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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

嗚呼、愛しくて憎い君へ。

作者: 藍白えたる

 いつからだったかな。僕は誰かから役割を与えられたかった。僕にしか務まらない役割を。

 いや、別に学校での立ち位置があやふやだったとか、誰からも必要とされなかったとか、そんなんじゃあ無いんだけどね。むしろ学校での立ち位置はきちんと確立していたと思う。それに、僕はそれなりにコミュニケーション能力は高かったしね。うん。色んな人から必要とされていたと自分でも思うんだ。

 それでも僕は、役割が欲しかった。

 もちろん皆は僕自身のことをしっかりと見て、僕を友達として必要としているんだろうさ。でもって僕が突然居なくなったとして、結構皆悲しむんだろうさ。

 そんだけだろう?

 必要としたって、悲しんだって、そんだけだろう?別に僕が最初から居なかったって、皆それなりに幸せに暮らしているんだろう?

 いやいや、責めている訳じゃあ無いよ。それが普通だと思うしね。最初から居なかった奴が居ないことで枕を濡らすなんて、それじゃあ人格破綻者みたいだしね。

 でもねぇ。僕にはそれが耐えられ無いんだよ。誰からも必要とされているのにね、本当は誰にとっても必要じゃあ無いみたいなんだよ。

 だから、高校の入学式で(さつき)を見つけた時にね。一目見ただけで思ったよ。ああ、やっと見つけた、ってね。

 皐はなんと言うか······何かが欠落していた。でも僕ならその何かを埋められると思ったんだ。

 僕は皐の親友になることにした。

 皐と一緒にいる時は本当に楽しかったよ。ただ僕は与えられた役割をこなしていけばいいんだからさ。親友っていう役割をね。人と人との関係性は奇妙に捻れて、(こじ)れて、入り組んで、一言で言い表せないモノだけど皐と僕の関係性は単純明快で、親友、の二文字で方が付くようなモノだった。そんな関係性が僕はたまらなく心地よかったよ。

 だから僕は皐の親友であるために何でもしたよ。道を外れるようなことは、少し迷ってから断っただろうけどね。だってそれが親友だろう?

 まあ実際には、女子の電話番号を教えたりとか、女子が皐のことをどれぐらい好いてるか調べたりとか、そんな下らないことばかりしか頼まれなかったけどね。あれだよ、あれ。いわゆるギャルゲーの親友キャラがやるようなこと。ほら、僕、クラスではどちらかというと軟派な部類に入るだろう?それでだと思うよ。

 そのまんまハーレムルートにでも進んでくれれば良かったんだけどね。皐は君に気があったんだねぇ。驚いたよ。皐さ、義妹(いもうと)さんが······えーっと。何だっけ?ああいう性格······ああ、そうそう。それだ。ヤンデレだ。まあ、ヤンデレだし。学校では押しの強い赤崎さんがべったりだしね。それに、僕も君の情報だけはうまい具合に隠蔽したつもりだったし。

 僕が君の事をじーっと見つめてる高校三年間で、皐の方は君との距離をどんどん縮めていたんだねぇ。僕が皐に、高校三年間あっという間だったとか、お前と会えて嬉しかったとか。そんなこと言った直後に皐は君にコクったんだからねぇ。

 その時はなーんにも考えられ無くなって。すぐ後には吐き気がするほど皐が憎くなったよ。その時に僕は、皐の親友であるっていう役割を放棄することにしたんだよ。

 それからは皐にどう復讐するかとかそんなことをずぅーっと、ずぅーっと考えてたんだ。

 義妹さんのヤンデレを悪化させたりね。君と皐との間ですれ違いが起こるように仕向けたりね。

 それで、まあ。最後の手段として、こういうことになった訳さ。父方の家が林業を営んでいて、本当に助かったよ。もう放置してるけど売るに売れない森とか、たぁーくさんあるからねぇ。


 そう言うと、目の前で虚しい独白を続ける友月(ゆずき)(確かそんな名前だった)という変態は少し言葉を途切った。

 そしてまた、口を醜く歪ませる。


 だから。大好きだよ。白鳥(しらとり)美鈴(みすず)さん。


 彼はそう言うと椅子に縄で縛られた私の首筋を、ペロリと舐めた。

 さて、仮にも高校の時には文学少女で通っていた私としては真っ先に今どういう状況なのかを説明したいところだけれど、残念ながら今私にはその余裕はないようで、状況説明は


 大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き


 と、大好きのゲシュタルト崩壊が起きそうな程の質量を持った言葉を譫言(うわごと)の様に繰り返し、私の肢体を舐め回す彼の激情が収まってからにすることにする。

 さて。

 反吐が出そうな程に気持ちが悪いな。




 ではでは。皆様お待ちかね、状況説明の時間だよっ!

 とは言ったものの、私が置かれているこの状況は長々と説明する必要も無い、一言に集約出来るような簡単な状況だ。説明も手短に行こう。

 彼氏の親友の倒錯的な愛情により、どっかの山小屋で監禁されてる。なう。

 まあ、細かく説明するならば、今股の下が濡れていて気持ちが悪いとか(トイレにも行かせて貰えなかった為、垂れ流しだ。彼はその様子で自慰をしていたが)そんな事も説明しなければならないのだが、そんな所まで子細につまびらかにする必要性があるとは思えない。

 説明も手短に済ませたし、これからする事もさっさと済ませて皐君に会おうか。

 私は(今まで縄で誰かを縛る事なんて無かったのだろう)少したわんでいる縄の中で体を動かし、椅子を揺らしていく。ぴと、と椅子の脚を彼の寝顔に添えた。

 さあ。ストレスを発散しようかな。


 あっが!


 伝わり易さの面では赤点の叫びを聞きつつ、私は何度も何度も体重を移動させた。

 ナイス!私のバランス感覚。




「と、まあ、それからは知っての通り、ケータイを奪って舌で電話したのよ」

 皐君との遊園地デートの最中、私は少し声を落として言った。いやー、文章というのは便利だ。あーんな事やこーんな事も説明したのに(遊園地なので、少し曖昧な表現で説明したけれど)R18を食らわないのだから。

 まあ食らうとしたら性的描写では無く、暴力表現の方で食らうのだが。彼は(倒錯的な変態の方だ)私の純潔を神聖化していて(少なくとも一日目には)犯そうとはしなかったから。

 もう純潔なんて無い事位、考えれば分かりそうな物だけれど。

「大丈夫、なのか?」

 私の台詞と皐君との台詞の間の経過時間、約一秒。

 やっぱ文章って凄いね!詰め込み放題だよ!

「大丈夫よ。それに、今さらじゃない?」

 私は言葉をぼかしながら、そう答えた。

「いや、そっちじゃなくて、あっちのこと」

 そう言って皐君は私の下腹部を指差した。

「あぁ、まぁ」

 けしからん奴である。

「あ、でも」

「でも?」

「こっちは、ちょっとだけ」

 そう言って私は唇を指差す。

「む」

 皐君の唇が飛び付いて来て、私の唇と合わさった。

「何するのよ」

 と言いつつも、私の頬は緩みっぱなしだ。

「ん?何か、中和?」

 皐君は言った。

「それに、何だかんだ言って······やっちゃった後は、キツいだろ」

 脳内で、やっちゃった、を、殺っちゃった、に変換してから私は答える。

「本当に、大丈夫よ――義妹さんの方がキツかったわ」

 そして私は曖昧に笑って、

「中和位じゃ、全然足りないわ」

 と、少しばかりの狂気に、口づけで蓋をした。

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