第6話:彼の部屋
「え?」直子は頭が真っ白になった。
しばらくして彼女は彼の鼓動と体温の中で気を取り戻した。安らぎを覚えたのか、彼にもたれかかり満たされた気分に浸っていた。彼は直子の変化に気付き、彼女の頭をなで始めた。彼女はその優しさに気持ちが高まり顔を上げて彼を見つめた。彼は彼女の強く真っ直ぐな視線に一瞬物怖じした。彼は「ウチ来ない?超高級ホテル並みにいい雰囲気の内装に模様替えしたんだ。」と小粋な冗談を言って場を和ませようとした。彼女は伏し目で笑みを浮かべながらうなずいた。
彼の部屋は壁面からの間接照明により、柔らかい光に包まれている。彼は聴きたい音楽を直子に選ばせている間に、食事のためカルボナーラを作り、冷たいお茶を用意した。彼がこれらを持ってきた時には日本人女性ボーカルによる落ち着いた歌が流れ、彼女はそこらに置いてあった本の中から世界遺産に関するものを選び、それに目を通していた。「ゲームとかはやらないんだね。」「はじめにルールを覚えるのは面倒だし目が疲れるの。」携帯ゲーム機には対戦型のものを含め40種類近くのゲームプログラムが保存されている。「その世界遺産の本はゲーム制作の中で使える風景を探しているうちに見つけたものなんだ。」その本には地域の特徴、歴史、そこに住む人々の表情などがある。直子はそこに居る自分を想像した。食事が終わると、仁は甘めのお酒を用意し、照明用リモコンを使って部屋の照度を下げた。
翌朝、彼は目を覚ますと直子の姿がないことに気付いた。テーブルの上に書き置きのメモがあった。「ぐっすり寝ているようだったので起こしませんでした。今日は用があるので先に出ます。ではまた。」用とは何だろう。彼の頭には色々なことがめまぐるしく回り、まとまらないまま普段の生活に戻った。




