第7話:臨海デート
直子は仁のことを思い起こす度に心の充実を得ていた。しかし、彼とのつながりを求める気持ちが日々高まっていながら、なぜ彼からの連絡が来ないのか、と不安といらだちが芽生えていた。彼からのメールが届いたのは週末になってからだった。結局、シーサイドエリアで1日過ごそう、ということになった。
2人は10時に日本新橋駅で待ち合わせした。目的の駅に着き、改札を左に曲がる。すると少し離れたところで、礼服の男女が固まって何かを待っている様子が目に留まった。2人は遠くからそれを眺めた。間もなく、建物の中から純白のウェディングドレスを着た女性とタキシード姿の男性が現れ、鐘が鳴り、拍手が起こった。通りすがりの人も拍手でこれを祝した。空を見上げた。結婚式に相応しく澄み切った青い空が広がっていた。直子はぎゅっと彼の手を握った。それは、今この瞬間の幸せの感覚から来る自発のものであって、将来の保証を彼に求めていたのではない。彼は意識的に握り返してそれに答えた。
ショッピングモールを通りエレベータで上階に上がると、カップルでも楽しめる科学体験スペースや最新の音声映像技術を紹介するフロアなどがある。先人たちの好奇心が見出した自然法則や強い意志と自由な発想が生み出した技術は、普段の生活の中で私たちは使うことはないが、ある分野においては設計・開発に携わる人たちがこれらを利用して新製品・新サービスを生み出していくのだろう。2人はそれらを回遊し、またはくつろいでいるとあっという間に2時間が過ぎた。穀物・野菜・果物を中心とした軽い昼食を済ませ、総合リラクゼーション施設に移動すると別行動を採ることにした。それぞれマッサージや岩盤浴、温泉を利用し、再び建物を出たところで待ち合わせをした。海沿いを散歩することにした。巨大なコンテナクレーンは彼方の対岸にも並んでいる。直子は大型船が入港するときの様子を想像した。絶え間なく揺らぐ波と彼方に広がる風景を眺めながら彼と共に歩みを進める。停泊しているいくつかの船を過ぎる。東七潮緑道公園を通る辺りでは既に複数のカップルが憩いの時間を共有していた。噴水の広場では、磨耗し落書きで見えにくくなった対岸のパノラマ図で彼方の建物や施設を見比べた。海の向こうは見渡す限り大資本が構築した高層ビルや大規模施設で埋め尽くされている。しかしそのすべては私たちの今目の前においてはそれぞれ担うべき産業的役割を捨て、ただ私達に日々の喧騒や閉塞感から解放するすがすがしさや安らぎ、ノスタルジックな感覚をもたらしていた。
首都高速をまたぐ連絡橋を渡り、展望の広場を通過する。海浜公園では海沿いのフェンスがなく、岸辺が波に洗われる様子を間近に見ることができた。先程とは別の首都高速が見えてくる。その大橋は左の奥から2つの支柱に支えられ右に緩やかに下っていく形状を成しており、特別な存在感を見る人に与え続けている。視界の左端から大橋の向こう側の奥にかけてひしめくビル群はそれぞれが個性を持ち、曇り出した空の下、棟の頭で点滅する赤い光によって自らの背の高さを主張し合っていた。




