第20話 鈍感なお嬢様
「良かった、華澄は大丈夫そうだ」
歩は戦闘が終わりすぐに華澄のところへ向かい、応急処置をした。
「おい!大丈夫か!!」
氷結世界のせいで入って来れなかった警察が大勢来る。
「あぁ、良かった…」
警察が来て安心したのか、歩の意識はそこで途絶えた。
こうして理想との初めての戦闘は終わった。それも勝利という形で。
しかしこれはほんの始まりに過ぎなかったと、今後世界は知ることになる。
「我々は断固としてクリエイターだけの世界というものを否定します。なぜなら―― 」
テレビには有栖川家の当主が映っており、理想のテロ事件についての説明をしていた。
人々の頭の片隅にあったクリエイターの独立運動がとうとう現実化してしまい、世間は大騒ぎである。
そんな中、歩と華澄は同じ病院の同じ部屋に入院していた。有栖川家の計らいで歩も華澄と同じ病院に入れてもらったのだ。
「ねぇ、歩。あなた私が倒れてからどうやってあいつを倒したのよ」
「え、それは... 華澄と俺が戦ってる時点でもう大分疲れてたみたいだから... 後は誰でも倒せたと思うよ、うん。華澄が相手の体力を削ってくれたおかげだよ! じゃないと、ワイヤーなんてCVAで倒せるわけないさ」
「ふーん。じゃあそういうことにしてあげるわ。でも、歩は何か色々隠してる気がするのよね〜。気のせいかしら?」
上目遣いで尋ねてくる華澄。瞬間、歩に衝撃が走る。
(これは、いつもの奴か! クソッ、なんて可愛さなんだ! 相変わらず精神攻撃の精度が高すぎる! 並みの男なら既に5回はやられているところだろう... よしクールになるんだ七条歩。彼女のアレは天然でやっていると結論付けたばかりじゃないか!! 待てよ!? やはりこの思考に俺を辿り着かせるための高度な作戦の線も捨てきれない… 侮りがたし、有栖川華澄… 今後も要注意だ…)
心の中では激しく動揺していたが、それを表にあまり出さず歩は返答した。
「ま、まぁクリエイターだから隠し事の一つや二つはあって当然だろ? アハハハハハ...」
「まぁいいわ。そこは詮索しないであげる。でもね、歩だから勝てたのよ、私はそう思うわ。ありがとう、助けてくれて」
「え...」
真正面から真剣な顔つきで礼を言われ、思考する間も無く固まってしまう。この子の純粋さには敵わないなと痛感した歩であった。
それから数日が経過し、歩と華澄は無事に退院した。久しぶりに学校に行くと、クラスの人の視線が凄かった。
そんな中、雪時がすぐに歩のところに駆け寄ってきた。
「おい、 歩! 大丈夫なのか!? テロに巻き込まれて怪我したって聞いたが…」
「あぁ、まあ何とかね。有栖川家の人のおかげでいい病院に入れてもらったし」
「そうか、そりゃ良かった。そうえば、噂になってるんだがテロリストを撃退したって本当なのか?」
「えっ!?」
(まずい、何でそんな事になってるんだ? 警察にも有栖川家の人にもこの件は内密にって言われてるのに、なんでそんな核心をつくような噂が出てるんだよ!)
「いや、俺たちはただ偶然居合わせただけで何にもしてないよ。な、華澄!!」
自分だけではフォローできないと思い、すぐさま華澄に助けを求める。
「えぇ...私と歩は特に何もしてないし、何も知らないわ...」
華澄の顔からは簡単に動揺している事が見てとれた。
(このお嬢様、隠し事下手かッ!! 俺も苦手だけど、華澄はひどいなッ!!)
しかし周りの関心はもはやそこではなかった。
「あれ? 歩、お前有栖川さんの事下の名前で呼んでたっけ?」
(しまったぁああああああああ!! ま、まさかそっちにも爆弾があったとは!! こ、こいつはまずいぞ。なんとか言い訳しないと)
「聞き間違いだろ。ね、有栖川さん?」
「どうしたの歩? いきなり苗字で呼んだりして。下の名前で呼びあうことにしたじゃない」
(お嬢様あああああああああああッ!!!!??? 有栖川家の教育どうなってるのおおおおお!!? なんなの? 空気読めない子に育てるのが家訓なの? これは異次元すぎて対処できねぇよおおおお)
そして周囲には、戦慄が走る。この二人はテロに巻き込まれてなぜ仲が深まっているのか、様々な憶測が飛び交う事になった。
「やったな、歩。俺は応援するぜ!」
雪時は完全に勘違いして、そう言いながら歩むの肩に手を置いた。
すると、彩花が唐突に近づいてきた。
「じゃあ、あたしも歩って呼ぶね!」
「あ、不知火さん久しぶり」
「あたしのことも彩花でいいよ、歩」
「え、はい。よろしくね彩花...」
(はぁこれは先が思いやられるな...)
こうして久しぶりの登校は大騒ぎのまま幕を閉じた。
テロ事件が起きた後だが、三校祭の校内選抜戦はすぐそこまで迫っていた。
「そろそろ、校内選抜戦始まるからちゃんと準備しとけよ〜」
そう言って教室を出て行く茜。校内選抜戦が迫っているので、教室は僅かだが緊張感に満ちていた。
「そうか、もう始まるのか」
「おい、大丈夫か? もう明日からだぞ?」
「怪我はまだ完治してないけど、予選のタイムアタックなら今の状態でも大丈夫... なはず...」
雪時と会話を交わす歩だが、少し懸念があった。
(やばいな、極限集中使ってからまだ一週間も経たない内に実戦か。こりゃ何とかしないとな)
―― 三校祭 ICH東京本校 校内選抜戦が間もなく始まる。
次回から第2章となります。




