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4/7

魔王城へ潜入2

3日目。


朝食、昨日と同じようにノードさんに食事を届けて少し話をした。

そして午前中掃除している時である。


なんコレ??


少し薄暗く人通りの少ない廊下、皆何事もないように通り過ぎていく。

しかし私には見えてしまったのである。

そんな廊下の何の変哲もない壁に、隠し通路あり、と私の視界に書かれているのである。

もちろんメガネの機能である。

てか、そこまで分かるんだねえ、このメガネ、すげえ……。


ど、どうしよう……。

まあ、皆と一緒にいるし今は無理だ。


隠し通路かあ。

なんか、1つあったってことは、幾つかありそうだなあ。

1つだけってことはなそうだ。

魔王城、担当の場所だけじゃなくて、一通り歩き回りたいな……。


「――ゴミ捨て誰行く?」

チャンス!

「あ、私行く」

私がそう名乗り出る。

「じゃあ、私も一緒に行くよ?」

ピリカがそう言ってくれるが断った。

「大丈夫だよ。道は大体覚えたし、昨日もらったリース様の案内図があるから」

「そっか」


私は隠し通路がないか、できるだけ魔王城を隅々まで歩き回りながら、焼却炉まで行って、歩き回りながら戻っていった。

まだ全部は把握出来ていないけれど、滅茶苦茶速歩きで歩いたから、魔王城の4分の1くらい見て回れた。


「遅かったねえ」

「迷っちゃった?」

「ウン、少しだけ。でも道覚えたいから」

ピリカたちメイドにそう言われたが、全然怪しまれてはいないようである。


午後、ティータイムの準備をする。

これもまた、結構な地位にいる魔族たちのためであろう。

私はまだ新人であるから、今日は庭師の魔族様に差し入れを持って行くように言われた。

庭師といっても、上級魔族で古株であるらしい。

しかし庭師で地位は高くないし、気さくなお爺ちゃんであるらしく、それほど緊張しなくていいと言われた。そのお爺ちゃんは話したがりだし、多少話し相手になってくればいいとも。


庭師のお爺ちゃんががいると言われた場所に行くと、そこでは休憩している魔族さんがいた。


「差し入れを持ってきました」

「お、ありがとう」

話しかけると、そのお爺ちゃんは軽く返してくれた。


「お前は、新人か?」

「ハイ」

「そうか、コレ、一緒に食べよう」

「え、でも私は仕事中ですし……」

「いいんだ、いいんだ、持ってきてくれたメイドは一緒に食べるんだ」

「なるほど」

私はありがたく一緒に食べさせてもらった。

軽食である。

人間の感覚で言うと、軽いパンだろうか。


「美味しいです」

「ああ、美味いな。お前、名前は何て言う?」

「コトリです」

「メイドになってから何日経った?」

「今日で3日目です」

「そうか、じゃあ覚えなきゃならないことばかりだろう」

「ハイ、大変です。でも、皆よくしてくれて、楽しさもあります」

「そうか、そうか」


「ええっと庭師さんは、いつから魔王城で働いているのですか?」

「ああ、おじい、でいい。皆そう呼ぶ。

――ここに来てからは、もう1500年くらいかの」

「せ、1500年!」

す、すごすぎる……。

魔族はそんなに長生きできるのか……。

おじいは自慢気に言う。

「先々代魔王からいるぞ?」

てことは、おじいが特別長生きなのか。

「ムラは大分あるが、魔王ってのは大体1世代で500年くらいだ。

今の魔王になってからは10年。まだまだこれからじゃな」

「なるほど」


「わしは魔王の成長を見てきた。

これだけ長くいるからな、それなりに話す機会もあるってものだ。

特に今の魔王は、幼い頃から匿ってくれ、とわしの所に来ていたからな。

今も時々来るんだ。孫のように思っているんだな」

「そうなんですか」

「今の魔王は変わり者だ。皆、そう言っていただろ?」

「ええっと、そう、ですね」

私が言葉を濁すと、おじいは言う。

「わしが魔王とわりかし親しいからといって気遣いなんてしないでいいぞ?

