昔むかし
8話 昔むかし
わたしがカレを見つけたのは深い底の石の牢。
「どうしたの? なんでそんなとこにいるの」
「おまえはなんだ?」
「なんだといわれても……」
「オレはニンゲンに封じられたんだ」
「なんで?」
「ニンゲンの気に入らないコトをしたからだ。ただ食事をしただけなのに」
「あなた、ナニを食べたの?」
「ニンゲンだ、こんなおかしなことがあるか? 魚や貝をいくら食べても、奴らに仕返しとかされたことはない。ニンゲンってーのは普段は陸に居るのにオレたちの食場をあらしていく。海に来たらヤツらもオレの食料だろ」
「ニンゲンは頭がいいのよ。仲間が食われたら仕返しに来るわ」
「オレはあいつらが陸でうろつく前から生きている。なんでヤツらに……」
「命をとられなかっただけ良かったじゃない」
それから、わたしは何度かその牢に行ってカレと話した。
この深い海の中では、そう話し相手などいない。もっと昔は仲間も話せる生き物も居たが、今では。
カレも一人で退屈だったんだろ。
話しに行くと喜んだ。
でもニンゲンを嫌っていたのは変わらなかった。
何度も出してくれと、言われたが魔法の鍵だ。わたしにはどうにも出来なかった。
「出たらニンゲンに仕返しをする」
が口ぐせだった。
わたしは特にニンゲンは嫌いでも好きでもない。
長い時が流れた。
わたしの前を大きなイカ類の仲間が。上にあがって行くのを見かけた。アレは。
「おう久しぶりだな」
深海の牢の。姿は違うがわかった。あのカレだ。どうやってあの牢から。
「やっと自由の身に。封印のカギが溶けたんだ、錆びてボロボロだ」
「そんなものになって何処へ?」
「ニンゲンを食いに行くんだ。チカラつけねーとな。魚や貝だけじゃダメだ。とくにニンゲンはイイ」
「ダメよ、あなたニンゲンに手を出して封じられていたんでしょ。また」
「今度は油断しねぇ」
説得しても、やめる気なさそうだった。
わたしはカレの後を付けた。
久しぶりに。陽の光を見た。ここまで上がって来たのはもうずいぶんと昔だ。
カレは大きな入江から入り、中型の船を見つけた。
船の形が昔とずいぶん違ってた。
船の下に入ったカレは船を揺さぶりはじめた。 ニンゲンが何人も落ちた。
カレは何本もある腕でニンゲンを捕まえては口に。
「やめなさい!」
その時わたしの前に落ちてきたニンゲンと目があった。
コレが今のニンゲン。
なんだろうこの感覚は。
「キレイなニンゲンだ」
わたしはそのニンゲンをかかえて陸にあげると、もどりカレの捕食をやめさせた。
「なぜ、邪魔をする」
ソレがカレの本体でないのは知っていたが、わたしはイカを千切ってやった。
ニンゲンがまだ残っていた。
カレの気配が消えていた。カレは何処に。
つづく