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【連載版】氷雪侯爵と仮面夫婦になったのでアイスクリームを作ります  作者: 笛路 @書籍・コミカライズ進行中


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10話 自己主張をする




 とりあえず、質問には答えてあげないといけないわよね?


 「メルは落ち着きましたわ。今は少し恥ずかしそうにしています」 

「そう、か…………」


 そのまま言葉が途切れたので、呼び出した要件はと聞くと、少し気不味そうにこちらに視線を向けられた。


「ここ最近の菓子類は君が作っていたと聞いたが本当か?」

「ええ」

「なんのために?」

「趣味と暇つぶしですわ」

「暇つぶし…………」


 トリスタン様の眉間に深い皺がギュムッと寄った。明らかに不服そうだけど、いったい何に対してなのかしらね。

 暇を潰すのが悪いことなのかしら? それとも好き勝手に動いていたこと?

 あぁ、段々とイライラしてきた。これは一言……三言くらい言わないと気がすまないわね。


「ええ。だって、こちらに輿入れしてきた日に、部屋から出るなと言われたままですし、ずっと放置されていましたもの。暇を持て余しますわ」

「ぐっ……」


 まぁ、こちらからも一切関わろうとしていなかったけどね。そこは棚上げしておこう。

 それにしても、突慳貪だと思っていたトリスタン様だけど、流石に物腰は一応丁寧だ。あと、嫌味を真正面から受け止めている。なんだかメンタルに突き刺さったような顔になってるけど、大丈夫かしら。


「今さらだが……すまなかった」


 ――――あら?


「それは何に対してですか?」

「意固地になって、君と関わろうとしなかった」

「まぁ、お互い様ですわね」

「……ん」


 トリスタン様がコクリと頷くと赤い髪がふわりと揺れた。ふと苺濃いめのアイスが食べたいなと思ったのは内緒――――あっ、そうだ。本題を忘れかけていた。

 呼び出された理由はそれではないはずなんだけど、どう切り出そう。

 腹芸は……そんなに好きじゃないから、ストレートに聞いてみようかしら?


「それで、好き勝手に動いていたことについて、何か仰りたかったんですよね? 私の食事含め、製菓に伴う費用は私の資産から差し引いていただいていますし、厨房は仕事の邪魔にならない時間に訪れるようにしております」

「あ…………いや……」

「お部屋の使用や使用人たちの手を煩わせていることに関しましては、大変申し訳なく思っております」


 正式に受け入れてもらえるまでは、それらの費用も払おうかと思っていたけれど、ポールがそこまでしなくて良いと苦笑いしていたので、結局は払っていない。

 持参金は金庫に預けており、適宜使用するようポールに言いつけている。ポールは信用していいのかと、その時も苦笑いしていた。


「ネージュ侯爵家の資産は、個人的な趣味の部分においては一切使用しておりません」


 私は、後ろめたくない状態で作りたいし、美味しいものが食べたいのだ。そして、それができるほどの持参金を持ってきている。陛下からもぎ取った分だけでも、三人分程度の輿入れ費用なのだから。


「お菓子作りは、私の命と言っても過言ではありません。なので、何を言われようと、止められようと、絶対に止めませんわ」


 趣味の一環では収まらないほどに、菓子作りが好きなのだ。


「そもそも王命でなければ結婚は承諾しませんでした。結婚なんてしたくありませんし、実家でずっとお菓子を作り続けると両親と契約していましたし」

「は? 結婚したくない?」

「ええ。独り身、最高じゃないですか」


 ついつい本音を言ってしまったが、流石にこの本音は悪手過ぎたかもしれない。トリスタン様が不思議な生き物を目の前にした時のようになっている。


「それで、トリスタン様はなぜ私を呼び出されたのですか?」

「あ……いや。その、菓子作りは何のためにしていたのかと…………理由は分かったので、もういい」

「あら? そうなんですね。では、お菓子作りを続けても?」

「……好きにすると良い」

「ありがとう存じます」


 思ったよりもスムーズに話が進んだわね。私が言いたいことを言いまくっただけのような気がするけれど。まぁ、なんだか丸く収まったようだし良しとしましょ。

 問題ないとなれば、こんな息苦しい場所はさっさとおさらばして、部屋に戻りたい。

 カーテシーをしてお礼を述べて、さぁ逃げるぞという瞬間にトリスタン様に呼び止められた。


「オレリア嬢、その……菓子作りの費用だが、君の資産を使う必要はない。侯爵夫人として動かしていい資金から使用していい」


 ――――え?


 この人、自分の言っている言葉の意味がわかっているのかしら? 侯爵夫人に宛てている資金を私が使うということは、そういうことなのだけど?


「意味、分かってて言ってます? 侯爵夫人の資金をということは、私の輿入れを受け入れるということですが?」


 つい、聞いてしまった。

 氷雪侯爵と言われているトリスタン様が青い瞳が大きく開いたまま、一切の瞬きをせずに固まってしまった。

 そして、数秒してパチパチと瞬きをすると、コクリと頷いた。


「…………うん」


 ――――うん!? え、なんなのその可愛い感じの返事は!


「陛下のサインは確かなものだったし、嘆願書を何度か送ったが、先週正式に却下された」


 先週って。今回のことがなかったら、黙っておくつもりだったのかしら?

 そもそも、嘆願書はたぶん私が来てすぐに出したろうから、意図的に無視されていたに違いない。

 何通目かの嘆願書が届いて面倒くさそうに却下の返事を書く陛下の様子がありありと目蓋の裏に浮かぶ。

 あの人は、そういう人よね。




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