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9話 バレる




 ネージュ城に来て三ヵ月が経ち、アイスディはしっかりと定着した。

 誰が来てもいいわよと伝えているが、参加人数は六人までと決めている。なので、希望者は毎回くじ引きをしているらしい。

 ナタリーいわく、アイスディは使用人たちの中で内緒のご褒美扱いになっているのだとか。

 実は騎士たちも時々参加している。忠誠心的な方向でどうかと思うものの、いつも厳しい顔の騎士たちが笑顔で「美味しい」と言ってくれるので、気にしないことにした。


 アイスディではない日は、本を読んだり焼き菓子を作ってみたり、王都にいたころと何ら変わらない生活になりつつある。


 今日作ったレモンピールクッキーなんて、いままでで一番の出来だった。最後の一枚を食べながら、次も同じレシピにして、分量は三倍くらいでもいいかもしれないななんて考えていた。


「オレリア様、トリスタン様が執務室でお呼びです」


 執事のポールが部屋に入ってくるなり、天変地異でも起きたかのようなことを言った。


「ゔぇっ? えっ…………なんで?」


 この三ヵ月、完全に放置だったじゃないの。ポールやナタリーたちが何かしら進言していたらしいけど、結局何も許可なんてくれなかったのに。図書室にいくことさえも。だから厨房にしか抜け出せなかった。

 いやまぁ、トリスタン様がいないときはめちゃくちゃ普通に城内歩いてたし、みんなにバレバレだったけど。最近は暗黙の了解みたいな感じになってたじゃない。

 

 ――――えぇっ?


「それが……アフタヌーンに出てくる菓子や、食後のデザートがオレリア様作だとバレてしまいました」

「えぇ? なんで?」

「っ……ごめ、なさい…………」


 消え入りそうな子どもの声が聞こえて部屋入り口に視線を向けると、扉がゆっくりと開いて涙目のメルがお仕着せのスカートをギュッと握りしめて入ってきた。


「メル、どうしたの?」

「ごしゅ、じんさまが……っ、きょ、今日のクッキー、レモン味はじめて食べたって。とっても、おいしいって。食べてみなさいってくれたんです」


 ――――へぇ?


 トリスタン様って、そういう優しさは持ち合わせているようね。


「うん。それで?」

「今日、出来たて食べさせてもらったから。おいしいの知ってたから。オレリアさまが、ご主人さまのために作ってたから。ご主人さまのためのものだから、ぜんぶ食べてくださいって……」

「そこで、感付かれてしまいました」


 別にトリスタン様のために作ったかというと、そうでもないのだけれど。まぁ、以前に出してもいいかと聞かれて内緒でならいいわよって答えた気がする。

 メル的には、私はトリスタン様のお嫁に来たけれど、無碍に扱われていて、トリスタン様に好かれたくて作っていると勘違いしていたよう。


 これは、仕方がないわね。大人たちの行動で、小さな子を巻き込んでしまったことの方が重大よ。

 悪いのは私とトリスタン様だわ。


「メル、ありがとう。貴女のその優しさはいつまでも持っていてね」


 泣くのを我慢しているメルの側に歩み寄り、膝をついて両手を広げると、メルが勢いよく抱きついて来た。背中に腕を回してそっと抱きしめ、額にキスを落とす。


「オレリアさまぁぁぁぁ」


 わんわんと泣きじゃくるメルの背中をゆっくりと撫でながら、気にしなくていい、メルのせいではない、と伝えていると部屋の扉がノックされました。


「何ごとだ?」


 入室の許可を出していないのに勝手に入って来たのは、久しぶりに見るふわふわの赤毛と凍てつく青い瞳の人物――トリスタン様。

 ちくりと嫌味を言いたくなりましたが、子どもの前でする会話でもないかと思い、笑顔を貼り付けた。


「お騒がせして申し訳ございません、トリスタン様」

「…………話が聞きたかったんだが、後でいい」


 涙が止まりかけていたのに、トリスタン様の登場で更に泣きじゃくってしまったメル。

 流石のトリスタン様も、八歳の少女にこうも泣かれると慌てるようで「メル、怒っていない。大丈夫だ」と優しい声で囁くと、メルの頭をそっと撫でて部屋を出ていった。




 十五分ほどしてやっと落ち着いたので、キャスとナタリーにメルを任せた。二人が申し訳なさそうな顔をしていたので、今回の件で悪いのは私とトリスタン様なのだと念を押しておいた。

 ポールに道案内を頼みトリスタン様の執務室に向かっていたのだが、ポールもなんだか気に病んでいそうな空気を出している。

 こちらのフォローも後でしなければなと思いつつ、トリスタン様の執務室に入った。


「大変、お待たせいたしました」

「あ……あぁ。……メルは?」


 チラリとほんの一瞬だけこちらに視線を向けたものの、直ぐに手元の書類に視線が戻って行く。会話する時くらい、相手の目を見て欲しいものだ。

 ずっと放っておいたのに、いまさら文句でもあるのだろうか。


 そもそも、本気で部屋に閉じ込めて起きたかったのなら、鍵を掛けたりすればよかったのだ。まぁ、監禁罪だと訴え出るけども。ただ、そうすると私は不法占拠とかになりそうだけどね。


「座ってよろしくて?」


 執務机の前に置いてあった一人掛けのソファの背もたれに手を置いて訪ねると、またこちらにチラリと視線を向けた。

 トリスタン様がコクリと頷いたので、座っていいということなのだろう。


 ――――さて、どうしようかしらね?




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