8話
そのモグラは、鋭い―――まるで刃物かのような爪を持っている。あれが武器のようだ。きらりと光を反射していて、切れ味が良さそうに見えた。
「戦うか逃げるか……うーん、まあここは戦闘かな」
「おい、本気で言ってるのか?明らかに危険そうだぞ。俺も見たことがない魔物だ」
「勿論、本気だよ」
「……分かった」
ちょうどレベルが上がったスキルを試したいし、丁度良い。
ただ、アルは少々不安なようだ。
「アル、大丈夫?怪我しそうなら下がってて良いよ」
「いや、この程度なら……俺に攻撃当てるなよ?」
「うん。もう大丈夫だから」
そう言って魔法陣詠唱を発動させる。
属性は水。レベルの選択画面に、攻撃対象選択という項目が増えていた。私は目の前のモグラを見ながら、あいつを攻撃したいと念じる。すると、【攻撃対象選択:ググンド】と表示が出る。あのモグラはググンドというらしい。その後にレベルを選択する。
【魔法陣詠唱:水属性Lv3、攻撃対象:ググンド】
そして音楽が始まった。
水属性はフルートのような音が主旋律を奏でる、穏やかな曲だ。曲調はゆっくりで、光が流れてくるもの遅く、タイミングが狙いやすい。ただ、そんな曲調から、高速の水の弾丸が飛び出す。この水の弾丸は途中で拡散し小さな弾丸となって的に当たる。範囲攻撃のような具合だった。Lv1だと普通の水の弾丸で、Lv2は1の上位互換で攻撃力が上がった物になる。ググンドは的が大きいのでLv3を選んだが、間違いではなかったようだ。そして、攻撃対象を選択した通り弾丸は意思があるかのようにアルを避け、ググンドに当たった。これはすごい。
日本ではエンジョイ勢とはいえそこそこ音ゲーをやっていたので、この程度ならまだ他のことに注意を向けながらすることができる。もう少し難しくてもいいぐらいだ。
アルは炎の剣でググンドに切りかかり、それをググンドが避けたところに私の水の弾丸が飛んでいく。なかなか良いコンビネーションじゃないだろうか。
「グ、グウウ……」
攻撃の手を休めることなく続けていると、ググンドがうめき声を上げ始めた。もう少しだろうか。手当たり次第に腕を振り回していて、だんだんと攻撃に知性が感じられなくなっている。ただ、そうはいっても爪は凶器で、当たると怪我をするのは間違いない。
アルは爪を避けながら攻撃を加えているが、少し苦戦しているように見えた。爪を避けようとして、腕に当たり突き飛ばされる。受け身を取ったが、倒れ込んでしまった。
「アル、大丈夫!?」
「大丈夫だ」
すぐ返事が返ってきて安心する。アルは再び立ち上がろうとして―――
「あ」
――――というところで、私の魔法陣詠唱が終わった。
光が消え、丸腰の状態になる。
先程叫んだからか、ググンドはアルではなく私を見ていた。
しまった。
そう思った時には遅く、ググンドがこちらに襲い掛かかってくる。もう一度魔法陣詠唱を、と念じても何も起きない。時間を空けないといけないのだろうか。ここにきて弱点が浮き彫りになった。
ちなみに私自身の身体能力は平均的なので、あれと普通にやり合うなんて不可能。
もしここで死んだら、死ぬの早すぎない?
そう思いながら、反射的に目を瞑った。
魔物の名前はフィーリングです。
投稿予約をしたので、次回9話は18日、その次の10話は19日の18時に投稿されます。