新興宗教団体が炊き出しを行う理由
沢山の人がスラムの一角にある倉庫の中に入って行く。
倉庫の中は風通しが悪くムッとする程に蒸し暑く、ジメジメとしていてカビ臭い匂いが漂っていた。
倉庫の中央に祭壇が置かれその前に跪いた猫背の老婆が、木魚の音に合わせて念仏を唱えている。
ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、ポク……
「なめなめなめなめなめなめ……」
その念仏を唱えている老婆の後ろに多数の男女が跪いていて、吹き出る汗を拭う事もせずに一心不乱に念仏を唱えていた。
「「「「なめなめなめなめなめなめ……」」」」
此処は新興宗教団体の祈祷所。
祭壇の近くで念仏を唱えている者たちはともかく、祭壇から少し離れた場所に跪きボソボソと念仏を唱えている大多数の者たちの目的は、新興宗教団体が此のあと振る舞う炊き出しを食べる事。
21世紀後半の今、人工知能を搭載したアンドロイドに仕事を奪われる者たちが増え、現在の失業率は30パーセントを超えている。
スラムにはそういう失業者が群れをなして屯していた。
そういった人たちが振る舞われる食事を求めて集まってくるのだ。
ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、ポク……
「なめなめなめなめなめなめ……」
ゴーン!
鐘が鳴らされ唱えられていた念仏が止まる。
祭壇の方を向いていた猫背の老婆、新興宗教団体滑子教の教祖の滑子が信者の方に向き直り一通り説法を行う。
説法が始まると炊き出しか目的で集まって来た者たちがソワソワし始める。
説法のあと炊き出しが振る舞われるからだ。
ソワソワし始めた者たちの前に、倉庫の地下にある炊事場で作られた滑子雑炊が入った大きな鍋を、猫背の男が2人がかりで運んできた。
祭壇の前にいた信者たちが、運ばれてきた大鍋の前に長蛇の列を作る失業者たちが差し出す深皿や丼に、お玉で掬った滑子雑炊を入れて行く。
滑子雑炊を振る舞っている信者たちは長蛇の列が乱れる度に声を発した。
「慌てるな! 雑炊はまだまだある、此の鍋の雑炊が無くなったら別な鍋が運ばれてくるから、列を乱さす並んでいろ」
その様子を地下に続く階段のところで眺めながら、大鍋を運んできた猫背の男たちがお喋りしている。
「食ってるよ、食ってるよ、滑子なんて目眩まし、我らの卵を食ってるよ」
「此れでまた我らに脳を乗っ取られ、忠誠を誓う者たちが増えるんだな」
猫背の人間に擬態した2体のナメクジ星人は、地球侵略の企てが着々と進んでいる事を実感するのであった。