9話
いつまでたっても衝撃が来ないと思い薄ら目を開けると、ググンドはさらさらと灰になっていた。光に反射して輝いているようにも見えるそれの向こうには、剣を構えたアルが立っている。
それが少しだけかっこよく見えた。
これが吊り橋効果なのかな?
アルはそんな私の心中に気付くことなく、ズカズカとこちらに近づいてくる。
「マリア」
「はい」
「お前、魔物の危険さ分かってないだろ?」
初めて名前を呼ばれたなあという感慨に浸る間もなく、アルのお説教が始まった。結構お怒りの様子で、魔物の危険さ、無茶をしないことについて懇切丁寧に説明された。……無茶はしてないけど。魔法陣詠唱が終わるというハプニングがあっただけで。
「だいたい、お前は飄々となんでも戦おうとするけど、自分の戦闘能力を把握しているのか?俺がいなければ死んでいたぞ」
「う……それは……」
その通りだ。でも、私自身このスキルのことを分かっていないのだから、試してやっていくしかないのだ。とにかく、曲が終わると丸腰になるというのはよく分かった。
「……無理にでもお前を連れて逃げなかった俺も悪いけどな。もっと俺を効果的に使え。お前が死んだら元も子もないだろ」
「はい……」
「あそこで叫んだらお前に注意が向くに決まってる。俺はそのおかげで体制を立て直せたが、今度からそんなことはしないように」
……なるほど。アルにとってはそれが『無茶』に見えたのか。
そんなつもりは欠片もなかったけど、結果的にはアルが怪我しなかったし良かった。これからは不用意な行動はしないように気をつけよう。
「ごめんなさい」
大人しくそう謝るとアルは少し驚いて、分かったらなら良い、とググンドの灰の中を漁り始めた。私もそれに続いて、ググンドの灰の方に目をやる。
素材は、長い爪が二つ、普通の爪が六つ、コアが一つ。爪はアルが紐で一纏めにして括った。
「今日はもう帰るぞ」
「うん」
先程怒られたばかりなので、さすがに今日ばかりはアルに従った。
「……やっぱり、装備を全部揃えよう」
帰り道、アルにそう提案する。
今日の戦闘で思ったことだ。あるに越したことは無い。
「そうだな。お前ももう少し身を固めた方が良い。防御重視だな」
「アルのも買うからね?何が欲しい?」
「俺の剣は魔法で出すものだから、普通の時も使える剣が欲しいな。……さっきの爪でも加工できれば良いんだけどな。切れ味良さそうだし」
「なるほど」
確かに一理ある。剣に加工できるかなと、重いからと当然のようにアルが持っている爪に目をやる。見た目的には有り得そうだけど、この世界の武器事情がよく分からないのでなんとも言えない。アルの言い方からすると、アルもググンドの爪については心当たりがないのだろう。
うーん、どうにかして分かれば良いんだけどな。ステータスというか、説明文みたいなのが見れたら便利なのに。
【ググンドの長い爪】詳細
レア度:☆☆☆☆☆☆☆
ググンドのレアドロップアイテム。二つ合わせて加工することで剣になる。
【ググンドの短い爪】詳細
レア度:☆☆☆☆
ググンドのドロップアイテム。四つで短剣に加工することができる。
「っ!?」
「おい、どうした?」
「な、なんでもない」
びっくりした。突然ステータスのような画面が開いた。
……どうやら、ステータス確認はアイテムにも適用されるようだ。
勿論詳細と念じると、詳細情報が出てくる。
「この爪、一応加工できるか聞いてみようか」
「おう」
誤魔化すようにそう言ったが、私の中で剣に加工することは確定事項となった。
スキルよりも、このステータス確認が一番チートなのでは?と思う。