むしろわしの前では、魔王の悪口を言ってもいい。グハハッ」


「ええ? ウーン、そうですねえ。

私が聞いたのは、とても賢くて優しいといったことです。

弱い魔族を助けようとする、弱くとも賢い者には、力の強い者と同等の優遇を。理由なく暴力をふるう者には制裁を……。そして人間と共存しようとしている、と」

「うむ」

「確かに、とても変わっていらっしゃいます」

イヤ、人間の私からすると変わっていないけどねえ……。

魔族からすると変わっているみたいだから……。


私がそう言うと、「そうだなあ」と、一言そう言うと、おじいは少し黙った。


(ああ、変わっている。

今の魔王は今までの魔王たちと違いすぎる。

わしもこれからどうなることか分からん。

ただ、心配だ。魔王のことが。


確かに魔王の周りには、味方もいる。

弱い魔族を助けようとしていることから、弱い魔族たちからは慕われてもいる。

そしてその弱い魔族を助ける、という考えは、皆少しずつ分かりかけてきている。


しかし、人間と共存するという考え方は、皆、分からんだろう、ついていけんだろう。わしは分かる……。人間は悪いだけではない。

だが、それを伝えることは、分からせることはできんことだ。


きっと、魔王がそんな考えに至ったのは、あのことがあったからだ)


あのこと……?


私はおじいが言葉を言うまで、一緒になって黙っていた。

綺麗な黒いバラが咲いている。

黒、紫、赤、なんだか魔王城らしい毒々しい色の花々が咲いている。

花といえば明るい色と思う人間とは、趣味も違うのだろう。

しかし、とても綺麗であった……。


おじいの魔王様を心配した思考が流れ込んでくる。

本当に魔王様のことを孫のように思っているようである。


まだ、『あのこと』ついての思考はない。

きっととても重要なことであるように思うのだけど。


「――おっと、すまない」

「いいえ」


私は聞く。

「おじいは、魔王様のお考えをどう思っているのですか?」

「わしか? わしは、弱い魔族を助けることも、人間と共存することも、いいと思っている」

「何故ですか?」


「以前の、力こそ全て、というのは確かに気楽だった。

わしは上級魔族で、庭師とはいえ、侮られることもなかったしな。

だが、弱い者は辛かっただろう。

わしはそれを同情できる心を持っている。

弱い魔族を助けるという考えが理解できる者とできない者の違いは、その同情心がある者とない者の違いだと、わしは思う」


「なるほど」


「人間のことも、悪いだけではないとわしは分かっている。

思っている、のではない。分かっている。

事実として、人間は悪いだけではない。

むしろ、優しさは人間の方がある」

「優しさ……?」


「わしは昔人間と話したことがある。

これだけ長く生きていれば、人間の1人や2人、3人と話すこともある。


初めて話した人間は、まだ幼い少女だった。

わしのことを魔族と分かっていない、魔族というものもまだ教えられていないようだった。

父と母、姉弟たちのことを話してくれた。

人間の家族とはこういうものなのか、とわしはその時、人間というものの認識が大きく変わった。


次に話した人間は、わしと同じく老いぼれ。

なんか知らんが話も合った。なんだかんだ話していて面白かった。

アレは孫のことをよく自慢した。

わしが魔王のことを孫のように思っていると言ったのは、アレの話していた孫というものの感情と同じであると思ったからだ。人間の孫という感情と同じであると思ったからだ。

わしには本当の血の繋がった孫もいるが、その孫にはそんな感情はなかった。


最後に話した人間は、若い男だった。

死にかけだった。わしに向かって、早く殺せ、と言う。

それからわしが中々殺さないでいると、その男は何故か知らんが、ポツポツと話し出した。

家族はいない、親友や、好きな女がいるのだと。

そして何故か、聞いてくれてありがとよ、と言って死んでいった。


わしは、最後に話した人間が死んでから、思わず人間という生き物を好きになりかけた。

優しい生き物なんだと思った。


魔族だって家族、友人、女を、大切にしているさ。

でも、とても深い深い愛情、優しさを持っている魔族は少ない。

人間っていうのは、そういうのを当たり前に持っているんだ」


「深い深い愛情? 優しさ……?」


「うむ、少なくともわしは魔王を、そのくらい大切に思っている。

そうだなあ、リースも魔王のことをとても慕っているだろう?

