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5話 城内の偵察

 



 脱走を決意して部屋から出ようとしたら、侍女たちに止められた。せめて目立たない格好で行ってくれと。


「あら? 出ていくのはいいの?」

「……その、お部屋の中にずっといるのも辛いでしょうし」


 雇い主の意向には反するものの、仕えているのは私だから、という葛藤もあるような話しぶりだった。それに、嫁いできた理由を考えると、脱走と言っても本当に城から出ていくわけではないのだろう、と考えているようだった。

 素晴らしく有能な侍女たちだ。もし侍女たちが咎められたら、私が再雇用しよう。


 デイドレスから借りた侍女服に着替えて、脱走開始。

 脱走と言っても、今回は城内の偵察が目的だ。

 侍女二人やメルを見ている限り、トリスタン様は慕われているようだし、噂のような氷結侯爵だとも思えない。ただまぁ、私に対しては噂に違わぬ振る舞いをされているようだけど。

 部屋から出て、他の使用人たちの様子も見てみたくなった。あと、居心地は悪くはないものの、部屋から出られないというのは、とても息苦しかったからという理由もある。


 鼻から空気を吸い、口からゆっくりと吐き出す。新鮮な空気が肺に満たされる感覚で、何となく身体の中に澱み溜まっていたものが全て消え去ったような気がした。

 やはり室外の空気はいいわね。景色が変わるのもいいわね。なんて侍女相手に話しつつ、廊下を歩く。

 取りあえずは今いる二階を偵察すべきだろうと歩いていると、執事のポールと出くわした。


「……何をなされておいでで?」

「んー? 脱走? 偵察とも言うかしらね」

「なるほど?」


 私の横にいた侍女たちを、ポールがチラリと見たのだが、視線が妙に厳しかった。彼女たちの前に立ち、「私が無理やり出てきたのよ」と言うと、苦笑いされてしまった。


「分かっております。彼女たちに罰は与えませんので、警戒しないでください」

「そう? それならいいのだけれど」

「それよりも、私も同行してよろしいですかな?」


 ただ偵察するだけだと伝えたが、ポールはクスクスと笑いながら私たちの後ろに続いた。


 客間のある区画から出て暫くすると、図書室や遊戯の出来る部屋、各種サロンなどのある区画になった。この区画で来客を接待したりするのだろう。


「本はここから持ってきてくれていたの?」

「はい」


 あまりにも暇だと言っていたら、ナタリーが時々だけど本を持ってきてくれるようになっていた。ちょっとお固めの本が多かったけれど、それでもいい時間潰しにはなっていた。


「次からは自分で取りに来ようかしら」

「……一応、トリスタン様の許可を取ってくださいね?」

「次、面会する機会があればね」


 会えないのだから、許可が取れないのだ。まぁ、ポール経由で伝えるのもいいだろうけど、却下されそうなのよね。面と向かって許可をもぎ取りたい。


 城内ですれ違う使用人たちの表情は、みな明るかった。ただ、私を見てギョッとする者やポカンとする者が多かった。その度に、ポールがなぜか唇に人差し指をあて、内緒だという仕草をしていた。


「ねぇ、私の顔って使用人たちにバレてるの?」

「……バレていると言いますか、使用人の服を着ていても、明らかに貴族の雰囲気ですので」


 どうやら髪や化粧のせいもあるらしい。あと、歩き方もだと言われた。


「ふぅん。歩き――――」

「ポール!」


 歩き方ねぇ、と話し出そうとした時だった。後ろから、威厳のある低い声がポールの名を呼んだ。


「っ! では、君たちは一階に向かいなさい」

「承知しました。キャス、二人で行きなさい。私はトリスタン様にご報告があります」

「はい」


 キャスに小声で後ろを振り向くなと言われつつ、腕を引かれて直ぐ側にあった角を曲がった。


「キャス、キャス! ちょっと待って」


 小声でキャスを静止し物陰に隠れていると、トリスタン様とポールとナタリーが角をこちらに曲がらず、廊下を真っ直ぐに進んでいった。

 キャスの腕をグイグイと引っ張って、三人のあとをつけていると、会話が聞こえてきた。


「トリスタン様、どうかそろそろオレリア様の処遇を考えてはいただけませんかな?」

「……嫌になったら出ていくだろう。こちらから何をする気もない。陛下からの返事もないしな」


 トリスタン様が赤い髪を掻き上げながら、ため息を吐いていた。後ろ姿なので表情は見えないけれど、きっと面倒くさそうな表情をしているのだろう。

 出会った時のように眉間に皺を寄せ、氷のような青い瞳を鋭く細めて。

 しかし、陛下はなぜ返事を出さないのだろうか? 意地の悪い笑みを浮かべた陛下の顔を思い出し、ただ単に楽しんでいそうだなと断定した。さてどうしたものかと考えていると、トリスタン様がナタリーに私の様子を聞いていた。だだ、内容が予想外だった。


「メルとは二人きりにしていないな?」

「……はい。一応メルにも気をつけるようには言っていますが、オレリア様はそのような人物ではないかと」


 会話の内容からして、どうやらトリスタン様は私が使用人いじめや折檻しないかを疑っていることが分かった。だから、私に見習いをつけたのか。強気に出やすい、幼い子どもを。


「行きましょ」


 小声でキャスにそう言いいトリスタン様たちから離れていると、キャスが慌てたようにトリスタン様の案じゃないと言い出した。


「言い出したのはメル自身なんです。トリスタン様の役に立ちたい一心からだとは思うのですが」

「……そう、なのね」


 でもまぁ許可を出したのはトリスタン様よね? 私が本当に折檻するタイプだったらどうする気だったのかしらね? 

 そんなことをぐるぐると考えながら歩いていたら、行き止まりに到着してしまい、階段を降りるしかなくなっていた。




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