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Arms Creator-アームズ・クリエイター  作者: 御子柴奈々
第1章 Commencement
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第12話 疑問

 カフェに入った歩と華澄は窓際の席に着いた。

 歩はブラックコーヒーを注文し、華澄は季節限定のパフェと紅茶を注文した。


「あのさ、有栖川さんは遠慮ってモノを知らないの?」


「え? あなたこれぐらいで先ほどの失言が許されるとでも?」


「!? まだ足りないの!? 今月生活費ピンチだから勘弁してよ!!」


「七条君一人暮らしなの?」


「そうだよ! 節約してなんとか暮らしてるんだよ!!」


「まぁ。それならこのパフェだけで許して上げましょう。特別ですよ?」


 そう言うと華澄は外をみて鼻歌を歌い始めた。気分がとてもいいようだった。やはり女子はいつの時代も甘いモノを好む傾向にあるようである。


(この人、ほんとにお嬢様っぽくないよな。ギャップ激しすぎ。まぁフランクな方が話しやすいからいいけどさぁ... でも金銭的なダメージはまじで勘弁して欲しいよ......)


 それからしばらくし、注文した品が来た。


「こちら、季節限定のパフェでございます」


 店員がそう言うと華澄は素早く反応した。


「はい! こっちです!」


 目の前にパフェが置かれ、華澄の目は宝石のようにキラキラと輝いていた。

 一方、歩はブラックコーヒーを飲みながらなんだか悲しい気持ちになっていた。

 しかし、スプーンでパフェのクリームをすくい食べ始めた華澄の嬉しそうな表情を見てまんざらでもない歩であった。


「ん〜〜〜〜、美味おいし〜〜〜!!!! やっぱりパフェはおいしいわね!!」

「そんなパフェぐらい家で食べれるもんじゃないの?」

「あなたね、有栖川家を何だと思ってるの? なんでもやり放題のゆる〜い家庭だと思ってるの?」

「いや、そこまでじゃないけど... でも、多少はやりたい放題できるのかなって」

「たしかにCVA関係だったらやりたい放題ですけど、基本はとても厳格な家なんですよ? 御三家がパフェ食べ放題な家だったらみんながっかりするわ」

「まぁたしかに、ちょっとそれだとイメージ変わってくるね。というかやっぱり有栖川家は厳しいんだね」


 その事を聞かれた瞬間、華澄は少し悲しげな表情をしてから再び話し始めた。


「そうね。CVAの御三家筆頭(ひっとう)の有栖川家は色々と厳しいわね。ねぇ、七条君。あなたはクリエイターでいる意味ってある? なにか成し遂げたい事とかある?」


 先ほどとは打って変わって、華澄はパフェを食べる手を止め真剣に歩に尋ねる。その目は何か自分が望む答えを欲しているようにみえた。


「俺は将来はプロの世界に行きたいと思ってるよ。でもその前に三校祭ティルナノーグで優勝を目指してる。両親との約束もあるしね」


 歩の両親はすでに他界していて約束も何もしていないのだが、ここは敢えて嘘をつく事にした。その方が話しがスムーズに進むと思ったからである。


「七条君は目標が大きいのね。いいことだわ。私そんな七条君にずっと聞きたいことがあったの」


 華澄はどこか遠くをぼんやりと見つめながら疑問を投げかけた。


「あなたCVAはワイヤーでしょ? VAは視覚系のレア度の高いモノ持ってるけど、普通は心が折れたりしないものなの? 私が今まで見てきたユニーク系のクリエイターはみんな例外なく選手になる事を諦めていったわ。そして、あなたは恵まれないCVAでも諦めずに努力しているのはよく分かるわ。一体何がそこまであなたを駆り立てるの? よかったら教えてくれないかしら?」


 歩は少し戸惑っていた。彼女が自分のルーツを聞いてくるとは微塵みじんも思っていなかったので、返答に時間がかかった。


(彼女はどういう意図でこの質問をしているんだ? 純粋に聞きたいだけなのか?)


 しばらくし歩は口を開いた。


「俺の場合は、ただ自分のしたい事をしてるだけだよ。誰かの期待や満足感を満たすわけでもなく、ただ純粋に上を目指したいんだ。せっかくワイヤーでもクリエイターになれたんだ。たったそれだけのことで諦めたりはしないよ。クリエイターの強さは何もCVAだけじゃない。様々な要因が勝敗を分ける。それを知ってるから諦めずに続けて来れたんだ。いつかきっと自分が何かを成し遂げられると信じてきたからね」


 歩は純粋に思っていることを言った。一方、華澄の表情は未だに暗いままだった。


「そう、やっぱり七条君は心が強いのね。私とは大違い。自分でも言うのは恥ずかしいのだけれど、私は才能に恵まれたわ。もちろん努力を怠らなかったけれど、どこか決定的に足りないと思っていたの。でも七条君の話しを聞いてすこしは分かった気がするわ。ありがとう、言いづらいこと答えてくれて」


 華澄はすこし申し訳なさそうにそう言った。


 彼女は知りたかったのだ。恵まれない中でも何が歩を支えているのか。才能ではない強さとは何なのか。しかし、今はまだはっきりとした答えは得られない。けれど、華澄は今はこれで満足したようであった。


「力になれたらよかったよ。有栖川さん、ほんとに意外とよく考えてるんだね」

「これでも一応有栖川家の令嬢ですからね。まぁでも、たまには羽を伸ばしたくなる時もあるわ」

「お嬢様でも色々と苦労するんだね...... おっと、そろそろいい時間だし出ようか」


 歩がそう言い、立ち上がろうとすると

 


 ――いきなり窓ガラスが割れる音が店内に響いた。

 

 周りの客達は一瞬何が起きたのか理解できずに固まっていたが、すぐに状況を把握しパニックにおちいった。


(なんだ!? なにがおきてるんだ!?)



 ――こうして、歩と華澄は事件に巻き込まれる事となる。

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