分かりやすく、目に見えるように言えば、そういうことだ」



しばらく話を聞いていて、夕方になりかけた頃、おじいは言う。


「こんなに話したのは久しぶりだ。

お前は、コトリは、話を聞くのがうまいな」

「ハイ」

「また来い。またたくさん話してやる。それとも疲れたか?」

「いいえ、私は話を聞くのが好きなのです」

「ならいい。しかしこんな時間になってしまったからな。コトリが叱られないように、しっかりわしの話を聞いてくれたのだと1つ書いてやるから、それをリースに渡せ」

おじいはそう紙に書いて渡してくれた。


「ありがとうございます。たくさん話が聞けて楽しかったです」

私がそう言って笑うと、おじいも嬉しそうに笑った。



それから、私はまた遠回りして、隠し通路を確認しながら戻った。

これで魔王城の半分は確認が終わった。

結果、2つ隠し通路を見つけた。


リース様におじいの書いてくれた紙を渡すと、リース様は苦笑した。

「そうねえ、確かにコトリはよく話を聞いてくれるからねえ」



夕食、ピリカと一緒に食べているとピリカにも言われる。

「おじいは話長いからねえ。私も何度かおじいに差し入れ行ったことがあるけど、途中眠りそうになっちゃったよ、フフッ」

「そ、そうなんだ、アハハ……」

「ねえ、コトリ、今日の夜って時間あるかなあ?

