借金と機械3
「つ、疲れた…おのれキノコめ。腰が痛いぜ…」
「ご苦労様です浩二様」
「もう寝るぞ…ん?どうした?」
「いえ、戸締まりを。最近宿屋の客を狙った強盗殺人が頻繁に発生しているそうです」
「へぇー」
「万が一という事もあるらしいので用心を。無論、実際に来た場合は私が浩二様を必ず守ってみせます」
「…」
「ですから浩二様は安心してお休みを…浩二様?」
「…ぐぉー」
「異世界だろうがなんだろうが五秒で就寝…お見事です。一度寝たら朝まで絶対に起きない癖も…ね」
月も出ぬ新月の夜。
ターラのある高級宿屋で惨劇が起きていた。
「異世界にも満月があるとは…不思議な感じです」
その宿屋にある一つの部屋で月見里八香はそう言った。
ここは八香の部屋ではない。彼女は浩二と共にターラで三番目に貧相な宿に泊まっている。
この宿屋の部屋はミネクが借りている部屋だ。
そのミネクは現在、床に血塗れになって転がっている。
胸から腹にかけて縦に大きく一文字に切り裂かれていた。白い胸骨と真っ赤な肉が生々しく光る。
呼吸をする度に、血が少し噴き出す。
「気分はどうです?ミネクさん」
「な…なんで…こ、こんな事を……」
床に転がっている哀れなAランク戦士は訪ねた。
八香は答えた。
「なんで?そうですね、強いて言うなら計画ですよ」
「け、計画…?」
「そうです。計画」
八香は答えた。
光を発する水晶体(照明の代わり)に近づくと、表面を撫でて光を消す。
窓から漏れる月明かりにのみが部屋を照らす。
「浩二様は覇王とやらを倒して借金を返そうとしていますが…その必要はないのです。だってもう、六億円はあるんですから」
「な、なんの話…?」
「私は浩二様に会った時、一つの嘘をつきました。実は未来の世界にもクーリングオフはあるんです」
そういう八香の目には光がない。底なしの闇が広がっていた。
ミネクはこういう目を見たことがある。狂信者の目だ。それが絶対と疑ってない目。狂気の目。
虚ろな目をしながら話を続ける八香。
「私は失敗作。未来の世界の人々は完璧を求めています。オークションに出品されたからと言って買う人はどこにいるでしょうか?売値は五十ドルで三ヶ月間入札者0ですよ?誰も、誰も失敗作の護衛機械など求めていないのです。私の製作者でさえ「時代は戦うツンデレだ!」と言って、製作後は私の方を見向きもしませんでした。ただただスクラップを待つ日々…」
「ですが、浩二様は私を買って下さった」
「五十ドルの…この文字通り鉄屑を、六億円で。私は運命を信じましたよ。頭の回路が焼き切れるくらい嬉しかった。過去の人間とか間違って買ったとか…全ては運命だったのですよ。千年の時を越えてつながる運命です。その運命の前に倫理とか法律がなんの障害になるのでしょう?」
八香はうっとりと…うっとりと月を見た。
表情は恋する乙女のソレ、目は狂気のソレだ。
「あらゆる口座――それこそ合衆国からインド、朝鮮まで――こっそり金をかき集めました。ネットも得意なのですよ?私は。浩二様は犯罪行為をするなと仰りましたが全ては愛のため。ご理解頂けるでしょう
ああ浩二様浩二様、全てが愛おしい…♥」
視線をゆっくりと転がっているミネクに向ける。
「―――覇王を倒した時、私は人間になる。準備は整いました。行動するのみです。その第一歩として障害となるミネクさんには死んで貰います。あなたの安物の家如きで歩みを止めるわけにはいかないので」
八香の右腕、肘から先の腕がゆっくりと『伸びてゆく』
信じられないことにすでに通常サイズの腕の長さではなくなっている。
健康な肌色は月明かりを反射する銀色にかわり、本来手のあるとこには鋭い切っ先が存在する。
「さあ、流体多結晶合金をもう一度どうぞ。味わって下さい」
「や…やめ…」
「遠慮せず」
黒縁のメガネと、銀色の凶器が月明かりを反射する。
夜が更けてゆく。
八香の武器・流体多結晶合金
・通称ターミネート。意味はterminateで抹殺等の意味。
・ご存じ超有名な映画のアレ。製作者は何を考えていたのだろうか…
擬態機能
・服、壁、剣…原始的無機物なら擬態可能。高度な物は見た目だけなら擬態可能。
・薬品なども不可能である。
・自分の体積を超えての擬態は不可。体積以下なら可能。
液体化、硬化
・液体状態になれる。その状態のまま動き回る事も可能。
・刃物や鈍器などの硬度を持つ固体状態にもなれる。
・体の一部を白兵戦用の武器に変える事も出来る(刃物、鈍器、鉤爪など)
・オイ、これはホントに護衛用か?暗殺用の間違いじゃないのか?
作者が好き勝手するオナニーようの作品なのに、お気に入り登録数が現時点で八件もあるだと…?