友引姉弟 トモビキキョウダイ
桜の花びらが風に舞いひらりと落ちてきた季節、確かにそこにいたはずなのに少年は影も無いまま消えていった。
「お姉ちゃんこっちだよ。」
かすかに聞こえた声に制服を着飾った少女が曲がり角を、まがった瞬間にそれは音もなく姿を現した。
現実世界から遠ざかり非現実へと移り変る。
時計の針はちょうど十二時をさしていた。
都市伝説に真昼の曲がり道をまがった瞬間現実は非現実になっていくと噂されていた。
橋田優花は都市伝説に巻き込まれたのだ。
非現実とは何か優花はそれすらを考える余裕もなく無数の発光体に包まれて空を飛んだ。
「うわ。」
優花は思わず声をもらすが不思議と恐怖感は無い。
その時に感じたのは心地よく暖かい温もりだ。
これからどこに飛んでいくのだろうか優花は知らない。
なぜならこの世界は人間が自由に歩いてはならない神のみが知る世界だからだ。
「きれいな星。」
優花は地球を見ていた。母星と言うべきか・・・。
「お姉ちゃん。」
また少年の声が聞こえた。
優花は心の片隅に置き去りにした記憶を呼びよせた。
聞き覚えがある声だ。
優花がまだ十歳の時に聞いていた声である。
あれから五年の月日が流れて忘れていた…否、忘れようとしていた記憶。
「もう許して。」
優花はその時はじめて恐怖感がふつふつとわいてきた。
声の主は十歳のとき両親が無理心中を図ったときに忘れてきた弟の俊彦だ。
優花は涙を流し必死になって、五年前死んだはずの俊彦に謝る。
「あなたが生きてたなんて知らなかったのだからあの時、私だけ逃げ出したのよ。」
しかし俊彦は不気味な笑みを浮かべた。
神のみがしる不思議な世界で優花は弟に懺悔する。
「いいよ僕は生きてるから。死ぬのは貴様だよ。」
某病院で優花は植物状態で寝かされていた。
俊彦は笑いながら死にゆく姉を見ていた。
曲がり角の場所の時から二人は入れ替わっていた。
死んだはずの俊彦が生き返り、生きていた優花が車に跳ねられ病院に運ばれて植物状態になった。
「復讐は終わったよ姉さん。あの時置き去りにした姉さんが悪いんだからね。」
俊彦がベッドに背を向け病室を後にしようとした瞬間に、腕を掴まれて足止めされた。
「貴方も逝くのよ俊彦。」
病院の医師は首を傾げた。
なぜなら俊彦は姉の横で原因不明の死を遂げていた。
医師はカレンダーを見た。
「今日は友引か。」