相談したいことがあるんだけど……」

「全然いいよ?」

「ありがと!」



夜、私の部屋にピリカがやって来た。

私はお茶を入れた。


「それでどうしたん?」


「あのね、私、とんでもないことを聞いてしまったの。

夜、トイレに行こうとして、廊下を歩いている時だった。

面倒くさくて、灯りを持っていかなかった。

どこからか声が聞こえて、何人かで話しているようだった」


ふむふむ。


「その話の内容がね…………、魔王様を殺そうとしているみたいだったの……」


ええぇ……。

マ、マジかあ…………。


「え、ええっと、なんて言ってたの?」

「人間と共存するなんてあり得ない。

魔王の考えることは意味が分からないって。

新しい王を立てるべきだって。半年後に仕掛けるって……」


は、半年後…………。


「数人っていうのは、何人かなあ?」

「ハッキリとは分からないけど、5人くらいだったと思う」


「誰が言っていたのかなああ?」

「暗くて姿は見えなかったし、声だけだったから」

「そっかあ」

「でも、どこかで聞いたことがあったような……。うーん…………。

ああ、リース様と話していた魔族様の声に似ている。

なんか、嫌味ったらしいことをリース様に言っていたんだ……」


上級魔族のリース様に嫌味を言えるってことは、そいつも上級魔族に違いないな。


「リース様に嫌味を言えるってことは、その魔族もきっと上級魔族様だと思う」

私がそう言うと、ピリカは言う。

「私、上級魔族様は、リース様とおじいしか知らない」


ピリカは迷ったように聞く。

「リース様に言った方がいいのかなあ……?」


リース様は魔王様の反対勢力の存在自体は知っていた。

確かに、リース様に言えば、半年後の魔王様の殺人はとめられるかもしれないな。


でも、今私がピリカにリース様に言った方がいいと言ったら、この世界は変わってしまうかもしれない。

私はあまり口出しするな、と言われた。

その世界のことを変えるようなことはしないようにと。

私の報告の後に、こちらで決めるから、と。


「ピリカ、これは聞いてしまったピリカが、どうするか決めたほうがいいと思う」

「そっかあ、うーん、どうしよう……」

「けど、この秘密は絶対に守るし、また何か話したいことがあったら何でも聞くから」

「ありがとう、コトリ」

「ウウン、あんまり力になれなくてごめんね」


その後は少し雑談をした。

「コトリは何でメイドになろうと思ったの?」

「魔王城のメイドって憧れだし、私もなりたいと思ったんだ」

そう適当なことを答えると、ピリカは言う。

「あのね、私実は秘密がもう1つあるの。

私はこの魔王城で暮らしていたんだ。

この魔王城の魔族様が、倒れていた私を助けてくれて、身寄りがない私をここにおいてくれたの。それで、ここのメイドになりたいと思って試験を受けたんだ」

「何で秘密にしてるん?」

「だって、私みたいな下級魔族が魔王城で暮らしていたなんてとても言えないよ」

「なるほど。それより、何で倒れてたの?――――」


しばらくして話してから、ピリカは自室に戻っていった。


(コトリとたくさん話せて楽しかった)


ねえねえ、ピリカさん、貴方大切なことをスッカリ忘れてやいないでしょうねえ??



◇◇◇



4日目。


朝食をノードさんに届けに行く。

ノードさんは今日も私に話しかけてくる。


「――もう僕はクタクタだよ」

「大変ですねえ」

ノードさんはマイナス思考に入ったらしい。

「もう、やってられないよお」

「ええ、ええ、そうですよねえ」

私はとりあえず相づちをうっておく。


「ああ、僕だって好きで魔王様といるわけじゃないのに、悪口とか言われてるんだよ」

「ノードさんが頑張ってるって分かっている魔族もたくさんいますよ?」

そう慰めてから、ふと、反対勢力のことを思い出す。

私は聞いた。

「誰かが言っていたんですか?」

「皆だよ。何度も聞いてきたよ。僕に悪口を言うのは2種類だ。

魔王様に不満を持っている魔族か、魔王様を慕っている魔族だよ」

「真逆ですね」

「うん。不満を持っている魔族は、魔王様やその周りの上級魔族様には言えないからって、僕に当たってくる。魔王様を慕っている魔族は、魔王様にお前は相応しくないと嫉妬して言ってくるんだ」

「なるほど」


「でもまあ、前者の方は本当に怖いよ。

一応、魔王様は牽制してくれているし、上級魔族様たちには守ってもらっているけど、ていうかそうでなかったらとっくに殺されてるけど……」

マジか……。

「魔王様は弱い者を助けようとしている、つまり魔王様に不満を持っているのは強い者ばかりなんだよおお! 過激なんだよ! 凶暴なんだよお!」

「なるほど」

「僕は思っているんだよ、絶対にいつかアイツらは、本気で魔王様とその周りの魔族たちを殺しにかかるって。きっともうその反逆の計画はしているんだ……。あ、もしかして、その計画立てるのに、僕は誘拐とか拷問とかされて、吐かされるかもしれない。ああ、僕はきっと1番最初に殺されるんだあああ」

「お、落ち着いてください……!」


しかしながら、そんなことない、とは言えないのである。

昨日のピリカの話では、確かに、半年後に魔王を殺すという計画があるのだ。

そして、ノードさんが誘拐、拷問される、という可能性も無きにしも非ず……。


上級魔族様に言ってみたらどうか、とアドバイスをしたい。

けどダメだろう。

私からリース様に言ってあげたい。

けどこれも、きっとダメ。


ノードさん、自分から上級魔族に言おうって考えて、実行しないとダメなのですよ! 頑張って!


その後、なんとかノードさんは気持ちを落ち着かせた。

「怖い。恐ろしい。呆れられるかもしれないけど、上級魔族様に一度言ってみようかな」

「ハイ、いいと思います」

これくらいの肯定ならいいと思う!



