冷夏
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上下ともスーツ姿でオフィスに入ると、冷房で体が冷える。今年は冷夏だ。エアコンは利かせてあるのだけれど、暑さ対策じゃなくて、冷え対策をしないといけない。
「松岡さん」
「はい」
戸島課長が呼んでくる。席を立ち、課長席へと行って、
「ご用件は何でしょう?」
と訊いた。
「この書類作り直して。ちゃんとチェック入れといたから」
戸島がそう言って、あたしの作って送っていた会議用書類を印字し、目を通して赤ペンでチェックを入れたようだった。受け取って一礼し、席へ歩き出す。そしてフラッシュメモリに入れておいたデータを起こし、該当箇所を作成し直した。
正午になり、食事休憩の時間になって席を立つ。そして近くにあるランチ店へ向かった。スマホを見ながら、歩いていく。街の目抜き通りは大勢人がいる。外は生温い風が吹いているのだけれど、それも夏の気候だと思えば納得できた。
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ランチ店に入っていくと、今日の日替わりが書いてある。やってきたウエイターに、
「この日替わり一つと、アイスコーヒー一杯」
と言って頼み、軽く息をつく。店内はそう混んでなかった。席に座ったまま、ゆっくりし続ける。ずっとオフィスにいると、疲れるのだ。スマホに目を落としながら、ネットニュースを見る。リアルタイムで配信されてくる情報――、これほど貴重なものはない。まさにビジネスだ。そういった時間は大事にしていた。
それにしても外は曇り空で、いつ雨が降ってもおかしくない。折り畳み傘は携帯していた。雨が降り出せば、すぐに差す。あたしも思っていた。天候が不安定ねと。
十分後、食事がテーブルに届き、食べ始める。日替わりのメインは肉料理だ。アイスコーヒーを一口飲み、口の中を潤してから、食事し出す。ゆっくりと昼の時間を楽しむ。もうお盆も終わってしまって、また仕事なのだし、オフィスではずっと上役が会議などで使う書類を打ち続けている。
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食事を取り終えてから、レジで食事代を清算し、店を出て社へ向かう。慢性的に寝不足だ。夜は午前零時半とか一時ぐらいに眠り、朝は午前七時過ぎに起き出す。昼間、眠気が差すこともあって疲れていた。エスプレッソのコーヒーを飲み、目を覚ますのだけれど……。
淡々と日々が過ぎ去っていく。夏も直に終わりだ。冷夏のまま、秋に突入すると思う。冷えるだろう。そう感じながら、また社へ行き、オフィスに入っていく。ずっと冷房が利いていた。上着を持ってきていて正解だ。一枚羽織り、冷気を凌ぐ。
午後からもさっき戸島が渡してきた書類の束をチェックし、作り直す。若干倦怠もあった。暑さは引いているのだけれど、やはり八月の中旬過ぎから九月の彼岸ぐらいまで暑気は続くだろう。そう思って仕事をしていた。変わらずに、だ。
オフィス内は時折、社員の咳などの音がして、パソコンのキータッチ音が響くと同時に電話が鳴り、ファックス、コピー機、プリンターなどが作動し続けている。これが地方の一商社の昼間の営業活動の実態だ。あたしも思う。仕事が終わったら、すぐに自宅マンションに帰りたいと。
ふっと目を上げて外を窺うと、まだ曇天だ。戸島も他の社員たちも仕事を続けている。何も変わらない。いつもの光景だ。目をパソコンに戻し、キーを叩く。まだ冷える。それに食事後で眠気が差す。フロア隅にあるコーヒーメーカーからコーヒーを一杯注ぎ、飲んだ。苦さが神経を覚醒させる。
ネットニュースにも書いてあった通り、今年の冷夏がいろんなものに影響を与えている。まあ、あたしも一通り読んだだけで、別に詳しいことまでは分からないのだけれど……。
(了)