第16話 氷結世界(グラツィーオ・スフィア)
華澄と竹内がお互いのCVAをぶつけ合う。双剣とレイピアが接触するたびに甲高い金属音が室内に響く。
「ハアッ!!」
「おっと、いい剣筋してんなぁ。さすが御三家、有栖川家の人間だ」
華澄は未来予知を全開で発動しているが攻めあぐねていた。竹内の攻撃は未来予知ですべて躱しているが、肝心の自分の攻撃が思うようにできず華澄は内心焦っていた。
一方、歩は竹内の死角に回り込みワイヤーで脚を絡め取ろうとするがなぜかすべて躱されてしまう。華澄と剣を交えているのにまるでこちらをはっきりと見ているかのようだった。
(おかしい、俺も華澄も攻撃がほぼ当たらない。奴は加速以外にもVAを持っているのか?)
――そう考えていた矢先
歩の目の前に竹内が迫っていた。
「考え事でよそ見はいけねぇぜ、七条」
「ッく!! 加速かッ!!」
レイピアで連続の突き攻撃をしてくるが、歩は複眼でレイピアをロックしていたため致命傷は受けなかった。
しかし複眼をもってしても、左腕に向けてきた突きは回避できなかった。
歩はすぐさま距離を取り、華澄と合流した。再び、二対一でにらみ合う構図となる。
「くそッ、流石に元プロか。桁違いだな」
「大丈夫、歩?」
「あぁ致命傷は避けたよ。でも左腕はすこしやられた。これはちょっとやばいかも」
「ごめんなさい、私がそっちに行かせてしまったから」
「いやあれは仕方ないよ。流石に想定外だ」
二人でそう話していると、竹内が会話に割り込んできた。
「お前らは、クリエイターの戦闘を分かってるようで分かってねぇ。CVAとVAに頼りすぎなところがあるな。いいか、クリエイターの強さってのはCVAとVAの使い方だ。いくら一級品のモノがあっても、肝心の使い手が悪けりゃ宝の持ち腐れだ。逆に、ごく普通のCVAとVAでも使い方次第では自分より格上のやつに勝つことも出来る。つまり、頭の使い方で戦闘はどうにでもなる。俺はそうやってのし上がってきた」
「なんだ、説教しているのか?」
歩は相手が言っている事に少し感心してしまったので、それを隠すように口では悪態をついた。
「説教ってよりは忠告だな。あと、お前ら勘違いしてるようだが俺はレイピアと加速だけだぞ? 感知系のVAなんて俺には無い」
(!? 感知系のVAなしで俺と華澄の攻撃を避けていたのか!? これは本気でヤバいな。中堅とは言え、元プロ。伊達じゃないな......)
歩がそう考えている間も竹内は話を続ける。
「うし、それじゃあお前らもちゃんと本気出してこいよ? じゃないと、死ぬぞ?」
――瞬間
華澄と歩の目の前から竹内が消える。
「こっちだ」
後ろから声が聞こえる。その声と同時に竹内がレイピアで攻撃してきていた。その勢いは並のクリエイターではとても対処できるモノではなかった。
華澄は未来予知でなんとか躱すが、歩は複眼をもってしても動きを認識できなかった。そして今度は右腕にレイピアが突き刺さる。
「ぐッ!!!」
思わず声が漏れる。歩はすかさず距離をとった。
華澄は歩の出血を見て声を上げる。
「歩!? あなた血がそんなにもッ!!」
「大丈夫。まだまだ、これからさ...」
「お、まだやる気か。お嬢様はともかく、七条は体力的にも厳しそうだが」
レイピアについた血を払いながらそう答える。まだまだ竹内に余裕がみえていた。
「華澄、今度は完璧にバックアップする。だから俺を信じて行ってくれ」
「それはいいけれど、歩は大丈夫なの?」
「このぐらいかすり傷だよ」
「そう、あなたがそう言うならわかったわ。じゃ、任せたわ」
華澄は再び双剣を構えて相手に向かって行く。
