第34話 Another View 5 彼女の勝利
「はああああああああああっっ!!!!!!!!!」
叫びながら再び大鎌を投擲する葵。鬼化を発動している今の彼女は、今までの中で最も良いパフォーマンスを発揮していた。
また、思考と身体の動きにズレは全くなく、自分が思う通りに状況を動かす事が出来ていたのだった。
(よし、鬼化の制御は完璧。それに加えて、自分の思うようにこの場を支配できてる。これなら、殺れるッ!!!)
風を切りながら尋常ではないスピードで駆けていく。今は大鎌を持っていないので、そのスピードは神速とはいかないまでも、一般的な加速のスピードを優に上回っていた。
「やるね、葵。でももう見切ったよ」
そう言うと男は大鎌へのワイヤーの射出をやめ、自分の後ろにワイヤーを展開する。葵はワイヤー特有のトリッキーな動きに思わず面食らってしまう。
「っく!!!!」
既に大鎌を振るっていたが、ワイヤーによってその攻撃は阻まれてしまう。ワイヤーは大鎌の柄にまで絡んでおり、切断するのがほんのわずかだが遅れる。その隙を見逃すほど相手の男は甘くはなかった。
「――――――がら空きだよ」
発した音が葵の脳によって理解される前に、男の拳が彼女の鳩尾に食い込んでいた。
拳が鳩尾にめり込みながらめりめりと音をたて、彼女の肋骨にヒビを入れるほど衝撃は拡散していく。
そしてその殴られた勢いで、葵は数メートル先に飛ばされる。
「カハッ!!!!!!!!!!」
鬼化であっても、隙だらけの鳩尾への攻撃は無効化できず口からは大量の血が吐き出される。
(やばいッ!!! このままだと連続攻撃がくるッ!!!!!)
今までの経験から相手の攻撃を予想した葵は、すぐさまワイヤーを切断する。
一方、男は首にワイヤーを巻き付け地面に叩き付けようとするがそれは阻止され、葵は一旦距離を取る。
そしてすぐさま痛覚遮断を発動し、折れた肋骨の回復をする。
「ふぅ、まさか投げたCVAを一旦解除してから再び展開するとはね。中々出来る事じゃないよ」
目から流れ出る血を拭き取りながらそう言う男の発言は、どこか余裕が感じられた。その余裕が癪に障ったのか、葵はぶっきらぼうにその言葉に嫌味を返す。
「ふん、あなたも同じ事してたじゃない...」
葵が先ほどしていた攻撃のからくりはCVAの解除と再展開の理論を応用したものである。
CVAは一旦解除すると、もとの携帯していた形に戻る。それは例え攻撃中であっても、本人の意志さえあれば可能である。
だが、問題は再展開である。解除というものは一瞬で行えるが、再展開はクリエイターの技量次第で大きく左右される。そのため実行に移す者はいないが、葵はそれを創造秘技とはいかないまでも、一つの技として体系化していたのだ。
(これはそろそろこっちも、奥の手を出すしか無いか... でないと鬼化の効果が保たないし...)
何か覚悟を決めたようで、大鎌を強く握り姿勢を低くする。
男は彼女の雰囲気が変わった事を察知し、ワイヤーを自分を取り囲むように生成する。
「創造秘技――――――夕照」
突然、葵の大鎌から直視できないほどのまばゆい光が発する。
それは、直射日光を直接浴びるものに匹敵するほど眩しいもので男は思わず右手で光を遮ろうとするが...
――――男の右腕は既に大鎌によって、空中に刎ねられていた。
「アハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!! ほら、まだ終わりじゃないよ!!!!!!!!!!」
男は苦痛に顔を歪ませながらも、彼女の攻撃を何とか避けていく。しかし、右腕を切断された際に右目も切り裂かれており、回避が中々上手くいかず所々大鎌に切り裂かれていく。
「っく、仕方ないッ!!!!!!!」
そういうと、残った左腕だけでワイヤーを射出し彼女の身体を八角形のワイヤーで囲んでいく。
「閉鎖ッ!!!」
苦痛に声を震わせながらも、なんとか創造秘技を発動する。しかし、その攻撃速度は今までのものに比べればかなり遅くなっていた。
そのため難なく攻撃を避けられてしまい、男はかなり劣勢となってしまう。
「甘いね、そんな攻撃当たらないよ」
先ほどまではかなり興奮しながら攻撃をしていたが、引き際をしっかりと考えていた葵はその攻撃をいとも簡単に避ける。
再び距離を取る二人だが、男の方はもはや満身創痍だった。
「はぁ.... まさかここまでやられるなんてね... 創造秘技に属性攻撃を加えるなんて、厄介な技だ... はぁ...」
彼女が放った創造秘技の名は、夕照。CVAから直視できないほどの眩い光を放つ技である。使っている属性は火と雷だが、このようにCVAは応用次第ではこのように目くらましにも使用できるのだ。
そして男のVAは視覚系だったので、そこを上手く突かれてしまった。視覚系VAの特性上、相手から目を離す事は決してないが、目に入ってくる光の量を瞳孔を操作して少なくすることはどんなクリエイターにも不可能である。しかも、夜と言う事もあり瞳孔が通常よりも大きく開いているので、光をかなり多く眼に入れてしまったのだった。
