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Arms Creator-アームズ・クリエイター  作者: 御子柴奈々
第1章 Commencement
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第18話 本領発揮

「オラオラどうしたァ!! そんなもんじゃねぇだろォ!!」


 叫びながら大量の氷を射出してくる竹内に対し、歩は防御に専念せざるを得なかった。


 氷をワイヤーではじく音が増幅して反響し、室内に轟音が響く。しかしその音が全く耳に入らないほど歩は集中していた。


「くうううッ!!」


 歩はうめき声を上げる。今のところすべての攻撃を回避しているがVAの使い過ぎで出血が無視できない量になってきていた。眼、鼻、耳に加えて腕の皮膚も裂け始めていて、周辺に血が飛び散る。


「おいおい、VAの使い過ぎか? 視覚系のVAは高負荷だからな、こりゃ俺が手を下すまでもないか?」


 圧倒的優位な状況だからこそ、そのような皮肉を言う。

 しかし、歩は『ある事』をするまでの時間を稼ぐために思考を巡らせていたので返答はしなかった。


「まぁいい。もう楽にしてやるよ」


 竹内が神速インビジブルで消える直前に歩は複眼マルチスコープ俯瞰領域エアリアルフィールドを解除し、すぐさま支配眼マルチコントロールを展開する。


(どうやら、氷結世界グラツィーオスフィア内での氷の生成と神速インビジブルは同時にできないようだな)


 冷静にそう思い、目の前から完全に消えた竹内の姿を支配眼マルチコントロールがなんとか追いかける。残像しか見えなかったが、攻撃を避けるのにはそれで十分だった。


 今の歩は冷静な上にリラックスし、完全に目の前の出来事に集中できていた。


 今まで氷結世界グラツィーオスフィア神速インビジブルなどと信じられなような事ばかり起きていたので、集中を欠いていたがこの土壇場どたんばでやっとこの状況に慣れてきていた。


 身体的なダメージはかなりひどいが、この戦闘の中で最も良いパフォーマンスが出来ていた。歩はCVAで劣っているからこそ、VAと自分の思考力で強くなってきた。その真価がこの局面でやっと発揮されたのだ。



「お前、満身創痍じゃないのかよッ!!」


 いらつきと驚愕から思わず不満の声を漏らす。


 それもそのはず、歩は戦闘をしているのもやっとの状態なのに、自分の神速インビジブルとレイピアを組み合わせた超高速の連撃を避け続ける上に反撃までしてくるのだ。一体何がどうなっているのか理解できない竹内は焦っていた。


 一方歩は冷静に相手を分析していた。


(いいぞ、支配眼マルチコントロールがかなりいい具合に馴染む。今まで一番かもしれないな。よし、状況整理だ。


 神速インビジブルで移動してからレイピアへの攻撃に移るまで、0.2秒。そして次に一秒間に約10回の連続突き。この攻撃の中で7回目と8回目の突きに若干の間隔がある。加えてこの間はどうやら攻撃への意識が強いようだ。防御の意識がまるでないな。


 氷の上での戦闘ももう完全に慣れた。今ならいける)


 そう考えた歩は反撃すべく、右手人差し指のワイヤーを一本だけ硬化する。その硬度はある程度堅い肉でも貫く事が可能なほどであった。


「これで終わりにしてやるよおおおおッ!!!!!!」


 先ほどからの歩の不気味な雰囲気を感じ取った竹内は、神速インビジブルを最大出力で使う。


 しばらく歩の周囲を回り、撹乱かくらんしようとするが支配眼マルチコントロールに完全に捉えられているため中々攻撃の機会を得られなかった。


(クソッ!! どうなってんだ!! あいつはこの状況でなんであんなに冷静なんだよ!!)


 興奮しすぎて、冷静でない竹内はしびれを切らし正面から突撃する。


「うおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 叫びながら、歩が反撃できないほどの高速でレイピアによる連撃を叩き込むと意気込み、10連撃を放つ。




(冷静になれ、タイミングを伺うんだ。1、2、3、4、5、6、7、――ここだッ!!)


「はあああああッ!!!!」

「なにッ!?」


 歩も叫ぶ。

 突きの間隔がわずかに長い瞬間を狙って、硬化したワイヤーによる刺突を右肩に向け放つ。

 

 竹内は攻撃されてるのに気がつき、咄嗟とっさに躱そうとするが攻撃に意識が向きすぎていて不可能だと気づいた。

 硬化したワイヤーは竹内の右肩を貫通した。そしてそのままワイヤーを腕の外側にスライドさせ、相手の腕を切り裂いた。


「ぐうううッ!!」

 

 苦痛の声が響く。

 右肩をやられたと悟り、思わず身を引く。そして距離をとり膝をつく。


(致命傷じゃないが、利き腕にダメージを負ったのはまずいな。クソッ! まじでどうなってやがんだ!!)


 「はぁ...はぁ...はぁ...」


 肩で息をしながら眼から流れる血を右手で拭く歩。


(よし、出血はひどいが一連の攻防のおかげで完全に『アレ』にはいる事が出来た...これなら何とかやれそうだ...)


 竹内も氷結世界グラツィーオスフィア神速インビジブルの使用のせいで確実に疲労していた。


 お互いに満身創痍まんしんそうい。しかしここまできて負けるわけにはいかないという想いが二人の心を支えていた。


「お前... しつこ過ぎるだろ.... はぁ... おとなしく楽になれや...」

「それは... こっちの台詞だ... 属性具現化エレメントリアライズ神速インビジブルでかなり疲労してるだろ... はやく諦めろよ...」

「そういうわけにもいかねぇ...... 俺たち理想アイディールはもう引けねぇんだよ...」


 軽く会話を交わすが、お互いに話すのがやっとのようだった。


「さぁ... 最後の勝負といこうぜ」

「あぁ... やっと準備が整ったしな」

「準備だと...?」

「これでお前に勝ち目はなくなる... 諦めるなら今のうちだぜ...?」

「ハッタリは通用しねぇよ... 今度こそこれで終わりだッ!!」


 会話の途中に攻撃を仕掛けようとするが、竹内は歩の異常な雰囲気を感じ取り再び後ろに下がる。


「おい、お前その目はどうした...?」

「だから言ったろ、準備ができたってな」


 歩の目は右目が緋色、左目が蒼色となっていた。そして、歩はどこか遠くを見ているようで竹内に焦点があっていなかった。


「なんだ? ここでまた新しいVAか...?」

「いや、これはそう言うたぐいのものじゃない」


 竹内はそう尋ねるが...


 ――次の瞬間地面に叩き付けられていた。


「ぐはッ!!!」


 顔面から氷にぶつかり吐血する。よく目を凝らすと首にワイヤーが巻き付いていた。


「まじでどうなってんだよッ!!」


 そう言いながら氷結世界グラツィーオスフィアで生成した氷の剣を地面から生成し、ワイヤーを断ち切る。


(おいおい、いまこっち見てなかったろ。しかも、明らかに今までと雰囲気が違いすぎる。左右の目の色が違うが、複眼マルチスコープ支配眼マルチコントロールをただ同時に使ってるだけじゃあ、さっきの攻撃の説明がつかねぇ。こいつは口だけじゃなさそうだな...)


 竹内は心の中でそう思うが、正直どう対応していいか検討もつかなかった。


「さぁ今度こそ終わりにしよう...」


 全身血まみれで満身創痍にしか見えない歩だが、その発言はどこか余裕が感じられた。

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