それから午前中の掃除の時は、またゴミ捨ての時私が行くと言って、魔王城の中を見て回った。

魔王城の4分の3くらいは隠し通路がないか確認できた。



午後、ティータイムの準備をする。

今日は先輩メイドさんのお手本を見学する。

上級魔族に持って行くらしい。


私は聞き耳ピアスのスイッチをオンにした。

(聞き耳ピアス:半径500メートルの会話に聞き耳を立てることが出来るピアス)

そして思考が読める角の機能をオフにした。

思考を読むのと、聞き耳を立てるの同時には難しい。


今はまだ準備支度の最中で、周りにたくさんのメイドがいるため、多くの声が聞こえてきて、思わず頭を抑えた。

説明してくれている先輩メイドさんに、私はなんとか、何でもないように頷く。

そして廊下に出て、メイドたちがそれぞれの担当場所へと向かうのに散り散りとなると、ようやくホッと一息ついた。


廊下を進んで部屋のドアを通り過ぎる度に声が聞こえてくる。

先輩メイドさんと会話をしているが、今はそれほど困難に感じない。

きっと部屋に入ってからは、先輩も話しかけてはこないから、集中して話が聞けるだろう。


部屋につくと、先輩の後について入った。


上級魔族は3人いた。

3人とも男性、上級魔族だけあって、どこか品がある。


先輩が紅茶を入れるのをしっかり見学する。

そして先輩が後ろに控えるのに倣って、私も後ろに控える。

やはり、普通ではこの距離から会話は聞こえない。

しかも3人は普通では聞こえない距離でありながら、さらに声を潜めて話している。

しかし今の私には聞こえるのだなあ。


「――人間との接触の計画だが、どう思う?

まあ、もう少し魔族たちの人間への認識を変えてからだろうが」


「確かに魔族たちの人間への認識は変えなければならない。

しかしそれはもう時間の問題だと俺は思っている。

今の段階で、秘密裏に人間の王と接触して、話し合いの場を設けるのがいいだろう。

それが一番難しいのだから早めに取りかからなければなければならない。

認識の変革、人間の王との接触、同時に行うことがいいと思う」


「なるほど。それは一理ある。

明日の話し合いまでにまとめておこう」


真剣に人間のことについて話をしていたのだった。

思考を読むことができないから本当の気持ちは分からないが、この3人は人間に対して敵対心がないようである。

敵対心がないというより、完全に仕事と考えている、というか……。


そうしてしばらく話していると、雑談のような会話になっていった。


「最近、あまり眠れていない」

「俺も」

「同じく」

ここにノードさんもであると付け足しておこう。


「しかしこれは成功させなければならないからな。

魔王様のためにも。俺は正直人間とどうなろうとあまり関心はないが、魔王様のためだと思うとやりがいはある」


「俺は案外こうやって考えて働くのが楽しい。大変ではあるが。

力が全てだという頃よりもずっと、自分らしく生きていると感じる。

きっと魔王様の目指す世界は、俺の理想の世界でもあると思うんだ」


「……俺は、今はまだ声を大にして言えないことではあるが、人間に興味がある。

人間の国に行ってみたい。人間と仲良くなりたい」

「へ?」

「正気か?」


2人の反応は、先ほどまでの議論をしていたとは思えないものであった。

ウン、さっきまでどうすれば人間と共存できるか、あんなに真剣に話し合っていたよねえ?

なんで、人間と仲良くなりたいと聞いてそんな反応をするんだよお。


「人間について調べていくうちに、どんどん人間に興味が出た。

文化、価値観、物語、きっと人間の世界はここにはない娯楽で溢れている」

「ほう」

「確かに、興味深いものはあったな」



私は今日、この3人の会話を聞いて思った。

魔族たちが人間との接触の計画がある。

人間たちはどう反応するのだろうか……?