歩は目を蒼色に変化させ、支配眼を発動する。
(正直、俺の身体が保たないかもしれない。でもここはそんなことを言ってる場面じゃない。最大出力で行く)
華澄と竹内が再び剣を交える。
「はああああああッ!!!!」
「ッく!!」
華澄の勢いに少し押され竹内が声を漏らす。
剣の交わる音と互いの声が再び室内に反響する。華澄と竹内のCVAからは火花が飛び散っていた。
(奴が瞬きした瞬間に、右足にワイヤーを放つ。認識されても避けれないタイミングでやりたいが...... いや迷っていてはダメだ。確実に捕らえる)
「今だッ!!!!!!」
竹内が瞬きした瞬間に歩はワイヤーを最高速で放つ。この段階ではまだワイヤーは認識されていない。
支配眼だからこそ、出来る芸当。歩の支配眼はプロにも通じるようであった。
「!? いつの間にッ!?」
竹内はそう言うが、すでに右足にワイヤーが巻かれていた。
歩は捕らえたと同時にワイヤーを手前に引く。そうすることで竹内のバランスが崩れる。
もちろん、華澄がこの瞬間を逃すはずは無い。
「はああああッ!!! 属性開放ッ!!」
華澄の双剣が炎に包まれていく。
竹内は急いでワイヤーを切り裂き、バックステップをとるが華澄の炎を纏った双剣が胸を切り裂いた。致命傷とまではいかないが、かなりの量の血が流れる。そして傷口は炎で焼かれたため、黒い煙が生じていた。
距離をとった竹内は片膝を着いた。呼吸が激しく、顔には大量の汗が浮かんでいる。
「さぁ、もう諦めなさい。決着は着いたわ」
華澄がそう言う一方、歩は右目を抑えていた。
歩の右目と右耳から少量だが血が流れていたのだ。
(出力を上げすぎたか...... 右目と右耳から出血してるようだ...... でもまだ支配眼を解除するわけにはいかない。奴の目はまだ死んでいないからな...)
「はぁ......はぁ......、お前ら......やっぱ強いな。これは本気でアレを使うしか無いな」
「……アレって何よ」
「一応知ってるだろ、属性具現化だよ」
「な!? あなた『アレ』が使えるの!?」
「とっておきだったんだが、出すしか無いようだな...」
――属性具現化
CVAで使用できる属性攻撃は火、水、氷、雷の4つ。CVAによる属性攻撃はクリエイターの意志によって様々なカタチに変化させる事が出来る。その中でも現実世界に影響を与えるほど強力な属性攻撃を属性具現化と言う。属性攻撃のチップをすべて消費して使用するが、その威力はその代償以上に強い。クリエイターの創造の極地の一つとも言われている。プロの世界でも世界大会でもほとんど見られない、秘技中の秘技である。
「さぁ、見せてやるよ。氷の世界を――氷結世界」
竹内はそう言うとレイピアを地面に突き刺した。
すると、周りが一気に凍り付いていく。尋常でない速度で建物の5階辺りまで氷が浸食する。歩と華澄はすかさず空中に跳んで氷付けになるのを回避したが、先ほど倒した19人のクリエイターは完全に氷付けになっていた。
そして着地すると、そこには完全なる氷の世界が広がっていた。氷は純度が高いのかかなり透明で、室内を煌びやかに照らしていた。
「氷結世界内では俺の意志で氷を完全に操る事が出来る。こんなふうにな」
焼けた傷口を凍らせる事で炎症を抑え、さらに止血もする。
そして、地面の氷から大量の剣が生えてくる。視認できる限り100本近くの氷の剣が竹内を囲むように生成された。
「華澄、まだいけるよね?」
「無論だわ。属性具現化は厄介だけど、あなたと私がいれば勝てる。そうでしょ?」
「あぁ、負けるわけが無いさ」
――戦いは最終局面に入る。