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17話 本音で話そう




 部屋に招き入れてもらった。こんなタイミングで初めて訪れるのもどうかとは思ったものの致し方ない。

 トリスタン様のお部屋はかなり質素だった。だだっ広い空間に、ポツポツと必要な家具が置いてあるだけ。お城の中もそうだったけど、トリスタン様は過度な装飾は嫌うよう。

 あれ? でもそれにしては私の部屋は可愛らしくなってたわよね? ナタリーとかキャスのおかげかしら?


「座ってもよろしくて?」


 招き入れたものの、どうしたらいいか分からないといった雰囲気で、自室に佇んだままのトリスタン様。立ち話とか嫌ですよと、座りたい旨を伝えたら、ハッとした顔で慌ててソファを勧められた。

 基本的に人を招き入れないのだろう、座る場所は壁際の数人掛けのソファか、小さめのレターデスクか、ベッドくらいだった。

 執務が出来そうな机は無かったので、部屋に仕事は持ち込まない派閥らしい。

 

 ソファに並んで座る。横並びって話しづらいわねと、身体を少し横向けたら、トリスタン様がビクリと肩を跳ねさせた。取って食ったりしないからそんなに怯えないでほしい。


「トリスタン様、そろそろ本音で話しましょうよ」

「っ……」


 いつまで経ってもよそよそしい態度ばかり。トリスタン様の気持ちが全く分からないのだ。


「まず、今日は体調不良ではなかったのですよね?」

「あぁ」

「なぜ不機嫌になられたのです?」


 そう聞くと、トリスタン様が両膝に肘を付き、俯き加減で話し出した。

 

 私と徐々に話すようになってきて、距離が縮まってきているのを実感していた。ゆっくりだが夫婦になってきているなと思っていたらしい。

 ところが、国王陛下からの報告書への返事という書簡と、褒美と書かれた木箱が届いたことで、私とは仮面夫婦のままで、ネージュ領のことを陛下に漏らしているのだと気付いたらしい。


「歩み寄れていると思っていたのは、私だけだったらしい」

「いや、歩み寄ってますよね?」

「だが君は国王陛下に情報を流しているのだろう? そのために夫婦になったのだろう?」


 ――――なるほど、そこからか。


 大概において、悪いのは国王陛下。これは共通認識で行きたい。


「まず、報告書だの褒美などは、陛下のいたずらです」


 ナタリーに部屋から陛下の手紙を持ってきてもらった。どうぞとトリスタン様に渡すと、人の手紙を勝手に見るのは……とか戸惑われた。いや、私がいいって言ってるんだから見てくださいよとがサッと開いてトリスタン様に渡した。


「え……『業務連絡みたいな手紙は止めてくれる?』これは、陛下が?」

「ええ」


 陛下、ノリが軽いのよね。

 今回のも、定期的に連絡は寄越せと言われたから手紙をしたためたのに。

 天候や雪の溶け具合、食材について、流通で困っていそうなことなどを書いておいた。それに対しての陛下の返事は『もっと色ごとの話をしてくれよ』だった。あの人は、恋バナがしたいだけなのだ。

 

「私はカッコイイのか?」

「あっ……まぁ、はい」


 しまった。そういえばそんなことを書いたな。

 見た目はいいが頑なになってて会話にならないとか、ちょっと悪口も。それに対する陛下は『だろうだろう! トリスタンは本当にカッコイイからねぇ。心配なのだよ。変な虫がつかないか。君たちは根本的なところがそっくりだからねぇ。いい夫婦になると思ってるよ』だった。

 人の話を聞かない人だ。


「っ…………初めて言われた」


 ――――は?


 いやいや! 貴方、夜会に出るたびにご令嬢たちからキャーキャー言われてましたけど!?


「夜会? いつも陰口をたたかれているんじゃないのか? ど田舎のやつが来たみたいな」

「難聴系ですか?」


 もしかして、トリスタン様はヒロイン枠だったかとか、ときおり読んでいた恋愛小説の設定を頭に思い浮かべてしまった。


「耳はいいが。聞かないようにはしていたな」

「なるほど」

「女性と付き合ったり、恋に落ちたことがなかったし、夫婦というものもよく分かっていない。妻である君との距離の縮め方も……」


 ――――あら?


 トリスタン様って、本当にピュアなのかもしれない。ってか、その顔面で恋人とかもいなかったことのほうが驚きなのだけど。


「恋は、顔でしないだろう?」

「そういう正論は求めてません。というか、私のこと妻だと認識していたんですね」

「なっ!? だから隣の部屋を用意したんだが。君はやっぱり違ったのか……」


 なぜそこで更にしょんぼりと項垂れるのよ。可愛いじゃないの。


「そもそも、まだ結婚式を挙げていませんが?」


 この国では結婚式を挙げてからが本当の夫婦だといった感覚がある。

 書類を先に提出し受理されたあとに、二人でゆっくりと式の準備をしたりする。その作業を終えてからこそ、夫婦だと周囲に認められるのだ。


「っ……そうだった」

「ふふっ」


 この人の初々しさや、危うさが、いやに可愛い。

 何というか、側で支えてあげたいと思わせられるのだ。なんでか年上に思えないところも余計に可愛いなと思えるのかもしれない。


「トリスタン様」

「なんだ?」

「仲直り、しましょ?」

「っ……うん」


 ケンカかと言われれば違うが、すれ違いは起こしていた。たぶん、これを放置していたら、決定的なヒビになっていただろう。

 ホッとして隣に座っていたトリスタン様に寄りかかると、ビクッと震えたあと、そっと手を握ってきた。

 可愛いなぁと思いつつ握り返すと、またキュッと握られて、心臓がありえないほどに締め付けられた。




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