執事の俺と無口な主
「お嬢様、お決まりでしょうか?」
洋服店の中、服を選ぶ主の隣で背筋を伸ばして立ち視線をやる。
目の前でただだまって服をじっと見ている、青い髪をした少女が自分の仕えている主であり、修道寺家の一人娘だ。
「ん……」
主は口数少なく自分へと服を差し出す。
「これがお気に召されたのですね、わかりました」
主から服を手にとって受け取る。
昔からこんな感じで口数の少ない主であったが、幼いころから付き添ってきたので
すっかり自分は意思疎通ができるようになっていた。
こんな感じのやり取りを繰り返しながら洋服店での買い物を済ませ、主と二人店の外へと出る。
「そろそろ昼食になされてはいかがでしょうか? お嬢様」
「ん……」
人が多い昼時のショッピングモール街の中、両手に荷物を持ちながら主の後ろを歩く。
主は自分の問いに静かに頷いた。
そして雰囲気のいいオープンテラスのレストランへと入り主が席へと着く。
「裕も座って……」
「執事の自分が主と同席などっ!――」
主の突然の言葉に慌てて手を振り断る。
「命令」
「はい……」
その一言には逆らえず向かい合って席へと座る。
それから料理を注文し二皿のスパゲティがテーブルへと運ばれてくる。
春の日差しが差し込み気持ちのいい風が流れる中、主と二人昼食を取り始める。
「裕」
「何でしょうか? お嬢様」
「ん……」
名前を呼ばれ主の方へと視線をやると、フォークに巻きつけられたスパゲティが顔の前へと差し出される。
(これは食べろって事なのだろうか……)
「命れ――」
「わ、わかりました!」
戸惑う僕を見て主がそう言いかけて慌てて口に含む。
「ん♪……」
それを見て主が満足そうな笑みを浮かべて頷く。
「次はどこに行きましょうか? お嬢様」
「ん……」
昼下がりの午後、食事を終えショッピングモール街を歩き出す。
そんな時、前方の人ごみが騒がしくなり一人の男が走ってくる。
「ひったくりよ! 誰か捕まえて~!」
「裕」
「はい、お嬢様」
お嬢様が一言そう言い、荷物を置き、走ってきた男の腕をつかみ背負って地面へと軽々叩きつける。
「ありがとうございました」
「いえいえ」
駆け寄って来たおばさんへと男が持っていたバックを手渡し、頭を下げてお辞儀する。
「裕、よくやったえらい……」
主が背伸びし手を伸ばして自分の頭を撫でる、年下の女性に頭を撫でられる恥ずかしさもあってか、ただ黙ってじっとして立ち尽す。
それから夕暮れ時まで買い物をし、日が沈みかけ辺りの建物が茜色へと染まる。
「お嬢様、車をお呼びしましょうか?」
「ん、裕おぶって」
「そ、そんな!」
「命令」
「はい……」
今日、何度目かわからない命令の言葉に逆らえず荷物を右手にかけ、
主を背負い夕暮れ時のショッピングモール街を歩き始める。
「それと……二人のときは名前で呼ぶように」
「そ、そんな!」
「命――」
「わ、わかりました! 瑞華お嬢様!」
「ん……別に様もつけなくてもいいのに……」
「何か言いましたでしょうか? 瑞華お嬢様」
「なんでもないっ!」
短かすぎたか、三人称にしたほうがよかったかも。。
まぁこんなんでも読んでくださった方に感謝です!。