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【連載版】氷雪侯爵と仮面夫婦になったのでアイスクリームを作ります  作者: 笛路 @書籍・コミカライズ進行中


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13話 部屋の移動

 



 トリスタン様と徐々に会話するようになって、いつの間にやら二ヵ月が経っていた。


 ここ最近、城内が妙に慌ただしいなとは思っていたものの、前にポールが夏季に向けて模様替えをするとかなんとか言っていたので、それで業者が出入りしているのだと思っていた。

 それにしては城内の変化はないので、私が立ち入らないような場所……トリスタン様の私室とか? そこら辺から模様替えしているのかも。

 

 客間に模様替えの手が入る時期になったら、荷物をまとめないとよね? と聞くと、ナタリーたちはニコニコと微笑みながら大丈夫だとしか言わない。


「私、嫌よ? 急に荷物を片付けろとか言われても、すぐさま対応できないくらいにこの部屋に馴染んでるのよ?」

「荷物の片付けや移動は私たちが行いますので、オレリア様は指示さえしていただければ」

「んー、まぁ、そうなんだけどねぇ」


 見てるだけってのも、少し落ち着かないのよね。




 昨晩そんな会話をしてからの、朝食だった。


「はい?」

「だから…………部屋を用意した。そちらに移ってくれ」

「え? 今の部屋、気に入ってるのですが。なぜ急に? 最近やっている模様替え工事の一環ですか?」


 改装を終えたあと、元の部屋に戻れるのならいいけど……と言葉を続けていたら、元の部屋は客間だから出ていってもらうと言われてしまった。

 確かに、あそこは客間だし、来客時に使うこともあるものね。来客が訪れていた覚えはないけど。夏になったら来るかもだし?

 なんとなく来客は、商人くらいな気がしているけど。


「承知しました。新しい部屋はどちらに?」

「よ、四階だ」 

「あら……」


 どこでもいいとは思っていたものの、四階は流石に遠いですね。今は二階、そこから調理道具など運ぶとなるとかなり大変な作業になる。私はいいが、使用人たちが大変だ。

 あと、厨房が遠くなることに、少しだけがっかりした。


「二階の別の部屋では駄目なのですか?」


 最悪、厨房さえ近ければ使用人用の部屋でもいいのだけど、流石に無理を言い過ぎよね?


「…………四階に用意している」

「そうですよね。わがままを言ってしまいました。大変申し訳ございません」

「いや、いい。私こそ急に言ってすまなかった」


 トリスタン様が気まずそうに横を向いて、コーヒーをちびりちびりと飲んでいた。何かまだ言いたいことがあるのか、カップから口を離してこちらを向いては、また横を向きコーヒーを飲む。

 何度か同じことを繰り返しているなと思いつつ、朝食の最後の一口を食べ終えた。


「キャス、私にもコーヒーのおかわりを」

「かしこまりました」


 さて、目の前に座った赤髪の領主様、いまはちょっとあどけない少年のような雰囲気でソワソワしっぱなしのトリスタン様をどうしたものか。

 なにか聞いてほしいのよね?


「どうされました?」

「っ、その、四階には私の部屋もある」

「あぁ、そういえばそうでしたね!」


 四階の奥には、お城で働く重要人物の居住区がある。最奥がトリスタン様――領主の私室。そしてその側には執事のポールやトリスタン様の警護をしている騎士たちの部屋もあるのだろう。

 なるほど、私はそこら辺の一室を借りるのか。


「騎士たちがいる区画であれば、安全面も完璧ですわね」


 まぁ、ネージュ城内はわりと平和というか、平和ボケしつつあるほどに皆いい人たちばかりで、どこも安全なのだけど。

 厳しいのは外気とトリスタン様くらいなのよね。そのトリスタン様も最近はなんだか懐いてきてくれている感があるけれど。


「…………トリスタン様、僭越ながら……」


 トリスタン様の斜め後ろに控えていたポールが、何やら耳元でもしょもしょと囁いていた。すると、トリスタン様の顔が徐々に桃色に染まっていき、俯いてしまった。

 テーブルの上に置かれていた両手は固く握られ、拳がプルプルと震えている。

 ポール、いったい何を言ったのよ? めちゃくちゃ怒ってない?


「っ……の……ゃ、だ」

「――――はい?」


 全く聞き取れなかった。


「だからっ! つっ…………の……ひゃだ!」


 いやぁ、わかりませんって。一番最後、噛みましたよね? 全く聞き取れないのですが。


「あの、落ち着いてくださいませ。深呼吸して、怒りを抑えてください」

「怒ってない……」

「あ、そうですの? とりあえず、深呼吸!」

「うん」


 こういうとき、トリスタン様って妙に素直なのよね。頑張って真面目に深呼吸する姿がちょっと可愛い。


「用意したのはっ…………つ……妻の部屋だ」


 そう言った瞬間、頭から煙でも出すんじゃなかろうかというほど、トリスタン様が顔を真っ赤に染めた。


 ――――妻の部屋?


 もしかして、侯爵夫人としての部屋を用意してくれたってこと? え、トリスタン様、そこまで受け入れる覚悟が出来てたの!?

 そして、こんなに必死になって伝えられたことは『妻の部屋』のみ!? 何この初々しい人は! 可愛すぎない?


 王都のギラギラした子息たちに見せてやりたい。女は可愛い方がいいとか、綺麗な方がいいとか、やーやー言ってるけれど、男の人も初々しくて可愛いほうが断然いいわよ! まぁ、私の好みの問題かもしれないけれど。




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