李 麗蘭
5話 李 麗蘭
沈む海底の中、足に何かがからみついた。
足で取ろうとしてもダメだ。このままもっと深くに引っ張られていくんじやないかと思った時にソレは離れた。
すぐ目の前を、なんだろう大きなクラゲのような物が通りすぎた、その後に白長い触手のような物が流れていった。
はるか向こうにミライが見えた。
目が覚めた。
あのときの夢だ。僕は海の中で何かと遭遇した。そのなにかのおかげで。
今朝のニュースで。
〘海に漂っていたイカの足らしいものが、海洋生物研究の白里助教授の調べにより、ダイオウホウズキイカの触手と判明しました。ダイオウホウズキイカはダイオウイカ以上に大きくなるものもいて、船を襲ったのは……〙
大きいと言っても、あれは、かなり。
怪物級だった。まだ信じられない船を沈めるイカなど。
深夜放送のラジオ番組に生出演したものだから、帰宅は午前まわってしまった。
おや、マンションの前に人が。
こんな時間に。
なんて派手なスーツの女だ、真っ赤だ。夜だというのにサングラス。大きな星型のイアリングも目立った。
近づきたくないなぁ。
なんかあの人。
でも、そばを通らないとマンションに入れない。
まえはアクエリアス全員がおなじ部屋で生活していたが、売れてから、同じマンションの個人部屋になった。
で、あたしの個人的な趣味とかもあり、父の知り合いのマンションに安く入れると言うのであたしだけ別のマンションに移った。
だから、ここはあたしだけ。
仕方ないしぃ。女の横通るか。
「あの九十九アミさんですよね」
声かけられた、この人何者? 芸能記者?
「私サイエンス・ライターやってる者なんです」
と名刺を渡された。
サイエンス・ライター 李 麗蘭
「リ、レイランさん」
日本人じゃないのか。でも中国なまりみたいなのはない。
「あたしになにか? 仕事なら事務所をとおしてもらわないと」
「いきなりごめんなさい。仕事というわけじゃないんです。あなたのおじい様は海洋学者の白里泰三教授ですよね」
「はあ、そうですけど」
「コレご存知ですか?」
赤い彼女は持っていた袋から一冊の本を出した。
知ってるかと渡された本、はかなり古い本で表紙カバーもボロボロだ。
タイトルは。
「『海洋奇譚』作者白里泰三、祖父の本だ。コレ、知らないなぁ」
ジイちゃんの本は魚貝図鑑しか読んだことない。これ、なんだ。ホラー小説?。
「そうですか。実はコレの巻末の付録なんですけど」
「付録ですか、この袋とじですか、切られてますけど、んーと袋とじの中のページはサカサマだ。『水棲動物と水神クタアトについての考察』ってこれですか? ボロボロで、ない部分もありますね」
「はい、やっと古書店で手に入れたら、コレでは読めないんです。出版社もなくなり、作者ならお持ちかもと調べたら九十九アミさんの名が」
見た目より普通そうな人だった。
「そうですか祖父も高齢で今は仕事も。父なら知ってるかもしれません。この本、写真取らせてもらっていいですか」
李さんの了解をもらい、スマホで表紙と付録のキレイな部分を撮った。
李さんに名刺の裏側にケータイの番号を書いてもらいその夜は別れた。
つづく