第12話:三人目
申し込みをしてから4日後には「是非」との連絡があり、あるビルの洋食店で食事をすることになった。駅の地下1階の待ち合わせ場所に来ると、そこのシンボルである大きな鈴のそばに彼が立っていた。ベージュのジャケットと澄んだ目が優しい印象を与える。「こんにちは。蔵内さんですか。」「はじめまして。分かりました?」初回同様、バッグに赤いリボンを付けて目印とした。赤レンガの駅舎から出ると目の前にそのビルはある。
その洋食店は壁面が深い茶色で統一されており所々にある間接照明は優しい光を店内にたたえている。初めに出されたスープを口につける。濃厚な旨みが伝わる。「入会して何ヶ月になるんですか?」「そうだなぁ、6ヶ月位かな?蔵内さんは?」「2ヶ月目に入ったところ。今までどうでした?いい人見つかりました?」「なかなか会う時間が作れなくてほとんど活動してないんだよ。当初はやる気満々だったけど。」「どうして?」「思いつきで物事を始める性格で続かないんだよね。でも蔵内さんの写真を見て『素敵だなぁ』と思ったんだ。実際に会ってみるともっときれいなんで驚いたよ。」直子の表情に自然と笑みがこぼれた。しかし、飽きっぽいのだという。どうしたものか。ふと隣のカップルに意識が向いた。彼女の方はファッショナブルで彼氏はどちらかというと控えめな感じである。話すのもその女性の方が一生懸命なのだが彼は彼女の話を良く聞き、冷静かつクリエイティブなフォローをしていた。彼女の悩みに一つ一つ正面から受け止めてそれに答えている様子であった。すばらしいカップルだった。自分はこのような関係を目の前の人と築くことができるだろうか?否、どうすればこのような信頼関係を築くことができるだろうか?時間か、相性か。いや、2人で同じものを見、感じていく過程で醸成されるものなのだろう。まずはこの出会いを大切にしよう。「永山さんも優しそうな人でよかった。」聞きたいことが3つある。「今、どういうお仕事をしているんですか。」「経済動向、競合他社、社内全般を見て戦略を立ててる。」「社長っぽい仕事ですね。」「父が社長だからね。子に継がせたくて今から実務をやらせている。でも実は本業のプログラム設計にはあまり詳しくないんだよね。」最終学歴を思い出した。妙に納得した。給与も自分の子供だから優遇しているのかもしれない。当初抱いていた「白馬に乗った王子様」のイメージに近かった。夢が現実になっている。2つ目、勇気のいる質問だ。「今他に付き合っている人いるんですか?今のお話では会員にはいないようですけど、学生の時から付き合っている人とか、社内の人とか。」「別にいませんよ。」本当だろうか。いや、今は彼の言葉を信じるしかないだろう。3つ目の質問、「今、学園祭のシーズンじゃないですか。一緒に行きませんか。」「いいよ。面白そうだし。」
会計は彼が行った。なお、席を立つ前に彼女から3〜4割程度のお金を預かっている。食事の後は4階から地下1階まで店を回った。「何か買うの?」翔平はあまりに熱心に見入る直子の様子を見てやや引き気味に聞いたが「いや、気になったので見ているだけなの。」との答えにほっと胸をなでおろした。衣料品店の多くはセレクトショップで、立地の影響からかリアルクローズしたものが目立つ。
駅で別れ、自分の部屋に戻ってしばらくすると翔平からメールが届いた。「今日お会いできてよかったです。ありがとう。今まで会ってきた女性の中で蔵内さんは一番きれいでこれからもこの出会いを大切にしたいと思いました。来週の学園祭は楽しみにしています。」ふーん。なるほど。ニヤリ。その後のメールのやりとりで次回の待ち合わせ場所と時間を確認した。「今度はうまくいくかもしれない。やや不安なところはあるが。」明日は実地確認のほかにデザイナー、パタンナーらとの打ち合わせ準備がある。直子はその日、早々に床に就いた。