人間のことを調べていくうちに人間に興味を持った魔族もいた。

おじいは、人間と共存する考えは魔族には分かりっこないと思考していたが、案外そうではないかもしれない。


私は近くにいるメイド仲間たちに聞いてみる。

「皆は人間についてどう思う?」

「んー? そりゃ、あまり良くは思っていないよ。

小さい頃から人間は敵だって言われて育ってきたんだから。

でも、魔王様が人間と仲良くしろというのなら、仲良くするよ。

それでイヤな奴らだったら、やっぱり仲良くしたくないけど。

「そうだねえ、私もそう思うよ」

「だよねえ」

「うーん、人間ってどんな奴らなんだろう?」


人間との共存を理解するのは確かに難しいかもしれないけど、いつかきっと理解できるんじゃないかなあ??



夜、私は透明になれる札をおでこに貼って透明になって、魔王城を歩き回った。

もう、今日で魔王城の中の隠し通路がどこにあるかの確認を終えてしまおうと思ったのだ。

ちなみに暗くても、このメガネならバッチリ見える。

そして大体確認が終わった。今回は1つ隠し通路を見つけることができた。

結果、全部で3つであった。



◇◇◇



5日目。


魔王城の中の確認は大体終わった。

そう、大体。

確認していない場所、確認はおろか、近づくこともしていない場所がある。

それは…………魔王城の中央棟、最上階、魔王様や上級魔族の部屋がある場所である。


もちろん、そんな場所でも、担当しているメイドはいる。

ベテランだけど……。

メイド服のデザインに変わりはないから、目立つことはないと思う。


きっと、このメガネで見れば、隠し通路以前に、何かいろいろな秘密が見えそうな気がするのだ。

まあ、案外、何もないこともあるかもしれないけど……。

ただ、通り過ぎるだけである。ただ、それだけ。

声を掛けられたら、道に迷ってしまった、とでも言えばいいのではないか?

新人だし。無理かな……。


今は、ゴミ捨てが終わった帰りである。


「いっちゃおうかなあ……??」


私は小さく呟いた。

その時であった。


『――オイ! さすがにやめておけ』


「へあ!?」


私は驚いて思わず声をあげた。

どこからか声が聞こえてきたのだ。

それも、普通に聞こえたのではなくて、なんだかこもったような聞こえ方だった。


『ちょ、静かにッ……!』


「だ、誰?」

私は小声で聞く。


『俺もお前と同じ日本人のバイトだ』


私は納得した。

「ああ、そうなん?」

『とりあえず、いつも通り戻れ』

「分かったよお」


私は素直に従った。

小声で聞く。

「もしかして、ずっと監視してたの?」

『ウン』

だったら、もっとアドバイスとかして欲しかったのだけど!

『もう口出しはしないから』

「ええー」

そういう約束なのねえ。

『今回は初めての任務、それも魔王城だから、特別だったんだ』

「へ? 初任務が魔王城って、もしかしておかしい……?」

そう聞くと、もう返事はなかった。

私は愕然とした。


ど、どゆことおおおおお!!!??



午後のティータイムの時間、昨日と同じ先輩メイドさんについて見学をした。

そして魔族も昨日と同じ3人であった。

聞き耳ピアスで会話を聞いて、録音した。

昨日と同じように熱く議論していた。

人間への接触の計画は、まだまだ、まとまりそうにないらしい。

それから、昨日の人間に興味がある言って魔族から伝染してか、あとの2人も少し人間に興味がでてきているようだった。


――――

――


夜、私は透明になれる札をおでこに貼って、魔王城の隠し通路前にやってきた。


気配察知魔道具(アンテナのついた小さな液晶板)を巾着から取り出す。

これで、近くに魔族がいないか確認できるのである。

気配察知機能をオンにする。

……ふむ、いないようである。


今度は、魔術による封印術を打ち消す杖を取り出す。

それをかざして、心の中で言う。


(封印よ、解けろ!)


