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口裂け女

ユウは愛の時間を覚えるようになった。それは二人での暮らしが楽しみであり、悲しみでもある。彼女には彼氏がいる。大知ダイチという、パニック障害と緑内障を抱える歳上の大学を卒業した社会人である。大知に惹かれた由には訳がある。そんな由と大知の出会いは最近のことである。だが出会って、子どもをつくると同時に由は警察に自分の罪を告白した。


由は常に手術用の大きいマスクをしている。顔を見られたくないからだ。それでも少し傷口が見える。縫い傷ではなく元々の形だ。口唇盍害裂(※唇が裂けている奇形。三つ口ともいう。)のコンプレックスを隠すためだ。そんな由には二人の姉がいる。四歳違いの長女が美佐ミサ、二歳違いの次女が波瑠ハル。由は幼少期から親、同級生、学校の先生からもからかわれ笑われていた。しかし、二人の姉は決して笑わずに、妹をただ差別にも耐える強い女の子にするべく情と命運を説いた。と言うのも彼女達も、似た経験をしている。


もっとも気の強い性格をもつ美佐は、どんな痛い思いをしても弱音を吐くことはしなかった。その性格ゆえにある事故を起こした。12歳の年齢でコーヒーが大好きだという、変わった子だった。真冬の寒い日に沸騰したコーヒーを一気飲みして、喉と口内に大火傷を負った。そのために手術が行われた。その執刀医が憎たらしいほどに似合わないポマードをつけている。そして手術だが、失敗して喉は大事には至らなかったが、口内の壊死が酷いため右頬が耳まで裂けている。学校では「化物」、「妖怪」「口裂け女」、と呼ばれた。それでも性格ゆえに、笑った奴等を「地獄なんか生ぬるい所へは送らない」と言っていた。


波瑠は甘い飴が好みで、ベッコウアメが大好きだった。性格もあまく、あからさまな嘘でも他人を信用する。ある日中学生になった波瑠は同級生に美容整形を勧められた。それは、同級生だけではなく、親にも言われた。妹は生まれていて、姉にも申し訳ないとの事もあり、自分の顔を傷付ける行為はしたくないと整形は拒否をしていた。自分の顔には不満はなかったが、かなり性格のキツそうな顔であるために、柔らかい顔の女の子に生まれ変わるよう同意した。しかし美容整形は失敗に終わり、美しくなるどころか左頬が耳まで裂けるおまけ付き。怒りの矛先は、美容整形を勧めた同級生や親あまつ果てに執刀医までも呪った。決して許さない。


二人の憎しみは大きく、「呪」、ただそれだけが脳裏に焼き付く。まず、由にどんな困難があろうと立ち向かえと教えこんだ。そして、由の気持ちも憎しみと認識して病院用のマスクを付けた。もちろん、由に復讐を植え付ける。知識を必要とするため三人とも高校卒業まで復讐の決行は我慢した。


三人は復讐の護身用にそれぞれ武器をもった。美佐は鎌、波瑠はカッター、由はハサミ。三人はまず親を殺した。三人の暮らす家は山奥の赤い屋根の古い木造の家である。寂しい山奥とは言え人が通るかもしれない。由が家の外を見張り、波瑠は家を燃やす準備をしている。美佐は寝ている親の首を鎌で斬る。三人は、家を燃やす時はそれぞれの道に歩むときと誓いあった。まだ人間としての自立心が必要と考えたのだ。三人は交代で家の周りの人間の捜索と、自分達を笑ってきた奴等の居どころを探った。

