神の封印
もう少しで陽が落ちる頃、その山は異常に包まれていた。
山の周囲、遥か上空。
同じ高さの虚空に、白いローブを纏い、白く高い帽子を被った者たちが静止していた。
まるで目に見えない足場があるかのように、彼らはただ、じっと「その時」を待っている――
やがて、静寂を破って山の洞窟から二人の女が姿を現した。
女たちが天を仰いで合図を送った瞬間――彼女たちは脱兎のごとく、険しい山道を駆け降りていく。
まるで、これから起こる「何か」から必死に距離を置こうとするかのように――
女たちの姿が見えなくなって、しばらくたった。
空に浮く白い影たちが、一斉に腕を動かし始める。
奇怪な紋様を描いて、動きが止まった、次の瞬間だった。
ズシンッッ
山全体を震わせるような、低く鈍い音が響き渡る。
直後、真昼の太陽を塗りつぶすほどの、強烈な閃光が走った。
あまりの光量に、山の輪郭すらも白一色に染まる。
それが収まったときには、白いローブの集団は独楽のように回転しながら、吸い込まれるように天へと昇り、消えていった。
後に残されたのは、不気味なほどの静寂。
そして、ほぼ変わらない山の姿だけだった。
◇◇◇
その強烈な光に気づいた者は、二人しかいなかった。
一人は、いちばん近くの町にある展望台で見張りをしていた兵士。
彼は眩しそうに目を細め、一瞬だけ反応したものの、すぐに何事もなかったかのように見張りを続けた。
報告の手間を考えて、気まぐれな自然現象にしてしまった。
もう一人は、山のふもとで孤独に暮らす爺さんだ。
爺さんは、山肌が割れるようなその輝きを、家の軒先からじっと見つめていた。
「なんだありゃあ……」
その胸には、抗いがたい好奇心が沸き上がっていた。
だいたいどの辺りか、わかっている。
しかし、ここ最近徐々にひどくなる膝や腰の痛みは無情だ。
この体では、発光の正体を知るために道中で谷を上り下りすることなど、到底できなかった。
ほとんどの人間は、光の存在にすら気づかない。
そして世界は、そこで何が行われたのかも知らぬまま、日が沈もうとしていた。
◇◇◇
山を下りた二人の女――天使たちは、一度も振り返らなかった。
彼女たちが成し遂げたのは、神の抹消。
標的は幼き神、メル。
神という存在は、物理的に殺すことができない。
どれほど刃を立てようが、その命は理の中にあり続ける。
ならば、どうするか。
――封印だ。
光に閉じ込め、土に埋め、その力を完全に無効化する。
意識があっても動けず、声も届かず、ただ存在だけが削られていく。
それは、死という救いすら与えられない、残酷なまでの凍結だった。