杖から出た光でその壁に魔方陣が描かれる。

その光が徐々に強まっていく。

私は思わず、足を踏ん張った。

結構な威力で、飛ばされそうなのである。


そして遂に、小さな爆発が起きるのだった。



うそーん…………



私は軽く吹っ飛び、髪も服も軽く焦げた。

透明になれる札も飛んで、透明化もとけた。


しかも、誰かが近寄ってくる足音がする。

私は急いで巾着から、札を取り出しおでこにペタッと貼った。


2人が何事かとやって来たが、誰にも私が分かっていないようである。

メガネで強さを図ると、中級魔族が2人である。


この透明のままで上級魔族とすれ違うのは恐ろしいぞ……。


私は自室に急いだのだった。

メイド服は念を入れて5着用意しておいたので良かった。

てかそれは良かったけどさあ、メイド服と寝間着しか持ってないって……。

普通に動きやすい服、持ってくるんだった……。


幸い怪我はかすり傷程度で、髪はまあ、多少切ったがバレない程度であろう。


見つけた隠し通路はあと2つ。

ああ、もうイヤァァ!!



その後すぐに1つの方に向かった。

しかし、失敗して軽く吹っ飛んだ……。

失敗というか、この魔道具では解けないほどの魔術なのだろう。

失敗ではない。ウン、決して失敗では……。


もう、次だ次ッ!

次で最後だ!!

軽く焦げたメイド服や髪をそのままに、雑に札をおでこに貼ると勢いで向かった。



私は隠し通路の前に立つと再び、周りの気配を確認し、封印術を打ち消す杖を取り出した。

(封印よ、解けろ!)

光の魔方陣が現われる。

光が徐々に強くなる。

今度はどうだろうなあ。無理かな。開いたとしても、入るのイヤだしなあ。


――それは開かれたのだった。


地下になっている。

下に続く階段がある。

私はそこに入って階段を下っていった。


3階分くらい下ったかというところで、部屋に辿り着いた。

その部屋には鍵が掛っている。

私は巾着からクラゲを鷲づかみして取り出す。これも魔道具である。

鍵穴にくっつけると解錠してくれた。


部屋に入る。

その部屋には、文献やら、ツボやら、色々なものが乱雑に置かれていた。

ふむ、なんかコレ、結構貴重なんじゃないの?

私はカメラを取り出すと、それらを撮り始めた。

このカメラは物体を詳細に鑑定、記録できる魔道具である。

文献などはメガネの記録機能で1ページ1ページめくって記録した。

こ、これは結構地道である。

何かいい魔道具はなかっただろうか……。

巾着の中に入っている魔道具は、全部把握しきれていないので、今度本を記録できる魔道具なんかがあるか探しておこう。


そうしていて、記録していた時である。

ふと、ドアが開いたので、私はバッと振り向いた。

隠し通路の場所は入ってからちゃんと閉じてきたはずである。


「……ただの、メイド?」

そこにいたのは上級魔族であった。

スーツにメガネの、貴族のような風貌の、明らかに頭の良さそうな魔族である。


ヤ、ヤバッ……!!!


私は何も考えないまま、スカートに手を突っ込み、太ももに仕込んでいたナイフを投げつけた。


「そんなものじゃ――――」


上級魔族は、軽く飛んできたナイフを二本指で挟んで止めるが、そのナイフの柄から出たどす黒い縄がその指を絡め取る。


「何ッ!? 魔力が吸われて…………」


そして縄が伸びて上級魔族の身体を雁字搦めにするのだった。


「ど、どんなプレイだよ……?」

そんな状況ではなかったが思わず突っ込んだ。


「あと2つの隠し通路に入ろうとしたのもお前か!??」

私は答えない。

徐々にその上級貴族は朦朧とし始めている。

その前に……!!


