プロローグ
ん…?ここは、いったいどこだ…?
目が覚めたら俺は天井を見上げていた、わらでできた屋根だ。今時古風な...。
…いやいや、おかしいおかしい。意味わかんないだろうがこれ。
天井だけを見ていた、体が動かせないからだ。声を出そうと力を振り絞ったとき、のそっと視界に緑色の顔をした化け物が現れた。
いや正確に言うと顔だけじゃない、全身がみどりだ。気味が悪いほどに。
さらに緑の化け物は一人じゃなかったって言うのもまた気味が悪い。
だが俺は、一人目が視界に入ったときあまりの衝撃に気絶してしまったので、ここにいる全員が緑の化け物という事実には再び目が覚めるまで気が付かなかった。
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一回振り返ってみよう
俺は、27歳小太り無職、四人家族の次男として生まれた。兄、姉、妹の四人だ。
そして『彼女いない歴=年齢』の称号をもつ引きこもりのクソニートだ。自分でクソと自覚できるくらいにクソだ。
それなりに(引きこもり)人生を楽しんでいた俺は、今日もなにも考えずに生きていられるものだと、思っていた。
あの日。俺の人生が変わった日までは。
いつも通りのベテランヒキニートとして2chに魂注いでいた俺は、朝14時いつもならあるはずのご飯が扉の前に置いていなかった。
なんでねえんだよ、餓死しろっていうのかよ!
デスクに向けて台パン、それはそれは大きな音を奏でた。大きくて汚い音を。
その音を、一緒の家に住んでいる妹と兄に聞かれてしまった。
いや最初は聞かせるつもりではあった、この音を聞けばだいたい何とかなってきたからだ。今までの経験がそういっている。
だが、今回ばかりは上手くいかなかった。悪い方に転がってしまった、それも最悪な方に。
階段の上がる音が聞こえると、ご飯を期待した。
扉が開かれ、兄と妹が入ってくる。姉は現在彼氏と暮らしているのでいない。
入ってきて早々様子がおかしい。まず手にご飯はない、水すらない。「お腹を空かせているのに何も持ってきてないのかよ」と、怒鳴りそうになったが、声は出せなかった。
兄の手にはバールがかかっていたからだ。
「は?」と声が漏れてしまう、明らかにこの状況はおかしい、というかなんでそんなものを"俺に向けているんだよ"。
兄は唇を嚙んだ後、声を振り絞るように言った。
「...母さんは、今病院だ」
唖然としていると。
続けて妹も口を開いた。
「お前が引きこもってお母さんに無茶させたから!倒れて今体が危ないんだよ!」
倒れた?母さんが?
あまり想像できなかった。親というものは俺に、子供の前では元気でいるものだと思っていたから。
「...いやいや、だからなんだよ…。今お腹空いてて俺の方が危険だぞ」
と言ってやった。……いや言ってしまった。
その言葉を言った後部屋の中は怒りで溢れそうになった。
「お前がッ…!?」
妹が俺に手を出そうとするが、それを兄が制止する。震える体で。
「……もういい、分かった。お前の気持ちがわかった…」
何がわかったのだろうか、俺にはわからない。
妹は兄に制止されながらも何度も俺に罵詈雑言を言っている。
兄はそんな様子の妹を見て決意したのか、それとも心の準備をしていたのかわからないが、小さく「よし」と呟いて、バールを再び俺の方に向けてきた。
「……頼む、今からお前を家から追い出す。抵抗はしないでくれ、あまり痛みは感じさせたくない」
「は…?何言ってんの…?」
久しぶりに声を出したからか、かすれた声でそう声に出てしまった。
兄は言った後、妹を離し離れるように言って次は俺の方に向かってきた。
俺は、母さんのお金で勝手に買った椅子に背もたれを預けていた。
体が動かない、だが家を追い出されるわけにはいかない、ここじゃないと俺は生きてけない!分かるだろ兄なら!働いたこともない、最低でも6年は家から出てないから土地感もない、追い出されたら。
