百獣の王
サバンナにライオンがいた。このライオン、狩りが非常に苦手で、一ヶ月近く獲物を捕まえる事が出来ず、腹を空かせていた。そのせいか、痩せ衰えた脇腹からは肋骨が浮き出ており、こうなればいくら立派な鬣を生やしていようが、百獣の王の威厳も半減である。
今まではなんとか水で空腹を誤魔化してきたが、これ以上の餓えは生命の危機に関わる。
ある日、いつものように獲物を求めてサバンナを歩いていたライオンの許へ、一匹のハイエナがやってきて言った。
「どうもこんにちは、今日はあなた様に大切な用事がありまして参上致しました」
「私に用だと。一体どんな用事があるというのだ」
ライオンの問いに、ハイエナは今しがた、チーターの隙をついて頂戴してきたシマウマの肉を取り出して見せた。
「これは私が苦心の末にやっとの思いで手に入れたシマウマの肉でございます。このシマウマの肉を手に入れるには、それはそれは大変な苦労がありました…」
「なるほど、お前はシマウマの肉を自慢しに来たのだな」
ライオンは牙を剥き出し、今にもハイエナに襲いかかる素振りを見せたが、ハイエナはあわてて訂正する。
「とんでもございません!! 逆でございます!! この肉をあなた様に差し上げようと思ったのです!!」
「私にだと…」
「左様でございます。あなた様は百獣の王、つまり我々の頂点に立つ王という事になります。…ですが、失礼ながら、今のあなた様には百獣の王の威厳が全く感じられません」
自分自身も気づいていた事を、ハイエナにずばりと指摘されたライオンは、ハイエナをまじまじと見つめ返した。ハイエナの口調は徐々に熱を帯びる。
「私はあなた様に王の威厳を取り戻してもらいたいのです!! そんな痩せ細った百獣の王など見たくない!!」
ハイエナの言葉はもっともらしかったが、しかしそこはやはりハイエナである。今のうちにライオンに恩を売り付け、この恩を盾に、後々ライオンを利用しようとの考えがあったのだった。
「そういう事か…」
ハイエナの言葉を聞いたライオンはしばらく何かを考えていたが、やがて口を開いた。
「この肉は受け取れない…」
「何故です!?」
「私は曲がりなりにも百獣の王ライオンだ。その百獣の王が、ハイエナからお情けで獲物を頂戴したとわかれば、他の動物達に示しがつかない。今以上に威厳がなくなってしまう…」
「しかしだからと言って…」
「そこでだ、私の威厳を失わず、同時に腹も満たされる名案がある。ようするに、自分の力で手に入れれば問題ないわけだ…」
「その名案とはやはり…」
ずる賢いハイエナにはライオンの名案などすぐわかり、ライオンは一ヶ月ぶりの獲物に向かい、大きく口を開いた。