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土の中の鼓動


時が流れ、レヌンの傷は奇跡的な回復を見せていた。


「……よし、これならいける」


まだ時折痛みが出るが、レヌンは立ち上がった。


「彼女たちと鉢合わせせんように、もう少し待たんといかん」


爺さんは立ち上がったレヌンの優しく引き留めた。



それからしばらくして、二人はあの日、閃光が発生した場所を目指した。

彼女たちがそこに居ないであろう時間に、その場所に向かう。

周辺の山を知り尽くした爺さんの案内で、道なき道を歩いていく。




やがて、爺さんが一箇所の山肌を見上げて足を止めた。


「……このへんだ。間違いない。だが、妙だ」


そこには、不自然に崩れ、埋まったような跡があった。


「爺さん、何が妙なんだ?」


「わしはこの山で長く過ごしてきた。だが、ここには……もともと穴なんて存在しなかった」


レヌンはその「埋まった跡」へと歩み寄るために崖を登る。

そして、そこのあたたかい土に手を触れた瞬間――レヌンの脳内に、強烈な思念が流れ込んできた。


(……みんなが……心配……。お願い、無茶はしないで……)


それは、自分自身の命ではなく、外にいる「大切な誰か」を想う、悲しいほど透き通った思いだった。


「――っ!?」


レヌンは指先だけが雷に打たれたように手を離した。


「……おい、どうした」


「爺さん。この中だ。誰かがいる」


レヌンの瞳に、これまでにない真剣な光が宿る。


「たぶん、女だ。しかも、まだ生きている。……あいつら、なんて真似を……」


今すぐ素手で掘り返したい衝動に駆られるが、レヌンは踏み止まった。

周囲には、近づく者を容赦なく排除する彼女たちが目を光らせている。

さらに中の人間を傷つけずに穴を掘るのは、今の自分にはできない。


「爺さん、一旦下りよう。……俺には無理だ」


レヌンは険しい表情で、あきらめる決断をした。しかし、すぐに決意を新たにする。


「腕利きの『土の魔法使い』を連れてくる」




◇◇◇




山を下りたレヌンが連れ帰ってきた「土の魔法使い」を見て、爺さんは腰を抜かしそうになった。

そこに立っていたのは、紫のローブを着た骸骨、深淵を覗き込むような瞳を持つ、禍々しき死者の王――不死王。


「陛下、こちらです」


「……よせと言ったはずだ。その呼び名は耳障りが悪い」


不機嫌そうにする不死王の存在感は凄まじく、立っているだけで周囲の草木が枯れ果てそうなほどの瘴気が立ち込めている。

爺さんは震える声でレヌンを問い詰めた。


「お、おい、馬鹿野郎! あの女たちに勘づかれるぞ! 大丈夫なのか?」


気づかれないようにして、土の中の女を助け出すのではなかったのか。

だが、言い出した本人のレヌンは全く気にしていない。


「大丈夫。陛下なら、何とかしてくれますから」


「案ずるな、老人。この禍々しさはあとで『処理』する。夜明けに決行だ」


そう言い放つと、不死王は爺さんの狭い小屋へ、当然のように足を踏み入れる。

「ん? ここに泊まる気か?」という表情をして、爺さんは不死王の背中を見つめた。




「さぁ食事にしよう」


不死王は食べない。それなのに、率先して食事の準備をする。

「本当に食べなくていいのか?」と爺さんは不死王に不思議そうに尋ねる。

「食べれなくてもないが、匂いも味も感じない」


そして、不死王は興味深そうに爺さんに話しかける。

「緑の秘薬について教えてくれないか?」


レヌンはそのやり取りを傍らでじっと聞いていた。

レヌンが最初、不死王に山に埋められた女を助けたいと言った時は難色を示された。

ところが、山に長年住んでいる爺さんの話をしたら、ぜひ会って話をしてみたいと言ったのだ。そのついでに女も助けると。

なぜ、この爺さんに不死王が興味を持ったのか、ようやくわかった。

しかし、なぜ不死王が緑の秘薬を必要なのかはわからなかった。




◇◇◇




夜明け前。

不死王は思い出したかように突然目の前から消えた。

そして、すぐに戻ってくると、手には「それ」を持っていた。

聖水――アンデッドにとっては、触れるだけで魂が灼ける液体。


それを一滴残らず全身に浴びる。

すると、不死王の体からジュウジュウと不気味な黒い煙が立ち昇った。


「……ぐ、ぅ……ッ」


さすがの不死王も苦悶に顔を歪めるが、そのおかげで禍々しい瘴気は抑え込まれた。

気合の入った荒業。爺さんはその覚悟に圧倒されるしかなかった。



三人は静寂の中、爺さんの先導で埋まった洞窟跡近くまで辿り着いた。


「ここです、陛下。この上です」


レヌンが示すと、不死王は短く「うむ」とだけ答え、静かに宙を浮いた。

聖水を浴びた骨からは今も白いモヤが出続け、彼の存在を小さくしている。

不死王は洞窟跡の前に降り立った。

そして、不死王はまるでそこに何もないように足を踏み入れていった――


土で埋まっている穴の奥深く、幾重にも重なる圧力を乗り越え、突き進む。

そこで初めて見た女性は、まるで琥珀の中に閉じ込められた白いさなぎのようだった。


不死王はゆっくりと彼女を抱き上げる。

その瞬間、彼女に触れた不死王の体から力が抜けていく気がした。


土の中で、消えずに拍動を続けた彼女。

数百年ぶりに触れる、その力強い生命力が、不死王の骨格を軋ませる。

なんという生命力だ。

洞窟跡の出口に向かう間にもひしひしと伝わってくる。



そしてようやく、不死王は、土まみれで白い光に包まれて眠る少女を、両腕に抱きかかえ、洞窟跡から一歩を踏み出した。


「……助けた。行くぞ」

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