戦い。3学年それぞれタイムアタック上位10人をまず選出する。そして、学年の代表10人でリーグ戦をする。その中から上位3人を学年代表とする。
各学年3人の代表が決まったら、今度はその9人でリーグ戦をし上位5人を代表とする。
試合数にするとかなりの数になるが、代表を勝ち取る為に生徒達は死力を尽くして戦いに挑む。創造者という希少な存在に選ばれた自分。その希少な存在の中でもさらに上を目指す。まるで自分自身の生き様を証明するかのごとく、クリエイターは戦うのだ。
「――――で、説明は以上だが質問ある奴はいるか〜?」
一通り、説明を終えた茜がそう言うが、生徒達は静寂していた。夢にまで見たあの舞台が目の間に迫っているのだ。今からでは早すぎるが、緊張している者も中にはいた。
「よし、じゃあがんばれよ〜。うちのクラスから代表が出るとあたしの評価も多少あがるかもしれんからよろしくな〜」
そう言うと同時に茜は教室を出て行った。
そんな中、歩はある事を考えていた。
とうとう、この時がきたか。あの時からどれだけ待ち望んだ事か。俺は三校祭で優勝しないといけない。あの日の、父さんの言葉を確かめる為にも。そしてあの人の為にも。
――――時は数年前に遡る。