彼女は相手のVAの特性、そして今が深夜という最も夕照が効果的に発揮できる状況を見極めて今の状況を作り上げたのであった。
そしてなんとか、声を絞り出すも右腕からの出血が止まらないようで苦痛に顔を歪ませる。男は左腕のワイヤーを残った右腕に強く巻き付け、止血するも血を失い過ぎたようで足下がふらついていた。
「夕照は中々使えるでしょう? 特に夜にはねぇ。瞳孔を操作できるVAはまだないみたいだから、かなり効いたでしょ? アハハハハハハハハハハ!!! それにしても、右腕なくなっちゃったねぇ? ねぇ? まだ戦えるのぉ? ねぇ?」
「ふぅー... まぁ、なんとかするしかないね... 痛みには慣れてたつもりだけど、切断は流石に二重の意味で痛いね。攻撃の幅も少なくなるし... これはこっちも奥の手を出そうかな...」
しかし、その発言は強がりだと彼女ははっきりと分かった。夕照の効果は何も目くらましだけではない。というよりも、本来の狙いはその後である。
夕照によって、発したのはただの光ではない。光の中に、高熱の、それもレーザーにも匹敵し得るものを混ぜていたのだ。しかも、それは相手の両目に当たるようにピンポイントで調節してある。
男は何とか致命傷は回避したようだが、一瞬でも目にその光が入ったため、角膜と網膜、そして水晶体もかなり損傷しており、失明とまではいかないまでも視覚系のVAを使用するのは完全に不可能なレベルまで傷つけられてしまったのだ。
「ハハッハハハハッハハハ!!!!!! 強がりはやめなよ、もう決着は着いたよ!! 楽しかったよ? かなりスリリングな戦いだったしねぇ。じゃあ、バイバ〜イ」
葵は、鬼化は未だに維持できているようで、大鎌を抱えながらも超高速で移動する。そのスピードは、もはや視覚系のVAを使用できない男には視認するのは無理だった。
「やっぱり分かってたか。じゃあね、葵。俺も楽しかっ――――――――――」
最後まで言葉を言うこともなく、既に男の頭部は宙を舞っていた。加えて、彼女は左腕も切断し、宙に舞った頭部と左腕を大鎌で貫く。
「アハッッッッハハハハハッハッッッハハハアハッッッッハハハハハッハッッッハハハアハッッッッハハハハハッハッッッハハハアハッッッッハハハハハッハッッッハハハアハッッッッハハハハハッハッッッハハハアハッッッッハハハハハッハッッッハハハ、最高だよぉ!!!!!!!!! このときがやっぱり一番最高だよおおおおおッ!!!!!!!!!!!!!!!! キャハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハッハハハアハッッッッハハハアハッッッッハハハアハッッッ」
大声を上げながら、次々と男の身体をバラしていく。まずは四肢を全て切断しそれを大鎌でまとめて貫くと、一気に引き抜き炎で燃やしていく。
タンパク質が燃えるときに生じる独特なニオイが立ちこめる。しかし、そんなことはお構いなしに解体作業を続けていく葵。
「う〜ん。やっぱりぃ、頭は最後にしてあげるよぉ。アッハハハハハハッハッハッハハハっハハハハハハハはハッッハハハは」
そういうと、彼女は頭部を側に置き、解体を再開した――――
ビルの屋上には大量の血痕と、そして肉片が散らばっていた。葵は痛めつけられる相手の反応を見るのも好きだが、最も好んでいるのは人肉の解体である。自分と同様に意志を持って生きている人間という生物を切り裂くのはたまらない快感なのである。それは他の動物では代わりにはならない。人間を切り裂き、解体するからこそ彼女は最上の興奮を覚えるのだ。
「アハハハハッハッハ。やっと、おわったよぉ。はぁ〜、楽しかった」
そう言いながら、右手に付着している大量の血を舐めとる葵。鬼化はすでに解除しているが、彼女の全身は真っ赤に染まっていた。血は時間が経てば黒く変色してしまうが、未だに彼女に着いている血はペンキでもぶちまけたように真っ赤であった。
「結局名前は聞けなかったけど、まぁ楽しかったからいいでしょ... ふぅ... 」
そして、彼女は最後に取っていた男の頭部の髪の毛を血でベトベトになった手で撫でる。
「アハハハッッハハハ。じゃ、最後にコレを弄って終わりによーっと」
そう言うと、彼女は男の両目に大鎌を突き刺し目玉を刳り貫く。そして大鎌から炎を出し、目玉を燃やす。
両目はドロドロと溶け出し、かなり異常な臭いが発生するが彼女は顔色一つ変えず目玉が燃えきるのを見届けた。
「はぁ、目玉燃やすのは良いけど... 時間もないし... うーん、何か萎えちゃったなぁ〜」
彼女は大鎌から先ほどよりも強い炎を発生させ、肉片と血痕を跡形もなく消し去る。まだ夜中だと言うのに、周囲は炎でかなり明るくなっていた。
(あぁ、やっぱり綺麗。肉が燃えるのは本当に綺麗。でも、冷静に考えるとこいつの目的は何だったのかしら。それに私が殺されて、戻ってきたと仮定しても辻褄が合わない点が多い... やっぱり、最後に少しは話しを聞いとくんだったかも。まぁいいや。今日は疲れたし、明日も学校があるから早く帰ろ。シャワーも浴びたいし。考察はまた今度にしようかなぁ)
惨劇の跡が全て消え去ったのを見届けた葵は、その場を去っていった。




