18話 仲直りとフルーツパフェ
トリスタン様とソファに並んで座り、手を握りあっていて、ハッと思い出した。
「フルーツ!」
カットフルーツをそのまま廊下に放置していたのだ。
ナタリーが手紙を取りに行く際に、プライベートキッチンの氷室庫に入れたと言われてホッとした。
「陛下から届いたというやつか?」
「はい! そうだ!」
何をもらったか報告すると、トリスタン様がワクワクしたお顔で食べたいと言った。
ナタリーたちをよび、プライベートキッチンから色々と持ってきてもらったものを、ソファの前にあるローテーブルに並べる。
カットフルーツ、クッキー、ホイップしたクリーム、ミルクアイス、パインジャム。そして、パフェ用のカップも。
ヨーグルトがあればどちらともあったのだが、残念なことに置いていなかった。今から厨房に行くには少し遠い。
今回はある材料で作ってしまおう。
「フルーツパフェを作りましょう」
「パフェ?」
まず一番下にパインジャムを少し入れて、その上にホイップクリームを二巻きほど。そこにカットしたマンゴーを入れ、一センチほどミルクアイスその上に生クリームを一巻きして、カットパイン。丸く形を整えたミルクアイスをどんどんのせ、アイスの上にホイップを円錐状に絞る。カップの縁にカットしたパインとマンゴーを交互に並べて、クッキーを二枚添える。
パインとマンゴーのパフェの出来上がりだ。
「トリスタン様も上手にできましたわね」
「ん!」
とても楽しそうに笑いながらコクリと頷いた姿を見て、なぜか抱きしめたい衝動に駆られた。
パイナップルとマンゴーについて説明しつつ、パクリ。
「ん……パイナップルは、結構酸っぱいんだな。だが、その奥に甘さがちゃんといて、じんわりと広がっていく」
その後、マンゴーを食べてかなり驚いていた。繊維質なのに、溶けるように消えたと。その気持ちは分かる。マンゴーって、本当に不思議なのだ。最高級なものは飲み物かというくらいに溶ける。そして、しっかりと甘いのに最後は爽やかさを口の中に残すのだ。
ついついいつまでも食べてしまう、魅惑の果実だ。
パフェを食べ終え、二人で温かい紅茶を飲んでいた。
トリスタン様が目の前のローテーブルにカップを置き、ふぅーっと深呼吸をしてこちらに体を向けた。
トリスタン様が真剣な眼差しでこちらを見ているので、私もカップをテーブルに置き、両手は膝の上で揃えた。
「オレリア嬢、正式に結婚しよう」
トリスタン様から飛び出てきたのは、まさかの言葉だった。
「よろしいので? 陛下には報告書を出しますし、好き勝手に生きますよ?」
「報告書は……予想していた中身と違ったし構わない。楽しそうに菓子づくりをしている君が好きだ」
まっすぐな告白に全身が熱くなった。
こんなふうに異性から言われたのは初めてだ。いつも奇妙なものを見る目を向けられていた。王族の一員で、侯爵家に産まれ、職務を放棄していると。
仲のよい友人は数人いるが、同性ばかりだった。
急な出来事に上手く返事ができない。
トリスタン様のことは嫌いではない。なんとなく話して、なんとなく一緒にいて、なんとなく日々を過ごしていくのだと思っていた。いわゆる、夫婦ごっこのようなもの。
陛下に言われていた後継ぎ問題は完全に考えないことにして。
トリスタン様がゆっくりと私の左手を持ち上げ、薬指にキスをした。
トリスタン様の手がとても冷たく、少し震えていて、彼の緊張が伝わってくるようだった。
そして、そっと触れた唇は、思っていたよりも熱かった。
「君とすごすようになって、様々な感情を知った。そのひとつが『愛』だ。君を見ていると、心臓が痛いほど早鐘を打つ。そして締め付けられるんだ」
「っ――――!」
なんと答えたらいいのか分からなくて言葉に詰まっていたら、トリスタン様がフッと柔らかく微笑んだ。
「私は、オレリアが好きだ。君は?」
「わ、たしもです……たぶん」
「ん、今はそれでいい」
真正面から伝えようとしたものの、なんだか照れくさくて『たぶん』と付け加えてしまった。
そうしたら、トリスタン様がクスクスと笑いながら両頬を包んできた。
徐々に近づいてくるトリスタン様の整ったお顔。
青い氷のような瞳がぼやけて今から何をするかなんて分かりきっていたのに、トリスタン様がピタリと止まった。
「キスしても?」
「っ! 聞かないでください」
こちとら目を瞑って準備万端だったのに。どういう焦らしプレイだと思ったら、まさかの言葉が返ってきた。
「だが、閨のマナー本には必ず女性に許可を求めよと書いてあった。負担が大きいから」
「っ! どの部分をキスに該当させてるんですか!?」
唇が触れるか触れないかの場所でまさかの告白。しかもほぼ勘違いだった。
「聞かなくてしてもいいのか?」
「っ、時と場合によります」
「難しいな…………で、今は? していい?」
「っ………………はい」
「ん」
ゆっくりと近づき、柔らかく触れ合う唇。温かくて、ふわふわしていて、少しだけしっとりとしていた。
角度変えて何度か重ねてそっと離れていった。