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プロポーズは突然に

メインではありませんが設定上、BL要素が多少混じります。

売春禁止法が改正され、各都市に色町が復活して幾数年。

これはそんな、あるかもしれない近未来の日本のお話…。


***


珠吹詩奈乃(たまぶきしなの)安曇朔(あずみさく)は幼なじみである。

7歳のみぎりに出会い、23歳になる今日まで、男女の違いもなんのその、途絶えることなく親交を深めてきた。

異性同士ながら艶めいたものなど影も形もない、心の友と書いてマブダチとよぶような関係ではあるものの、おおむねその交友関係は良好であり、ずっとこれからもその関係が続いていくと誰もが疑わなかった。

そんなある日、詩奈乃は朔の所にやってくるなりこう言った。

「朔、私と結婚しましょう」


***


あきれた、と朔は思った。

高い身長とほっそりとした体付きという中性的な外見以上に、勝気で上昇志向の高い男よりよほど男らしい性格の幼馴染の姿を眇めた目で眺める。

「とりあえずちょっと顔でも洗って頭を冷やしてきたら?」

畳の上に座って脇息にもたれかかりながら、廊下を示すように襖を指差してやると詩奈乃はケラケラと可笑しそうに笑う。

「朔、私は別に寝ぼけているわけじゃないけれど」

「じゃあどこかに頭をぶつけたんだな」

「いたって健康で真面目よ」

「じゃあ常識を忘れたんだな」

「何がおかしいの?男に女がプロポースしてるだけじゃない。それとも朔ったら、プロポーズは男からするものだって思ってる人?じゃあ私が聞いてあげるわ、ほら、どうぞ」

「何を好き好んでしな(・・)にプロポーズをしなきゃ……そういう話じゃないだろ」

「はっきりしないわね、何が問題だっていうのよ」

掛け合い漫才のような応酬をしながら朔は頭痛を堪えるように額を押さえ、詩奈乃は軽く苛立ちに目を眇めて眼光を厳しくする。

朔は長くため息をついてから自分の膝元の畳を軽く叩いた。

「しな、ここはどこだ?」

「遊郭、葛菊屋(かずらぎくや)

「そう、遊郭だ。男娼専門の、ついでに客も男専門のな。んで、俺は誰だ?」

「今をときめく葛菊屋一の売れっ子花魁の菊月(きくづき)チャン」

「分かってるなら常識考えろこの馬鹿!なんで男専門の遊郭で生まれ間違ったとしか思えないとはいえ立派な女のしなが男娼の身請けしようとしてるんだよ!そんなこと通るわけなんだろうが!」

綺麗に整えられた着物の裾が乱れるのも構わずに膝を立てて足を踏みしめ、詩奈乃に詰め寄るようにしながら怒鳴る。

一方、詰め寄られた詩奈乃はきょとんとしてからおかしそうにあっけらかんと笑った。

「そんなちっちゃいこと、どーだっていいのよ。だいじょーぶ、何とかするから」

無理、無茶、無謀の3ナイが盟友たる詩奈乃のいつもの常套句に、朔は酷くなったように思える頭痛を感じながら、どこがちっちゃいことなんだと項垂れた。


***


朔と詩奈乃の出会いは7歳のみぎりの春の日のこと。

女も男もいける…要するに両刀遣いだった資産家の祖父に連れられ、溺愛されていた詩奈乃が葛菊屋に訪れた時から2人の縁は始まった。…こどもを遊郭に連れて行くなど常識的にはあまり褒められたことではないが、型破りな性格だった祖父に詩奈乃は懐いていたしどこにでも付いていきたがった。

伝統ある呉服屋から始まった詩奈乃の実家はあらゆる衣服や布に関する市場を牛耳り、詩奈乃の父の代ではグローバル企業として世界中に進出してさらに莫大な資産を生み出しているが、事業拡大前の祖父の時代であっても、葛菊屋にとって上客としても提携企業としても決して疎かにできる相手ではなく、その孫である詩奈乃にも祖父が遊んでいる間に遊び相手が宛がわれた。

それが当時、見習いの禿(かむろ)として葛菊屋にいた朔だった。

真っ黒でさらさらの長い髪にびっしりと睫毛に覆われた大きくぱっちりとした瞳。

整った小さな目鼻立ちにミルク色の柔らかそうな肌と、愛らしい禿装束。

女の子よりよほど女の子らしいお人形めいて、当時から将来の稼ぎ頭として嘱望されていた朔の愛くるしい姿は、詩奈乃のハートを一撃で射抜いて仕留めた。

ただし、恋愛感情ではなくおもちゃとして。

以来、祖父が葛菊屋に行くたびにくっついて出入りするようになり、祖父が葛菊屋に通わなくなってからもその威光を借りて店を脅し宥めすかし、本来は女性お断りの葛菊屋の座敷に上がるようにまでなった。

ただし、色事はまったく抜きで。

そんなこんなで色々な意味で王道から斜め20度ほどずれた関係を16年間続けてきた。

思いついた設定を書きたくて書き始めました。

そのためと、他連載もあるため、超不定期更新となります。

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