第6話 第一次学年集会
俺が講堂につく頃にはAクラスとCクラスは全員が揃っており座って俺たちが並び終わるのを待っていた。
「Bクラス。いつまでダラダラ並んでるんだ! お前ら、AクラスとCクラスを待たせている自覚は無いのか!」
学年主任の広部が怒って言う。
こんなに怒ってて疲れないのか?
「もっと集団としての自覚を持て!」
広部が説教をしているうちに俺たちのクラスも並び終わる。
「今回はBクラスだけが遅れたが、他のクラスも動きが遅かった。次回以降、もっときびきび動けるように」
「それでは学年集会を始める。姿勢を正して、礼」
礼をし終えるよりも前に広部が怒鳴り散らす。
「そこだ! 前から二番目の列のお前。礼しなかっただろ? お前のせいで全員がもう一回礼をする羽目になったんだ。きちんと考えろ」
「全員、もう一回しっかりやろうな。姿勢を正して、礼」
俺の中学には学年集会というものが無かった。
なので、これが人生初の学年集会である。
始まる前までは興味があったのだが、先ほどの叱責で俺は完全に聞く気が失せた。
しかしそんなことはお構いなしに広部が話し始める。
心なしかさっきの説教で引き締まった俺達を見た広部は少し悦に浸っていた。
「今日の学年集会は、来週実施予定のオリエンテーション合宿に関してだ。詳細なスケジュールや予定に関しては学年集会後のホームルームで各担任から説明がある。私からは今回の合宿の目的に関して説明させていただく」
合宿という言葉に一部から歓喜の声がわく。
しかし、俺は知ってる。
自称進学校においての合宿の意味するところを。
合宿、それはすなわち勉強合宿に他ならない。
俺は腹をくくって、続けて話を聞く。
「今回の目的は大きく分けて二つある。一つは仲間との信頼関係の構築。もう一つは集団意識の形成である」
スクリーンにプレゼンが投影される。
そこには大きく「信頼関係」と「集団意識」の二つの単語が映し出されている。
「受験は団体戦だ。高めあえる集団、信頼しあえる集団が受験における勝者となる。その意識の形成は今この入学したときが最も重要である。是非とも諸君にはこの合宿を意義あるものにしてほしい」
「君たちもついこの間まで受験生だった以上、『受験』というものを真剣に考えたことがあると思う。その上で、私から言っておきたいのは『高校一年という他がたるみきっている今こそ差をつけるチャンス』であるということだ。しかして……」
それからも話は続いたが、どうやらこの学校の正体に気づいたものがぽつぽつ出始めたようで、この学年は自称進学校という共通の敵を見つけて広部の意図しない形で集団意識を作りつつあった。
ようやく「真実」に気づいたか。
にしても合宿かぁ、、台風でも来ないかなぁ、、
この学校は台風なんかが来ても気にしなさそうだけど……
教室に戻ってしばらくすると、担任が教室に入ってくる。
「それじゃあホームルームはじめるよ~。みんな席について」
全員が着席したのを確認すると担任は冊子を配布する。
「手元にしおりない人いる~? それじゃあさっき学年集会でも話があった、来週実施予定のオリエンテーション合宿の説明始めま~す」
俺はしおりをパラパラと見る。
この合宿は来週の月曜からの三泊四日。研修用の施設で集団生活をするというものだ。基本的に午前中が普通の学習、午後に課外研修があるという形だ。地獄だな。
しかし、三日目だけは違う。この日は一日中課外活動に割り当てられており、タイムスケジュール表にも詳細は書かれていない。担任によると何らかのフィールドワークが行われるらしい。
その後も担任より持ち物や集合時刻などの説明が行われた。
「スケジュールに関する話は以上です。何か質問ある~? ……無いみたいだから今日はこれで終わりね。あ、そうそう。今日の午前中にやったテストは合宿終わりの次の日に返却するから直しの準備しといてね~」
おいおい! 今なんて言った? 合宿終わりの次の日だって?
この合宿、水曜の祝日跨いでるだろ。代休ないのかよ。
これも自称進だからなのか?
そんなことを考えながら帰る準備をしている俺にさっき食堂で会話した中屋敷が声をかける。
「今日は一人か?」
「ああ」
「それなら一緒に帰らないか?」
「俺はいいけど」
「じゃあ決まりな!」
これが友達というものなのか。
一日でこんなにも目まぐるしく移り変わってゆく世界に俺は驚いている。
昨日までは想像できなかったことが今日には現実になっている。
「このアニメ面白いよね……」
「……そういえばあの主人公……」
他愛のない話をしながら俺たちは帰路に着く。
昨日まで煩わしいものと考えていた友人関係を、俺はいつの間にか楽しんでいた────