『死』
それだけだ。
本気でやるしかなかった。
勝ち目は分からない、だが俺は小太り兄は細い、体重の差はあった。
結果から言うと、追い出された。夜の外ってこんなに寒かったのか。
体重の差はあったし、勝てると思った。柄にもなく必死でやってみた。
部屋の中で大暴れ。…しようとしたけど、動かしていないこの体ではまともに拳を振ることをできなかった。それに、あの部屋にはお気に入りのフィギュアがある。
さらにさらに、何故か兄が空手教室に通っていた。
ぼこぼこにされた、多分脇骨が折れた。痛すぎるし確実に逝った。
体の横を手で支えるようにしてその辺を歩く。のそのそとゴールのない道をひたすらに歩く。
どうしたらいい、何をしたらいい。わかんない、なにもわかんない。
今までの人生、自分でどうにかすることなど、ほとんどなかった。あったときは大体小学生くらいの時だ。
最悪だ、こんなところでくたばって終わりなのかよ。
何もしてねえぞ…俺の人生…。何も、ないのに。
生まれた時から頭悪くて、常に勉強は最下位。運動だってできる方じゃなかった。
俺なりに努力だってした。けど、何にも身につかなかった。そういう体質なんだよ、多分。何にもできない出来損ないの体。
高校も通信の偏差値の関係ない所に入れてもらった。そこでも努力はした。授業はきちんと受けていた。ノートも取った。
けど、テストの日には忘れていた、分かんなくなっていた。
授業に出てない同じクラスのDQNにも点数は勝てないほどだ。
そりゃぁ、やる気だって出るわけねえよ。
いつからか授業は受けなくなった、テストも知らないフリ。そして、1年後半で本格的に引きこもりを始めた。
何をするでもなく時間は流れ、高校を退学。働くなんかできるわけもない。
そして、さっきまでの順風満帆の引きこもりだったわけだ。
さて、いよいよ現実なのかわからなくなってきた。これは夢か、でなきゃ家族を外に追い出すなんてある訳ないだろ…。
だぼだぼのいろいろ染みついた白Tシャツを身に着けて街を歩いている。
もう無理だ、人生終了だな。
ホームレスを見下してたけど、俺はホームレスにすらなれなさそう。その辺の床で寝れる自信がないから。
周りがやけに騒々しい、ひそひそと俺を見ては何か言っている。
自分が、どんどんみじめになっていくようだ。
俺は無意識のうちに体を小さくしていた。関係はなさそうだが、俺の心の問題だな。
体を小さくして数分。疲れが来た、兄とバトルした後で街を歩くなんて引きヒートには難しかった。
同じく街を闊歩している人がチラチラが見ている中(スマホを向けている人もいた)、俺はその辺に座って休憩。
した、その瞬間。
近くで「キャー!」という女性の甲高い叫び声を聞いて体がぐらついた。
休憩中だって言いうのに。
そうは思ったが、さすがに気になったので腰を上げて様子を見ることに。
だが、それがいけなかった。腰を上げ、注目の的になっているソレを見ようと歩きだしたとき、後ろの人物と肩が当たった。後ろの人物もこの叫び声が気になって見に来たやじ馬だ。
俺は、ぶつかって体制を崩してしまった、最悪な方向に倒れてしまった。
横からの衝撃で倒れた、車道側に。倒れ、フェンスの上にしがみつくように捕まった、まだ間一髪で助かったと言える状況だ。まだ。
「グッ…!」先ほど痛めた脇腹にダイレクトヒット。
そしてそんな状況にもう一発、隣からやじ馬が当たってきた。
それが決定打となった。
ぶつかった衝撃で、フェンスから落ちた。車道側に。
さらに不運なことに、脇腹に喰らった衝撃で動けない。
さらにさらに、歩道側の人間は俺に気づいていない。
さらにさらにさらに、なんとちょうどよく車が通りかかったのでした。
「ぐちゃぁ!」という音と共に、壁へ衝突。
車と壁の最悪のサンドイッチの中、俺は死んだ。




