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窓辺の猫  作者: 双鶴


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タイトル未定2025/12/11 09:06

第一話 幼い日の窓辺(春)


「にゃ…」

小さな声が窓辺から聞こえました。

まだほんの子猫。白い毛に茶と黒の模様がぽつぽつ散らばり、体はふわふわで震えるほど小さい。

春風が吹くたびに桜の花びらが舞い、子猫の毛をふわりと揺らしました。


女の子はお気に入りの人形を抱えて駆け寄ります。

肩までの黒髪が揺れ、瞳は花びらのように澄んでいます。

「今日はね、砂場で大きなお山をつくったの!」

声は弾み、笑顔はきらきら。


猫は返事をしません。

でも、耳をぴくりと動かして、女の子の声を受け止めるように座り続けます。


次の日。

「お友だちが転んじゃったの。だから手をつないであげたんだよ」

女の子の声はやさしく、涙がぽつぽつ。

猫は小さな前足をトントンと窓に添えました。

「トントン、肉球。ぽつぽつ、涙。ひらひら、桜。」

女の子は驚いて目を見開き、そして笑いました。


笑い声、涙、驚き。

女の子の喜怒哀楽は窓辺に響きます。

猫は無愛想なまま、でも小さな仕草で応えます。


窓の外には春の夜空が広がっていました。

桜の花びらも、ぽつぽつ涙も、きらきら星も、すべてを見守るように瞬いています。


第二話 笑顔と涙(夏)


夕立のあと、空には大きな虹がかかっていました。

夏の匂いがまだ残る窓辺に、三毛猫が座っています。

子猫だったころより体はしっかりして、毛並みは艶やか。

琥珀色の瞳は濃くなり、無愛想なままじっと外を見つめていました。


女の子はランドセルを背負って帰ってきました。

「今日はね、先生にほめられたんだ!」

声は弾み、笑顔はきらきら。

猫は尻尾をゆっくり振るだけ。

でも、その沈黙が女の子の喜びを受け止めていました。


次の日。

「友達とけんかしちゃったの…」

女の子の声はしょんぼりと落ちて、涙がぽつぽつ。


そのとき、猫が先に前足を差し出しました。

「トントン、肉球。ぽつぽつ、涙。ひらり、虹。」

女の子は驚いて目を見開き、そして小さく笑いました。

「ありがとう。やっぱり聞いてくれてるんだね」

彼女は猫の肉球に自分の手を重ねます。


けれど、ある日。

女の子は怒って猫に背を向けました。

「もう知らない!」

猫は珍しく「にゃ」と鳴きました。

女の子は振り返り、涙と笑いが混じった顔で仲直りしました。


笑い声、涙、怒り、驚き。

女の子の喜怒哀楽は夏の窓辺に響きます。

猫は無愛想なまま、でも小さな仕草で応えます。


窓の外には虹が消え、夕暮れの星がひとつ瞬いていました。

その光は、ふたりの心を静かに見守っていたのです。


第三話 夢を語る夜(秋)


秋の夜、窓の外から虫の声が響いていました。

澄んだ空には星座が広がり、ひとつひとつが物語を語るように瞬いています。


女の子は窓辺に座り、ノートを広げました。

髪を後ろで結び、少し大人びた顔つきになった彼女の瞳は、星の光を映して輝いています。

「今日ね、理科の授業で星座を習ったの。先生が言ってたよ、星はずっと昔の光なんだって」

鉛筆をカリカリと走らせながら、彼女は星の形を描きます。

「いつか、その秘密を研究したいの。星の声を聞いてみたいんだ」


窓際には、堂々とした成猫になった三毛猫。

毛並みは艶やかで、背筋は星座の線のようにまっすぐ。

眠たそうな琥珀色の瞳は、秋の月のように深く、無愛想なまま夜空を見上げています。


女の子が夢を語ると、猫はふいに窓に飛び乗りました。

星を追うように前足を伸ばし、ガラスにトンと触れます。

「トン、と星。カリカリ、鉛筆。きらきら、夢。」

女の子は驚いて目を見開き、そして笑いました。


「聞いてくれてるんだね。ありがとう」

彼女は猫の背をそっと撫でました。

猫は尻尾をゆっくり振り、沈黙のまま応えます。


夢を語る声と猫の沈黙。

その繰り返しが、秋の窓辺をやさしく満たしていきました。


第四話 旅立ちの窓(冬)


冬の朝。

白い息が門の前に漂い、冷たい光が街を包んでいました。

両親は門のそばに立ち、娘の旅立ちを見守っています。


女の子は制服姿で背筋を伸ばし、緊張と期待を胸に歩みを進めました。

けれど、ふと立ち止まりました。

「ちょっと待ってて」

そう言って、ひとり家の方へ戻ります。


窓辺には、壮年の三毛猫が座っていました。

毛並みは艶やかで落ち着き、背筋は冬の星座の線のようにまっすぐ。

眠たそうな琥珀色の瞳は、冬の星のように鋭く、泣くのを我慢するようにじっと佇んでいます。


女の子は窓に近づき、声をかけました。

「行ってくるね。…でも、また帰ってくるから」


猫は返事をしません。

ただ、窓越しに女の子を見つめ続けます。


女の子はそっと手を窓に添えました。

猫も前足を伸ばし、ガラス越しに重なります。

「トン、と重なる。じっと、見つめる。」


その瞬間、門で見守っていた両親の目にも涙が浮かびました。

女の子も涙ぐみながら笑顔をつくります。

猫は何も言わず、ただ目を細めて送り出しました。


窓の外には冬の光が広がっていました。

その光は、女の子と猫と両親の約束を静かに見守っていたのです。


エピローグ 帰ってきた夜(春)


春の夜。

桜の花びらがひらひらと舞い、星空がきらきらと瞬いていました。

長い旅を終えた女の子は門をくぐり、両親の笑顔に迎えられます。

背は伸び、服装も大人びているけれど、瞳の奥には幼い頃の輝きが残っていました。


女の子はまっすぐ窓辺へ向かいます。

そこには、老猫になった三毛猫が座っていました。

毛並みには白い毛が増え、動きはゆったり。

瞳は夜空のように深く、歩みは時のリズムのようにゆっくり。

長い年月を見守ってきたその姿は、静かで優しかった。


「ただいま。ずっと覚えてたよ、ここでの約束」

女の子は窓に手を添えました。

猫もゆっくり前足を伸ばし、ガラス越しに重なります。

「トントン、時のリズム。ひらひら、桜。きらきら、星。」


その瞬間、両親の目にも涙が浮かびました。

女の子は涙ぐみながら笑顔を見せ、猫は静かに目を細めて応えます。


窓の外には春の夜空が広がっていました。

幼い頃から見上げてきた光が、今も変わらず瞬いています。

女の子の声と猫の沈黙。

そのリズムは、これからも窓辺で続いていくのでしょう。


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