4話
まずは見るだけでもと思い、勇気を出して宿の受付の人に奴隷を変える場所を聞いた。受付さんはまるで世間話をするかのように場所を教えてくれて、価値観の違いを思い知らされる。ここから歩いて15分ぐらいらしく、結構近い場所にあるようだ。
奴隷、どんな人がいいだろうか。ある程度希望を決めて置いた方がいい気がしてきた。そんな長時間うろうろする根性もないし、自分より店の人の方が的確に勧めてくれるだろう。
……まず、一緒に依頼をこなしたりしたいので戦える人であることは大前提。私のスキルは中~遠距離で接近戦には向いていないから、接近戦に強い人がいいかな。RPG風に言うと、騎士とかそういう感じの。そして肝心の性別だけど、男か女かは非常に悩む。私は女だから同性の方が安心できるけど、でも、正直女という生き物はとても怖い。一度死ぬ前に散々経験してきた。奴隷という立場であることから逆恨みされたらどうしよう……なんて思うとひやっとする。その点男は頑丈だし、少し位荒く使っても平気だろう。でも男というのは少し遠慮したい気持ちもある。こ、これでも一応年頃の女だし。
考えても決まらないまま店の前までついてしまったので、ひとまず性別以外の条件を言い、それで出されるのがどちらか天明に任せることにした。
いざドアの前に立つと、やはり少し緊張する。なんたって人間を買うのだから。でも、これも私がこの世界で生き抜くためだし、悪いようにはしないから。仕方ない。昔、「マリアって名前のくせに冷たい女だな」と言われたことを思い出して、少しおかしくなった。
「いらっしゃいませ。おや、若いお客様で……本日はどのような奴隷をお買い求めで?お客様の様子ですと、愛玩用でしょうか?」
店に入ると、物腰柔らかそうな男性――この人が商人だろう――がさっそく話しかけてくる。少し馬鹿にされているみたいで、ムッとする。奴隷なんて買わなくても恋人ぐらいがんばって作れるし。……彼氏いない歴と年齢の間に、イコールが入るけど。
「ギルドの依頼に一緒に行ける、戦闘ができる接近戦が得意な奴隷を探しています」
商人を無視して自分の要件を告げる。
「冒険者の方でしたか、それは失礼しました。そうですねぇ、今戦闘用の奴隷は売れていて入荷待ちなのですが、あちらの階に何名かおります。ご案内しましょう」
商人に案内されて、窓付きの部屋が続いているような場所連れてこられた。私がイメージする奴隷売買はもっと牢屋みたいなところだったけれど、殺風景にしろ、思ったよりはマシな環境そうだ。
「あちらが魔法使いのエルフ、あちらが元盗賊で手先は器用ですね。それで―――…」
次々に商人が説明してくれるけど、いまいちピンとくる人はいない。というか、皆目が死んでいて怖い。立場を想像すれば、仕方ないことだと思うけど。
「……――こちらの剣士が最後です。身体能力はこの中の誰よりもずば抜けていることは保証できますが……この奴隷は他の者より幾分値段が高いですので、お客様には厳しいかもしれませんねぇ」
そう言いながらも、一応と見せてくれる。高級だなんてどんなものだと奴隷の姿を見ると、初めて奴隷と目が合った。
燃えるような紅い髪に、金色の瞳の青年。睨むようにこちらを見ていて、その瞳は生気と憎悪に染まっていた。なにがなんでも生きてやるという気迫がこちらまで伝わってくる。
「ちなみに、いくらなんですか」
気がつけばそう聞いていた。
「40万ルチルスですが」
なんだ、思ったより安い。商人はこんな小娘に払えるはずがないと思っているだろうけど。よし、決めた。この人にしよう。見て帰るだけで良かったけど、目が合ったのも何かの縁だ。それに、なんだか気に入った。
「じゃあこの人にします」
「はい?」
「この奴隷、買います。はい、40万どうぞ」
お金がいくらか分からなかったけど、とりあえず束を出して40枚渡す。宿で数えたら49枚と小銭とまた別のお札があったから、多分1枚1万だ。商人はまさかの反応だったからか、固まっている。ちょっと見返せた感じで気分が良い。
「それともこんな小娘には売って頂けないと?」
「……い、いえそんなことございません!ええ、ありがとうございます!すぐに準備をさせていただきますので!!」
うわあ、わかりやすいまでに態度が変わった。いっそすがすがしい。今この瞬間、私に対する認識が冒険者の小娘から上客に変わったのだろう。
ふかふかのソファーがある部屋に通されて、先ほどの青年が連れてこられるのを待った。