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1-1

 薄暗い地下迷宮から地上にある街へと帰還する。

 既に時刻は夕刻を過ぎ夜中の二十一時。

 街の一番南端にある迷宮の入口に立ち、星空が輝く満点の美しい夜空を一瞬見詰める。

 しかし、すぐにその視線をやや下方に修正すると、北に向かって続く街一番の大通りを目で辿っていく。

 その先には一際高い建物の姿。

 ぽつぽつとしか明かりがついていない建物の群れの中、その建物だけは明々と眩しい光を放っている。

 【ダイバーギルド】だ。

 【ダイバーギルド】とは、文字通り【ダイバー】達を支援するために作られた組合のことだ。

 【ダイバー】達に近隣諸都市の政府機関や民間企業などから依頼されたクエストを紹介したり、【ダイバー】達が迷宮から持ち帰った様々な素材を換金したりするのが主な仕事。

 では【ダイバー】とは何なのか?

 それは地下迷宮に潜る冒険者や傭兵、ハンター達の総称だ。


 迷宮がみつかった数十年前の時点では、迷宮には誰でも入ることができた。

 だが、各都市の政府機関に追われた犯罪者や、アウトロー達が迷宮内に逃げ込んで、中にいる【害獣】達と一緒になって正規の冒険者達に襲いかかるという事件が続発。事態を重く見たこの都市を治めている【中央庁】は、【ダイバーギルド】を設立。

 正規の手続きを踏み迷宮に入るための許可証【ダイバーライセンス】を取得した者以外は、迷宮に立ち入ることを許さないという法令を制定した。

 以来、迷宮の入口には政府機関から雇われた屈強な【ゲートキーパー】が常駐し、【ライセンス】を所持している正規【ダイバー】以外が侵入しないように厳重に見張りを続けている。


 言うまでもないことだが、彼自身は【ライセンス】をきちんと取得している。

 【ダイバーギルド】に所属しているれっきとした【ダイバー】の一人なのだ。


 見た目が見た目なので、初めて彼を見る者にはなかなか信じてもらえないのではあるが。


 それでも彼は間違いなく危険な迷宮を闊歩する【ダイバー】なのである。

 

「よう、小僧、今日も無事戻ったか」


 大きな木製の両開きドアを開いてギルドの中に入ると、目の前のカウンターにくすんだ群青色のエプロンをつけた大男の姿。大きな葉巻をくゆらせながら、髭だらけの厳つい顔を彼のほうに向けているのが見える。彼は、無言でその男に頷きを返し背中のバックパックをカウンターの上へと放り投げる。

 別に怒ってそうしたわけではない。彼の身長では普通に置こうとしてもカウンターに届かないからだ。

 大男もそのことをよく知っているので、別に表情を変えたりはしない。黙ってバックパックを受け取ると、葉巻を吸うのをやめてすぐ目の前にある灰皿に押しつぶす。


「中を見てもいいよな?」


 いつものことで、正直省いてもいいやり取りではあるが、一応の礼儀というやつだ。彼はその問いかけにカウンターの下からこっくりと頷き了承の合図を送る。

 大男はその合図を確認したあと、バックパックの蓋をごつい指を器用に使って開き中を慎重に取り出していく。

 すると、中から転がって出たのは成人男性の拳大もありそうな緑色のいびつな石。ごつごつとしたその石を無言で手に取った大男は、しばしそれをじ~~っと眺めていたが、やがてニヤリと笑みを浮かべる。


「今日は深緑大イモリの胆石か。それもかなり状態がいい。傷がほとんどないから、買い取り価格には色をつけさせてもらうぜ。一個二万二千でいいかね?」


 男の問いかけに、彼は再び無言で頷きを返し、懐からカードを取り出して渡す。

 大男はその彼が差し出したカードを受け取ると、カウンター横にある小型の機械のようなものに差し込んで何やら操作を始める。


「毎度あり。四つで八万八千。確かに入金させてもらった。他に何か用事があるかい?」


 機械から『チーン』という乾いた音が鳴り響いた後、大男は機械からカードを引き抜いて彼へと手渡す。彼は、カードを受け取って懐に戻しながらしばらく何かを考えていたが、やがてゆっくりと首を横に振って見せた。


「そうかい。しかし、毎度毎度感心するが、よくもまあギルドで品薄になっている素材ばかり狙い撃ちにできるな。ってか、他に肉や皮はとってこなかったのか? 胆石ほどじゃないが、それなりに高値で買い取るが」


 彼は再び首を横に振る。


「そうかそうか、かさばるからなぁ。持って帰るのに手間がかかることを考えれば割にあわないってか?」


 今度は首を縦に振る。


「ま、確かにそうだな。でもよ、おまえさん、いい加減誰かとパーティを組めばいいんじゃねぇのか? 仲間がいれば持てる荷物も自然と増えるだろうに」


 またもや大男に首を横に振って見せた後、彼はカウンターに大きくジャンプしてその上にある空になったバックパックを掴みとる。そして、それを背中に背負い直して大男にひらひらと手を振った。


「帰るのか? まぁ、おまえのことだから心配はいらんと思うが、一応気をつけなよ。最近また右も左もわかってない新人が増えてきて、この辺りちょっと物騒になってるからな。それと、パーティの話、もう少し真剣を考えろよ、いいな」


 早口でまくしたてる大男にもう一度手を振って見せて、彼はギルドをあとにした。 

 

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