第15話 俯瞰領域(エアリアルフィールド)
歩と華澄は背中合わせにして、周りの敵と対峙している。
一方、竹内の部下総勢19人は二人を囲むように陣取っている。
「華澄、俺が19人の足止めを一気にする。その瞬間相手を戦闘不能にしてくれ」
「いいけれど、19人も同時に足止めできるの?」
「まぁちょっと大変だけど、できないことはないさ」
「ふーん、じゃあまかせたわ」
華澄は正直その方法が気になったが、それをわざわざ聞くのは無粋と思いあまり興味が無いふりをした。
話しているうちに敵が一斉に襲ってきた。並のクリエイターならば竦んでしまうような状況だったが、歩と華澄は冷静だった。
歩はまず複眼を展開。目が緋色に変化する。そして、そこからさらに俯瞰領域を発動する。
――視覚系VA 俯瞰領域 半径50メートルを俯瞰してみることが可能になるVA。ほぼリアルタイムで360度動く物体を見る事ができるが、あくまで俯瞰なので全体を見れるだけでそこから範囲を狭くする事は不可能。
しかし、歩の複眼と俯瞰領域が合わされば弱点はなくなる。
俯瞰領域で視た敵をすぐさま複眼でロックし、歩はワイヤーを両手から30本ずつ計60本のワイヤーで敵を絡めとりにいく。
(一瞬でいい、一瞬だけでも19人同時に止めれば華澄がやってくれる)
「ハッ、こんなワイヤーで俺たちは捕らえられねぇよ」
一人の男がそう言うが、様子がおかしい事に気づいた。迫ってくるワイヤーの精度が異常なほどに正確なのだ。
しかも、歩の死角に位置している敵でさえワイヤーで絡めとられようとしていた。
敵は相手がただのワイヤー使いではないと悟ったが、すでに遅かった。歩は19人全ての動きを止める事に成功していた。相手もワイヤーだからといって嘗めなければ、もう少し時間はかかっていたはずだがその態度が仇となった。
「華澄!! 今だッ!!!!」
歩は全員を捕らえた瞬間、そう叫んだ。
「ええ、任せてちょうだい。全開でいくわ。――未来予知」
華澄は未来予知を発動し、動きが止まった敵全員に双剣で突撃する。
未来を感覚的に認知できる華澄は動いている相手ならまだしも、一瞬でも止まった相手ならば一撃で片付ける事が出来る。どんな行動をとってこようが、華澄には分かる。相手がどのような行動をこれからしてくるのかを。
ならば、あとは単純な作業だった。時間にして3秒もかかっていない間に、全滅させた。
「ふぅ、ちょっと精度が甘かったわ。もっと未来を認知した後の動きを素早くしたいわね」
「いや、上出来だよ。というか、全力だとあんな感じなんだね。ちょっと視てて怖かったよ」
「ふふ、それならよかったわ。それほど脅威に感じたんでしょ? 全力を出した甲斐があったわ」
ふたりは軽く雑談を始める。本当の実戦だというのに、緊張感の欠片も無かった。それほどまでにこの二人は慣れているのだ。クリエイター同士の本気の戦闘に。
しばらくし、倒れていた5人のクリエイターが人質をなんとか逃がした。
なぜか竹内はそれを見逃した。歩はそこに疑問を感じた。
(こいつらの目的は人質じゃなかった? ......まさか華澄を狙っていたのか?
わからないな、理想のやつらの大局的な目的は分かる。でもこの状況は何だ?)
現在、この空間にいるのは歩と華澄と竹内の3人のみ。これは間違いなく歩か華澄狙いだと言う事が分かる。そして、竹内は二人に向かって話し始める。
「やっぱり、あいつら程度じゃ話しになんねぇな。わかってたが、ここまで圧倒的だとは思ってなかったぜ。相性いいな、お前ら」
「な!? 相性いいとか関係ないわ!! 私たちが強いだけよ!!」
なぜか反論し始める華澄。戦闘の後だからかは分からないが、ほおが少し赤くなっていた。
「お前、先日俺の家に来た奴だろ? 今ならわかるよ。あの時の奴と身のこなし方が一緒だ」
「あぁ、そうだ。あのときは様子見だったがな」
竹内はまだ戦う気はないようで、再び話し始めた。
「お前、理想の話しを聞いたのはさっきが初めてか?」
「ん? あ、あぁ。そんな組織今まで聞いた事も無いな」
「やっぱりかぁ〜〜。ちょっとそれは面倒だな〜〜」
「?」
歩は顔をしかめた。理想なんて組織は今まで聞いた事は無い。それなのに、竹内は歩が知っているかどうかを確認してきた。
(なんだ? 俺はどこかですでに出会っていたのか?)
疑問に思うも答えは出なかった。
「ちょっと、あなた。結局何が目的なの? ここにはもう私たちしかいないじゃない。それなのになんでまだここに留まっているの?」
「それは目的が七条歩だからだよ。今までのはそのお膳立てにすぎねぇ。ま、有栖川家のお嬢さんまでいるのは想定外だけどな」
「私じゃなくて、歩が目的? それはどういう事なの?」
「俺から言えるのはここまでだな」
竹内はCVAを展開する。どうやら話しはここまでのようで、戦い始めるつもりのようだ。
「二対一でいいぜ。かかってこいよ」
そういうと竹内はレイピアを構える。目つきも先ほどとは違い、鋭くなる。元とはいえプロだったクリエイターの出す雰囲気は尋常ではないほど圧があった。
しかし、こんなところで怯んでいては勝てるもの勝てない。
歩と華澄も戦闘態勢に入る。歩は両手のグローブを締め直し、華澄は両手の剣を構える。
「歩、どうする? 作戦を練る暇はなさそうだけど」
「俺のワイヤーだとバックアップが精一杯だろうね。前衛は任せるよ、華澄」
「ま、それが妥当ね。じゃあよろしく頼むわ」
そして、再び戦闘が始まった。