しかし、人を襲う前に由がミスを侵した。恋をしたのだ。その男性は緑内障でパニック障害の大知である。大知は夜の公園でビールを飲んだ時にたまたま通りかかった由に気づいたのだ。男性の臭いでもなく、女性の臭いでもない、この世の臭いとは思えない妖怪の臭いである。大知は逃げようとすると、由にとってはハサミを見られたと思い、追いかけ「私キレイ?」と答えた。大知はおどおどしながら「わからない!!」と答えると、「これでもか!!」と由はマスクを外した。だがことの異変を改めて考えた大知は、緑内障で目が見えないことを告白した。それまで由はマスクの下を見られたとは、笑われたことしかない。しかもそれゆえ年頃の恋愛など経験もしたことがない。由の一目惚れでもあり、この男性は差別はしないと思ったのだ。それから、復讐は除いてこれまでの経緯を話した。大知は、ただ由を抱いた。それから由は大胆に家出を計り、大知の了解を得て同棲した。

美佐と波瑠の二人は由の行動や言ったことに対して、文句を言うつもりもなく同情するつもりもなかった。どこにいるか、知っているが追うつもりもない。元はと言えば、二人の復讐に由を巻き込んだだけのことだからである。

次に失態をしたのは波瑠である。波瑠は雨の日のバス帰りのサラリーマンを見つけ、マスクを大胆に出した。サラリーマンは怯えたが、波瑠の巧みな言動で安心した。「ただ、口が裂けているだけなのに化物扱いか?少し前までは、口裂け女、と流行っていたがあたしは…口裂き女と言おうかな。」サラリーマンは息を飲んで口裂き女の話を聞いた。「人間って恐ろしいもので、ある人が不幸になるとその人は他人を巻き込もうとするんだよね。」波瑠は懐からカッターを出した。サラリーマンはそれに気付いて逃げようとする。波瑠は言った。「言ったでしょう。私は口裂き女、って」カッターを振りかざすと、サラリーマンは無我夢中にカバンで防衛の構えをした。そのとき、近所の子どもがその様子に叫んだ。波瑠は子どもを追いかけようと走った。波瑠は高校時代の50m走は6秒台である。だがサラリーマンは口裂き女をカバンで殴った。よろよろの波瑠はサラリーマンに捕まりそうになった。だが、サラリーマンは袋に入ったベッコウアメを持っていて、それがカバンから落ちた。波瑠はベッコウアメわ舐めると、人が変わったように体力を取り戻して、走って逃げた。


これ以上、二人での行動は難しいと考えて美佐は波瑠の首を斬った。死体は自分の家に棄てた。それからというもの、美佐は子どもに「私キレイ?」と言って、不愉快な答えなら即座に鎌で殺し、愉快な答えなら気に入って家まで後を追って、家の前で殺した。もちろんその様子を見た大人でも殺した。すべての死体は家に棄てた。

ふと、美佐は自分の犯している罪に罪悪感を抱いた。復讐に捕らわれ、復讐を為し遂げるための犠牲者は全く関係のない人ばかりだ。復讐に捕らわれ者はただ、空しい。ふと、風の噂で「口裂け女を逮捕」の話を聞いた。紛れもなく、由だ。罪悪感を抱いていてもまだ中途半端な気持ちがある。そのために、証拠を隠滅した。つまり家を燃やしたのだ。そのなかに美佐の姿もある。人間から復讐に捕らわれて妖怪化した自分でも、己のすべてを見失っていた。見つけることは、もうできない。今まで美佐は66人殺し、妹たちは一人も殺していない。燃え盛る炎は闇と共に消えた。


由はこれまでの経緯が罪悪感をうみ、耐えられなくなり、自首したのだ。すべてを自白した。しかし、警察でも、殺人は由ではないと確認して、由の実家に戻るが、何もない。なので由はすべての責任を負って、終身刑になった。由自身、後悔するつもりはなかった。なぜなら由は新しい命を産み、自分が人間であることを実感したのだ。死刑は覚悟したが警察でも由が計画的犯行をしたとしても、殺人はしてないと判断したのだ。由は過去の罪悪感と悲しみを背負って、自由がなく生き続けるのだ。


由は子どもを名付けた、「妃姫子」と。夫、大知の名字「森」。「森 妃姫子」と名付けた。

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