「魔王様ってどんなお方?」


そう聞くと、上級魔族は眉間にシワを寄せたまま怒鳴り散らす。


「誰がこんな怪しい奴に言うか!!!」


(魔王様は強く、賢い方だ。

俺は人間と共存することに同意している。

素晴らしい考え方である。

しかし魔王様の心内には葛藤がある。

人間に対しての色々な思いがあるのだ。

今はそれよりもコイツは一体何者だ!? 魔王様の敵なのか!?

まさか反対勢力の……? それ以外に考えられん!

クソッ! こんなところで魔王様の邪魔をされるわけには……!!)


その後、上級貴族は意識を失ったのだった。


私は作業の続きを始めた。

もう3時間ほど経った頃、ようやく終わった。

量はそれほどなかったし、物に関してはすぐに終わったが、文献などは1ページ1ページめくるだけで記録されるとはいえ大変であった。

量が多かったら絶対に終わらなかったな。


私は巾着の中から、記憶を消す魔道具を取り出す。

それは小さな液晶板と、タコのような形の大きな吸盤が、短い接続線で繋がっている形をしている。

そして放置されている上級魔族の頭にキュポッと吸盤くっつけると、液晶板から流れる映像・音声、まあ、この上級魔族の記憶なのだが、この部屋に入って私を見つけた記憶を消すのだ。

ああ、何か私、今とってもヤバいことをしている気がする……。

イヤ、気がするではなくて、絶対ヤバいよおお。


ちなみにこの記憶を消すのもヤバいけど、あのナイフも超絶ヤバい代物なのだった。あと1つしかない。とても貴重だからと言っていた。

確かに、上級魔族を封じることができるくらいだからねえ。


フウ、部屋に戻るかあ。

長い夜だったなあ。

地下から上がると、陽の光が出始めていた。

私は急いで戻ったのだった。


ああ、寝不足。

巾着から栄養剤を取り出して飲んだ。

うぅ、効くぅぅ!!

疲れが吹き飛んだあ。

でも、とっても危険な味がするよおお。

副作用とか、大丈夫なん??



◇◇◇



6日目。


朝食をノードさんに届ける。


「結局、上級魔族様に言ってみたよ。

反対勢力は絶対いつか仕掛けてくるって。

僕は真っ先に狙われるって。そして一番最初に殺されるのだと。

もしかしたら、浚われて拷問される可能性もあって、そうしたら、僕は忍耐強くないから、きっとペラペラ話してしまうって。

だから守って欲しいって」


そっかあ、言えたんだね、ノードさん……!

でも……、なんつう言い方よ!?


「それで何て言ってました?」

「やっぱり呆れられたよ」

でしょうね……。

「でも、詳しくは言えないけど、ちょうどそういう話があったらしくてね。

分かったって言ってくれたよ。誰であるのかも検討はついているみたい」


(半年後に仕掛けると話していたのを、夜トイレに起きた下級魔族のメイドが偶然聞いてしまったと言っていたなあ。そして反対勢力のトップは執事長であると言っていた)


ピリカも、ちゃんとリース様に言ったんだね……!

良かった……。


――――

――


午後、ティータイムの時間、今日はおじいの差し入れに行くように言われた。


「差し入れです」

「お、コトリか」


この前と同様、おじいに並んで私も軽食をいただく。

そして、おじいと話をする。


私は聞く。

「――魔王様は昔から、弱い魔族を助けて、人間と共存する、という考えをお持ちだったのですか?」


おじいの思考を読んだときに、『あのこと』が原因でそういう考えを持ったのだと分かった。私は『あのこと』とは一体何であるのか気になっていたのだった。


「いや……、魔王は昔、初めてできた友のことをよく話してくれた」


(――――…………)


「わしはその魔王の友に実際に会ったことはなく、魔王から聞いただけに過ぎないが、その友がきっかけで魔王は変わった」


(――――…………)


おじいの今日の口数は少ない。

ほとんど話してないといえる。

しかし、思考が読める私には分かったのだった。



「おじい、今日も話を聞かせてくれてありがとうございました」

「また来い。今度こそたくさん話してやるから」

「ハイ」

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