第11話 デート
放課後、華澄に呼ばれた歩はすぐに彼女のもとに向かう。
というのも、話とやらを早めに終わらせて欲しかったからなのだが、華澄は思わぬ事を口にした。
「来たわね。じゃあ行きましょうか」
「え? まさかどこか行くの……?」
「七条君。まさかとは失礼ね。私が出かけると言ったら行くのよ」
「(まじかよ……)あ、うん。分かったよ……」
「はい、よろしい。では改めて行きましょうか」
歩は予想外の展開に頭がついていけず、思わず了承してしまった。
一方、華澄は満足げに微笑んでいた。
彼女は一体俺に何の用なんだ……? 思い当たる事が無いぞ……まぁ卒なくこなそう。当たり障りなく適当に付き合えば良いだろう。たぶん……
そんな失礼な事を考えながら歩は華澄の後を追う。
その一方、教室はざわついていた。男女二人が公然とデートをしにいったのだ。思春期の男女が気にするのは当然である。しかも、相手はあの有栖川華澄と七条歩。いつの間にそんな仲になっていたのかと教室内は噂で持ち切りだった。
そんな中、彩花は誰とも話さず不機嫌な雰囲気を纏っていた。誰も話しかけようとはしなかったが、雪時はそんなことおかまいなしに話しかける。
「なぁ、不知火さん。大丈夫だって、別にデートとかじゃないから」
「……どこにそんな根拠があるのよ」
「いや、歩と有栖川さんだぜ? ありえないだろ」
「それはあなたの主観的な考えでしょ。実際のところは分からないわ」
「そう言われると、どうしようもないが。てか、やっぱり歩の事気になってるのか?」
「っば、バカッ! そんなんじゃないわよ! ただちょっと負けたのが悔しくて気になってるだけよ。あくまで恋愛とかじゃなくてクリエイターとしてよ!」
「あー、はいはい。今の反応で大体分かったよ。今度からはそれとなく空気読むわ。それじゃな〜」
そういって雪時は去っていった。彩花は顔を真っ赤にしながら机にうつ伏せた。
(この気持ちは違うわ。ただワイヤーなんてCVAであそこまで強いから気になってるだけよ。そうに違いないわ)
そんな事を考えながら30分程度伏せてから、落ち着いたのか彩花も教室をでていった。
2120年、あらゆるものが電子化、自動化したと言っても店に店員がいなくなったわけではない。昔に比べれば少ないが、街頭で呼び込みをしている人などもいるのだ。そして東京は何年経とうが人が多い。特に山手線の内側になるとその比率も跳ね上がる。現在はCVAの専門機関は主に東京にあるのでそのせいもあって、日本の人口は東京に集中している。
歩と華澄はふたりで渋谷の街を歩いていた。そしてなぜか出かける事になった歩は思わずため息をついた。
(はぁ...... なんでデート? することになってるんだ? 有栖川さんは何が目的なんだ? 敵情視察なのか?)
「七条君、日本は久しぶりって言ってたわよね?」
「うん、そうだけど......?」
「だから私が良い機会だから案内してあげようと思ったのよ! どう? うれしいかしら?」
「う、うん。ま、まぁうれしいよ」
華澄は歩の顔を覗き込みながらにっこりと微笑みながらそう尋ねてきた。
(!? 俺はどこかでフラグをたててしまったのか!? いや、慌てるな。これは前回と同様、高度な精神攻撃の可能性の線が捨てきれない。これから校内選抜戦も控えている。だからこそ始まる前に戦いにくくなるように、俺を連れ出したのか。危なかった、気づかなかったら彼女の餌食になっていたところだ。流石御三家筆頭の有栖川家の令嬢、やることがえげつないぜ。これは気を引きしめていかないとな)
などと考えている間に華澄は女性用の洋服店に入っていった。
「ちょっと、有栖川さん待ってよ!」
「あら、ごめんなさい。ちょっといい服を見つけたので思わず店内にはいってしまったわ」
「こんな事言うと失礼かもしれないけど、有栖川さんって普通のお店も入るんだね。御三家のお嬢様だから全部オーダーメイドの服とか持ってると思ってたよ」
「まぁ確かに、そう言うものも持ってますけど。でも私は出来る限り特別扱いはして欲しくないの。有栖川家という家の名前にいつまでも甘えてはいられないのよ」
そう言う華澄の表情はさっきと打って変わって曇っているようだった。歩も流石に気まずい雰囲気を感じ取ったのか、話題を転換しようと試みた。
「そうなんだ...... 初めて見た時は、すごーく高飛車で傲慢で家の名前に無駄に誇りを持ってるテンプレお嬢様と思ったけど、意外と色々と考えてるんだね!!」
「え? あなたいまなんて......?」
空気が凍り付く。
歩は最大限フォローした『つもり』だった。しかし歩の予想に反して華澄の機嫌はさらに悪くなっていった。
「あ!!! いや凄いお嬢様で! 可愛くて! 完璧! って言ったんだよ!! うん、いやぁ有栖川さんは第一印象から完璧すぎたよ!」
「ちょっと褒め過ぎなんですけど...... まぁいいわ。あなたが私の事どう思ってたか、よ〜〜〜く分かったから。うぅ...... ひどいわ。すご〜〜〜く傷ついてしまったわ。キズモノになってしまったわ! どうしてくれるの!?」
「え? え!?!?!」
華澄は周りによく聞こえるようにボリュームを敢えてあげて、そう声にだした。そう、周りからみればそれは痴話喧嘩にしかみえなかった。
「あ! そうだ! あそこでお茶でもごちそうするよ! だからそんなに大きな声を出すのやめてください!!」
歩はモノで吊るしかこの状況をおさめる術を思いつかなかった。しかし、華澄は狙い通りと言わんばかりにすぐに切り替えて、今いる洋服店をでてカフェに入っていった。
「はい、じゃあ七条君にごちそうになりま〜す。ほら早く来なさいよ」
「.................うん」
(くそ、この人お嬢様のかけらも無いじゃないか!! ただのいたずら好きな女子高生じゃん!! 性質が悪いよ...... 口は災いの元とはよく言ったもんだ)
華澄のあとを追いかける歩の背中は、心底疲れているように見えた。