里見洸介
4話 里見洸介
「あなたが、海岸で見つかった日の事件、ご存知ですよね」
「カフェでの殺人事件ですか」
偽物ではないだろうが、この里見という県警の刑事は、病院に来た絵に描いたような刑事とは違っていた。
原色の青いジャケットの下は赤のシャツそして黒のパンツ。髪型七三分けで、しっかりした黒い一直線の眉に細い目。
二の字が並んだようで表情がわかりにくい。
漫画のキャラみたいな細い体。
「あの事件と同じ犯人らしい事件が続いたのも」
「新聞やニュースで」
「第一の殺人事件なんですけど、犯人が濡れた服を現場に残していたと、管轄の署の方で聞きまして。その残された服の確認をお願いしたいんです」
「それは……」
「服から海の成分も出まして、犯人は海から上がって来てるようなんです」
「それって?」
「あの事故と同じ日なのが引っかかりまして」
「あの船に乗っていた誰かと?」
「ええ、あなたしかいないんです。それがわかる人」
ケータイ電話の着信音が鳴った。
「なんだ、こんな時に。失礼」
里見は立ちあがり部屋の隅に行き小声で。
「わかってる。あとは僕が、てきとーに言っといて」
ソファに戻り。
「おねができますか?」
「かまいませんが、僕も乗組員全員の服装は、さすがに」
「大丈夫です。女性物なんで少なかったとおもいますから」
明日にうかがう約束をし里見は帰った。
女性って、あの船に居た女性はごくわずか。
船員に女性が一人いたのを憶えている。
あとは撮影クルーだ。タイムキーパーにメイクさん、助監督にも。あと相手役の新島のマネージャーも女性だった。あとは佐原ミライ。
都内のコイン駐車場。
停めたクルマの中で音楽をヘッドホンで聞いている女性がウィンドウをたたく音で顔を上げた。
「署長怒ってましたよ。勝手に他署の管轄で調査したの」
「気にするな、僕のいつもの行動だ。おかげで、僕も顔が広い」
「そういうのは関係ないんじゃ」
「まあ君には迷惑はかけない、佐久間ハルカ君、僕が勝手にしてることだから」
「里見さん、そのフルネームで呼ぶのやめてくれません」
「どうして? いい名前じゃない」
つづく