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知らない星空だ。

雲を抜ける直前までの操縦桿の揺れが嘘のように静かになり、雲に入るまで燦燦と輝いていた太陽も姿を消して星々が姿を現している。

 咄嗟に高度計を見る。高度2000m、与圧されていなくても生きていられる高度で、しかもそれなりに安全な高度だ。よかった、もう墜落するのはごめんだ。

 次にすぐにGPSの画面を見る。冬月で買ったGPSモジュールを乗せているから地球上どこでもここがどこかが分かる優れものだ。そして、表示している情報はポンコツそのものでただ『ERROR』とだけ表示されていた。

 さて困った。着陸しようにも目視でも計器でもここがどこか分からないならどうしようもない。まぁ、この状況で唯一できる事は緊急脱出だろうけど脱出して下が海だったら脱出というよりも自殺になる。


 困った困った。仕方ないから空を見上げる。そこには月が3つくらいあった。何かがおかしい気がするが、そんなことより月が3つもあるなら相当明るいはずだ。もしかしたら目視で地形を確認できるかもしれない。

 そう思って操縦桿を右に傾けて頭を右に向ける。


「わぁ、きれいな山々!クソッタレ!!!」


 これではどこにも着陸できないではないか。

 日本アルプスか、あるいは見たことがないが本物のアルプスのような白くて美しい山々が聳え立つこの斜面に着陸するのは無謀だ。せめて遠くに見える人工的なものと思しき光の元なら多少の平地に着陸できるかもしれない。

 それもそうだね。俺は機首を北に...いや、コンパスも狂っている。本当にここはどこなのだろうか?




 山を越えて谷を越え、10分ほど飛んで燃料残量が残り30分ほどになってそろそろ危機感が出てきた頃俺はようやくその光の発生源を目視で確認することができた。

 歴史的な建造物なのだろうか?中世か近世のお城のような見た目をしている。五稜郭の城塞バージョンみたいなノリだ。

 その尖塔の先には見張り台やバリスタなど、中世っぽい装備が備え付けられていて一部のバリスタはなぜかこちらを指向して、こっちが旋回すればあっちも旋回した方を指向した。


「...あれぇ?なんで?」


 そう一人口こぼした瞬間、突然バリスタの先からトレーサーのような光がこちら目掛けてすごい速度で飛んできて自作したレーダー式の空中衝突防止装置がけたたましく鳴った。


『CLIMB!CLIMB!NOW!!!』

「なんで?なんで?!」


 困惑しながら言われた通り上昇すると


『DECSEND!DECSEND!NOW!!!』

「は?」


 今度は下降しろと言われたのでそうする。なんでだよ...


『CLIMB!CLIMB!NOW!!!』

「あーもうどっちなんだよ!!!」


 そんな茶番をやっている間にもうトレーサーの光はだいぶ近くまで寄って来ていた。そして一瞬だけ、矢尻が白く光っているように見える5mくらい長い矢が見えた気がした。


 あまりにも大きな衝撃が機体を襲って、バリバリと矢が機体を食い破る轟音が耳をつんざいた。


『ENGINE FIRE!!!』『ENGINE FIRE!!!』『ENGINE FIRE!!!』

「なんでバリスタに民間航空機が撃墜されるんだよ!!!」


 意味が分からなくて泣きそうだ。いや、見栄を張らずに言えば実際大泣きしながら操縦している。


『CLIMB!CLIMB!NOW!!!』

「なんでまた撃って来てるの!?!?!?」


 もう意味が分からないが、それでも生き残るためにはとりあえずあれをよけなければならないことは理解できた。次当たったら機体はバラバラになるだろう。


 俺は操縦桿を思いっきり引いた。


 バリバリバリ!!!メキャッ!!!という音が機体を引き裂いて俺は突然重力を感じなくなった。


「はぁ?」


 次に暴風を体全体に感じる。風が服を突き抜けて素肌に触れるからとても冷たい。痛いくらいに。

 そう、俺は現在生身で落下している。それにようやく気付いた。なぜって、機体ははるか後ろで粉々に空中分解していたから。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 恐らく風圧で顔がぐちゃぐちゃになっているだろうが、そんなことより急速に迫る死の恐怖がもっと俺の顔をぐちゃぐちゃにした。


「神様仏様、どうかこのパラシュートを展開させてうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 あってよかったパラシュート、思いっきり展開するためのひもを引っ張るとちぎれてしまった。


「中国製なんて買うんじゃなかったぁぁぁぁぁ!!!!!」




「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 もうだめかもしれない。脳裏によぎるのは走馬灯。母ちゃん父ちゃん、顔も思い出せないしあんまりいい親だったようにも思えないけど...そうだなぁ、俺はこういう時誰の顔を思い浮かべられる人生を送ってきたかなぁ。


 地面の木々がよく見える高度だ。


「グッバイ今世」



 

 目を閉じているとふわっとした感覚に身を包まれた。しかも、今や重力を感じている。胴体を包むぬくもりも。

 目をゆっくりと開ける。そこには、月明かりに照らされたすごく俺好みのケモミミ茶髪美少女がいた。俺をお姫様抱っこのような形で抱き上げている。


「...あ、あなたはどなた?私はだぁれ?」

『...あぁ、まだ生きてたのね。それは良かったわ。』


 そう言われ、手刀を首に下ろされて俺の意識は堕ちた。

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