第4話 下剋上への覚悟
入学式が終わり、初めてのホームルームが開かれる。
俺は係の生徒に誘導されて自教室へと足を踏み入れる。
教室はクラス人数に比べたらやや手狭であった。
全員が着席すると担任が話を始めた。
「みなさん。入学式はどうでしたか。緊張した人?」
クラスの過半数が挙手する。
俺も空気を読んでここは挙手をしておく。
「じゃあ、もう一つ別の質問をしま~す。入学式、長いと感じた人?」
挙手をする人はいない。
「これは私個人の感想なんですけど、」
担任がそう断わりを入れる。
「校長先生の話、私ならもう少し短くまとめられたんですけどね~」
校長を小馬鹿にした発言に対してクラスの中からクスクスと笑い声が漏れる。
この校長を嘲る態度、自称進の教師とは思えないな……。もしや、こちら側の人間か……?
俺は担任に少し期待を寄せつつ、話に耳を傾ける。
ここで、担任が自己紹介を始める。
「今日から一年B組の担任をする中蔵学です」
黒板に大きく自分の名前を書く。
「担当教科は先ほどの入学式の時にも説明があった通り国語です。初回授業は明後日だから忘れ物無いようにね」
まずは少しユーモアのある面白い教師が担任になったこと(と、自称進の教師じゃなさそうなこと)に俺は安堵する。
続いて話は生徒の自己紹介へと移った。
ここでのスピーチによって生徒間のヒエラルキーが決定するといっても過言ではない。
高校デビューを目指す俺にとって、これは避けては通れない関門である。
心して臨む。
「出席番号順にやるから、まずは……熱田くん。君からよろしく」
俺からか!?
確かに、出席番号順で言えばそうか……
ただ、まだ誰も話していないこの状況じゃ雰囲気がつかめないため難易度はかなり高い。
俺は深呼吸して、教壇へと上る。
「熱田健二です。えー好きな教科は歴史です。えっと……じゃあ、……以上で」
あ。終わったぁ~~
そういえば俺、原稿が無いとまともに話せないんだった。
反応はかなり微妙だ。俺の高校デビューという夢は儚くも散っていった。
俺は立ち直ることができず、頭を抱えながらクラスメイトの自己紹介を聞く。
しばらく聞いていると、見たことのある顔が前に立つ。
「えー、次は黒崎さん。よろしく」
あ、この女の子、さっきの子だ。
本来なら、接点も何もないこの子の自己紹介を聞く義理なんて、俺にはこれっぽっちもなかったが一応顔見知り(写真を撮ってもらっただけ)だし聞いておこう。
「黒崎茉莉です。マリって呼んでください! 最近のマイブームはお菓子作りなんですけど、いつも失敗ばかりしてうまくできません。料理上手な人がいたら教えてください。一年間よろしくおねがいします!」
俺の自己紹介とは比べものにならないような圧倒的クオリティ。
反応もかなり上々。
可愛いだけじゃなくてコミュ力もあるのか。
なんて不合理な世の中なんだッ!!
そのままの流れで、係と委員会決めをすることになった。
まあ俺は……余ったやつでいいかな。
「委員長に立候補する人、いるかな~?」
まあ俺は予想していたが、誰も手を上げない。
「委員長とかそういうのは結構推薦とかに役立つけどな~」
中蔵はそういって、何とか立候補者を出そうとするがやはり誰も手を上げない。
このまま膠着するのかと思っていた矢先、俺の隣に座っていた黒崎さんが手を挙げる。
「誰もやらないんだったら、私が立候補します!」
彼女がそういうと中蔵が全員に同意を求める。
「みんなー 黒崎さんで決まりでいいかな~?」
反対する人もいないので、そのまま委員長は彼女に決定した。
その後は委員長が中心となって、他の係も順調に決まっていった。
あ、俺はどうしたのかって?
余ったやつでいいという考えが災いして、副委員長に任命されちまった。正直言って最悪だ。
ただ、あのカワイイ女の子と仕事すれば、いつか「そういうイベント」も起きるんじゃないか……?
男って馬鹿ばっかだな。俺は少し胸を踊らせる。
その日のスケジュールは滞りなく終わりそのまま流れ解散となる。
他の生徒は群がって友達獲得に奔走しているが俺の元にはだれもやってこない。
俺、副委員長なんだけど…………?
自分から行くのもなんだか癪なので俺は帰ることにする。
「アーア。俺の青春どうなることやら」
明日はテストだ。
この自称進じゃあ俺が成績トップだとクラスのやつらに示してやるッ!!
俺という存在を知らしめてやるッ!
そんなことを考えながら俺は一人、駅へと向かった──